名前とはただの記号です
二か月経ってるウううううううう!
マジですいませんでした
戦闘シーンむずい
「なあ、代理人」
「何ですか? リリスさん」
「そろそろアタシに敬語使うのやめないか?」
「嫌です」
「でも……」
「嫌です」
「ちょ」
「嫌です」
「…………」
「…………」
*****
そういえば、【真偽遣い】のもう一つの二つ名は【武器遣い】【無限武装】だったはずだが、【真偽遣い】の装備に武器は見られない。
黒いタンクトップに迷彩柄の短パン、短パンにはポケットが幾つかあるがナイフなどの武器が仕込まれてる様子は無い。
どういうことだろうか、と代理人は思考するが、その暇なく、青い殺人鬼は動いた。
腰に収めた刀の柄を持ち、一直線に【真偽遣い】に向かって突貫。
それに合わせるようにして【真偽遣い】も駆けた。
「――織紙」
何が起きたのか、何があったのか、何をしたのか。
代理人には、全く理解、視認できなかった。
トス、と軽い音を立てて、殺人鬼の持っていた刀の刀身が草原に突き刺さった。
「な……!」
「吹き飛びな」
【真偽遣い】の前蹴りがジャックの腹に入った。
その威力は凄まじく、青い殺人鬼は宙を舞った。
「くっ……」
しかしそこは流石戦闘のプロ。
蹴りが当たる寸前に後ろに跳んでたのか、殆どノーダメージな様子で態勢を立て直した。
「……へぇ」
【無限武装】、あながち見当違いな二つ名じゃないようだ。
「この世界のありとあらゆる物質を武器として戦う――そんな戦闘スタイルから名付けられた名前だよ」
と、【終着地点】は代理人に説明した。
成程、わかりません。
と、【余剰部品】は答えた。
「まあ――」
「全く――」
「嘘ですけどね」
「真実だぜ」
互いに決め台詞を言い、顔を見合わせた。
代理人は微笑み、【真偽遣い】は爆笑した。
「ぷはははは……、嘘なのかよ」
「真実でもないでしょうよ」
パァン! と、風船が破裂したような音が鳴った。
シャリン! と刃物が擦れる音が響く。
「戦闘中におしゃべりとは……余裕だな……!」
ちなみにさっきまでの掛け合い、全てジャックと乱戦をしながらの会話である。
「おしゃべり好きなんだよ!」
【真偽遣い】が放った蹴りは魔力で構成された青い刀で止められた。
しかし、代理人がちょい、と青い刀を触ると、パァン、と刀は弾けた。
「ふっ……!」
刀が無くなり、無防備になった殺人鬼の顔に【真偽遣い】の拳がヒットした。
「ぐ……」
「てい」
顔を殴られたことで一瞬視界が潰されてたジャックの腹に、ナイフが突き刺さった。
代理人の隠し武器の一つである、流麗なフォルムのナイフである。
「……! ……蒼龍の結界刀」
ジャックが呪文を唱えた刹那――ジャックを中心に蒼い刃が360°隙間もなく発射された。
「魔法なら効きませんよ」
パァン! と音を立てて消え去る蒼い刃。
如何なる魔法も代理人には無力である。
「判ってるさ」
もう一発、蒼い刃がジャックを覆い尽くした。
魔法の使用者はその魔法でダメージを受けない。
故に【真偽遣い】の唯一の弱点は魔法である。
反射しても利用してもダメージが通らないからだ。
魔法の連射に思わず【真偽遣い】はバックステップで距離を取った。
一方代理人は魔法を打ち消そうと手を伸ばし、
無防備の腹に、蹴りが入った。
「な……――」
いきなり歪む視界。
一瞬、青空が見えたと思ったら、すぐに視界は変わり、自分がコンマ数秒先にぶつかるであろう地面が見えた。
そこから先は――眼を閉じた。
「がっ……」
軋む、身体。
蹴り自体は致命傷に至るほどの威力は無かったが、地面に打った場所が悪い。
後頭部、脊髄、その二つに大きな衝撃が走っている。
ガンガンと頭が鳴る。
死への警報が止まらない。
それでもなんとか立ち上がろうと、痛む腕で身体を起こし、霞む眼で前を見た。
――そこに代理人の使っていたナイフを振り上げた殺人鬼がいた。
「死ね――」
真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに代理人はそのナイフの切っ先を見た。
徐々に迫ってくるそれを眼で追うも、身体が動かない。
動かせない。
自分の眉間までの距離残り数mmまで近づくまで、ずっと動かずに見ていた。
見ていたそのナイフはそこから見えなくなった。
根元からぽっきりと、折れてた――否、
切れてたのである。
「馬鹿な……!」
殺人鬼が呟く。
それは私のセリフです。
と、代理人は口まで出かかったセリフをすんでのところで止めた。
しかし、【無限武装】。ここまでチートだとは思わなかった。
|草原に生えてた小さい笹状の草を投擲して鉄製のナイフを切るとか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。
人外、つうか、論外だろ。
「言ったろ? この世界にある全ての物質は――俺の武器だ」
続けて2度3度と草を放ち、ジャックを後退させた。
その隙になんとか代理人は動き、【真偽遣い】の元へ。
「全く、かっこつけすぎですよ【終着地点】、思わず惚れるところでした」
「ふっ……俺に惚れたら火傷するぜ?」
「後悔はしますね」
軽口を叩きあうも、ジャックへの警戒は怠らない。
【真偽遣い】は地面から草を数枚引きちぎり、代理人はナイフを取り出した。
「さて、そろそろ幕引きですかね」
「ん? なんだ、切り札でもあるのか?」
ええ、とっておきがね。
と、代理人は身体を不自然な方向に曲げたり、身体を指圧し始めた。
そのたびに鳴る、カチ、カチ、という音。
「……何してるん?」
「ロックを外してるんですよ」
カチ! と一際大きな音が鳴って、代理人は両手を上にあげ、腰を大きく反った態勢になった。
「おい、……まさか」
代理人が何をするのか解ったのか、ひきつった笑みで代理人を見る【真偽遣い】。
「はい、そのまさかです。さあ、レッツゴー」
「畜生覚えてろ!」
手に持ってた草を投げ捨て、【真偽遣い】は駆けた。
殺人鬼、ジャックの方向に、である。
当然、それを撃退すべく、ジャックも蒼い刃を右手に宿し、突貫。
黄と蒼がぶつかり合うであろうその中間地点に、
「よっこい……せ!」
代理人は、ナイフを投げ込んだ。
代理人の隠し武装のナイフ、総数153本。
その、全てを。
「うぅぉおおおおおおおおおお! どんだけ隠し持ってたんだよあのやろおおおおおお!」
「【無限武装】でしょうが! たかが150とちょっとのナイフくらい使いこなしてくださいよ!」
「あれは比喩だよ、ハッタリだよちくしょおおおおおおおおお!」
叫びながら、黄色と蒼は衝突した。
眼にもとまらぬ速さで剣戟が繰り広げられ、刹那、スライディングで【真偽遣い】がジャックの脇を抜けた。
トストストストストストストストス、と、小気味の良い音を立ててナイフが草原に突き刺さる。
そして、【無限武装】は倒れ込むように草原に横たわった。
「あー、畜生」
【真偽遣い】が呟く。
まるで勝負に負けたように。
「121本しか使えなかった、まだまだだなぁ、俺も」
朱い、どこまでも赤い血が、殺人鬼の全身から噴き出た。
ようするに、代理人たちの勝利である。