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アンノウン  作者: ラウス
7/21

人からの厚意はありがたく受け取りましょう

長らくお待たせしました、すんません

「代理人さあ」

「何でしょう」

「この村に来る前はどんな生活してたの?」

「そうですねー……、王都でいろんな人の好意を受けてこの世界の知識を蓄えたりお金を貯めたり色々です」

「ふーん、王都かー、行ってみたいな」

「行ったことないんですか?」

「うん、兄貴は何回か行ったことあるらしいけどアタシは無いな」

「へー、でもまあその内機会があるでしょう」

「そだね」




*****




 エステアの科学は非常に中途半端である。

 と、いうか地球出身の代理人から言うと「何で?」っていうようなおかしな進歩の仕方をしてるのだ。

 例えば、よく漫画であるようなものすごいスーパーコンピューター以上のスペックを持ったパソコンがあるのにインターネットが無いとかTVゲームが一部の金持ちで嗜まれてるとか、なのに空調設備は扇風機も無い絶望っぷり、原子や分子、微生物に関しては存在自体知られてない。


 いや、知られてなかった。過去形な理由は、空調設備も原子も分子も微生物も全部天才科学者、ハーリック・ワーカーズが開発・発見したからである。


 ……と、言うのは建前で、実際はハーリックはそれほど優れた科学者ではなく、【虚偽遣い】たる代理人の入れ知恵なのだが……。そんなこと知らない一般の人は、素直にハーリックを天才科学者と褒め、科学博物館を練り歩くのだ。


 そんな一般客の中に世界最強ことリリス・レッドバードは混じっていた。


 理由はただ単に魔法学校の遠足の護衛で、ついでに科学博物館を周ってるというだけだが、彼女は完ぺきに周囲の注目を集めていた。


 この世界でも珍しい真紅の長髪、絵画から抜け出たような類まれなる美貌、身体から滲み出る世界最強の風格。


 胸が無いのが残念だが、男女問わず彼女に見惚れていた。


 が、リリスはまるで気にしてない。慣れてるから。


 敵意は感じないし害意もない、ほっといても大丈夫だ。


「おっかしいなー……スズちゃん何処行ったんだ?」


 赤い麗人は首を傾げた。先ほどまで茶髪の美幼女、スズと一緒に色々なものを周ってたのだが突然はぐれてしまった。

 しょうがない、今科学博物館にはたくさんの魔法学校生がいるし、先生もいる、よっぽど変なとこに行かない限り自然と魔法学校の誰かに出会うだろう。


 そう思い、何処に行こうかと館内案内図を見ようとしたリリスの耳にアナウンスの声が聞こえた。


『ピーンポーンパーンポーン、ただいまより三十分後、西館四階の広間で科学者ハーリック氏の演説、および新技術のお披露目を致します、ゴミ虫のように群がれ愚民共』

「…………」


 酷いアナウンスだ、とリリスは……いや、このアナウンスを聞いた人はみな思っただろう。

 まあでも、ハーリックの演説や新技術に興味がある。人の波は西館四階に向かって流れて行った。


 そんな中、リリスも人の波に漏れずに西館四階に向かった。


「あ! リリスおねーちゃん!」


 雑踏の中、小柄な身体ながらも上手く人をすり抜けてリリスに歩み寄ってくる影が一つ。


 スズである。チリンチリンと髪留めに使ってる鈴を鳴らしながらリリスのもとへたどり着いた。


「よかったー、合流できて……おねーちゃんの髪の毛のおかげだよー」

「はは、もうはぐれちゃだめだよ」

「うん!」


 そう言ってリリスはスズに手を差し出し、スズはそれを取る。


 傍からみたら仲のいい姉妹のようだ。


「おっと、ここが四階か」


 気づけば二人は西館四階広間に着いていた。


『えー、開始まであと十分ほどです。とっとと集まりやがれゴミ虫ども、八つ裂きにされてーか』

「……酷いアナウンスだね」

「……て、いうかどっかでこの声聞いたことがある気がするんだけど」


 えーと、放送席は何処かなーっとリリスは魔法で視力を強化する。


「…………は?」


 リリスは目をこする。こする。こする。こする。見る。


 放送席と銘打たれた広間の一角にあるガラスで区切られたスペースにいるその人物、リリスもスズも見慣れた中性的を極めたような男か女か全く区別がつかない顔、リリスの赤髪より珍しい黒髪黒目、あちらもリリスたちに気づいたらしく、サムズアップ。


 いや、


「何やってんだよ【虚偽遣い】!」

「うわっ!? どうしたのいきなり大声だして……?」

「……あそこ……」


 ピッと人差し指で放送席を指差す、スズはそっちを見て、目を細める。


 魔法を使わないと結構見え辛い距離なのだ。


「あ……おにーちゃんだ……」


 流石は魔法学校のライホウ試験トップ、視力は人並み以上にあるようだ。


 ……とまあそんなふうにリリスとスズが困惑してる中、代理人は放送室でマイクを手に取った。


『では、ステージをご覧ください。稀代の天才科学者、ハーリック・ワーカーズの登場です!』


 ワッと歓声が沸く。広間に作られた学校の学芸会の時に使うようなステージの端から白衣に身を包んだ眼鏡の微イケメン、ハーリックが出てきた。


「さて本日は――」


 ハーリックの演説が始まった……が、長いので省略させていただく。



 そして三時間後。

 リリスはステージが終わったのを見計らって放送席で声高々に叫んだ。


「何でここにいるんだよ! 代理人!」


 バキッと軽快な音を立てて放送席の机が割れた。

 リリス、もうちょい手加減してくれ。


「……仕事ですよ、仕事。この科学館の関係者にアナウンサーが病欠したから代理してくれって言われたんですよ」

「あ、なんだ、そうなの」


 軽っ、すごい形相だったのに即効でいつもの顔に戻った。


「おにーちゃん、じゃあこれで仕事終わりなの? じゃあいっしょに回らない?」


 スズからの提案。代理人は首を横に振った。


「まだ仕事残ってますから、すいません」


 そっかー、と残念そうにスズは俯いた。


「帰るのも別々になりそうなので、まあ、ランド村で逢いましょう」

「うんわかった」


 リリスが頷いたとき、タイミング良く(?)白衣の男性が入ってきた。


 いわずとも、ハーリックである。


 突然の大物の登場に固まるリリスとスズに、ハーリックは「ああ」と呟いてからこう言い放った。


「初めまして、【虚偽遣い】のご友人ですか? 僕はハーリック、【虚偽遣い】の彼氏候補です」


 代理人の拳が天才科学者の顔面に吸い込まれていった。


全ては夏休みの宿題が悪いんです

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