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アンノウン  作者: ラウス
20/21

人を愛するということ

もういっかげつにいっかいのこうしんってたぐつけたほうがいいきがしてきた


くそ! なんて時代だ!

「リリスさんって誰かを愛したことがありますか?」

「ん? 現在進行形でいるぜ?」

「へえ、ふぅん、若いっていいですね」

「代理人も充分若いじゃねえかよ」

「実は私見た目は大人、中身は老人なんですよ」

「嘘吐け」

「嘘ですよ」

「代理人は誰かを愛したことがあるのか?」

「ありますよ」

「嘘?」

「嘘です」






*****






 エステアの隅の隅のまたまた隅。

 そこに人に忘れ去られた村がある。


 名をロクロウ村というその廃村は、二人の殺人鬼によって、殺された。

 木っ端微塵に、圧倒的に、欠片の容赦もなく、欠片の情けも無く、同情の余地も無く、殺され、殺され、最期の最後まで殺された。


 村を殺した二人の殺人鬼の名は――ジャックと、スズ。


 先天性殺人鬼の妹と、後天性殺人鬼の兄の物語ストーリーを語るのはまた今度の機会にするとしよう。


 そう、殺しを非日常としたまま殺人を三大欲求かの如く行う《本物》の妹と、

 殺しを日常にしてしまい、殺すことを目的にしてしまった《偽物》の兄の噺など、語りだしたら止まらないのでやる意義が無い。


 この物語ストーリーはあくまでも無意味に嘘を重ねる嘘の遣い手の物語なのだ。


 しかし彼――彼女かもしれないが――は二人の殺人鬼の物語ストーリーを始めても、柔和な笑みを浮かべて、全てから目線を逸らし、こういうのだろう。



「どうでもいい」



 嘘だけど。






*****






「殺人鬼。殺人鬼ね、はい」


 絶対死ねない・・・・代理人からするとわりとどうでもいい肩書だが、問題はその殺人鬼の戦闘方法だった。


 刀。つまりは近接戦闘。


 ライホウや魔法などの魔力を使った攻撃には無敵といっても過言ではない――いや、唯一強化魔法だけが代理人に有効な魔法だ――防御力を誇る代理人は、言ってしまえばそれ以外に弱すぎる。


 暴力と殺人の世界を渡り歩く、本物の暴力者には決して敵わない。


「嘘じゃないですよ……」


 呟く。


 嘘かも知れないのに。


 嘯くように、呟く。


 トン、とジャックが刀の上から跳ねた。


 時間の流れが遅く感じる。

 ジャックはゆっくりと、空中を降り、地面に立った。


 ――刹那。


「――――っ!」


 パパパパパパパパパパパパパパパパパパパン、と幾つもの風船が爆ぜるような音が鳴り響いた。


 銀色の魔力刃が何本も何本も代理人に衝突し、弾き消えた音だ。


「……む?」


 青い殺人鬼は怪訝そうに代理人を見ながら刀を引き抜く。


「魔法は効かないのか? ふぅん、ならリリシャンが負けたのにも納得できるな」


 コイツ……!


 戦闘能力も、魔力も、経験値も、全てが全て、リリシャンに劣っているだろう。


 けど、目的が殺人なら、経緯が殺人なら、

 目標も意思も意向も手段も趣向も手工も手口も意味も理由も計画も存在意義も存続意味も無意識も本能も理性も何もかもが殺人にベクトルが向いたときの殺人鬼の戦闘能力は――


 ――あの赤色に匹敵するだろう。


「――死は、平等だ」


 口癖のように呟き、突貫してくる殺人鬼。


 いや、うん、これはもうどうしようもないな。


 ご都合的主義でリリスさん辺りが助けに来てくれることを願って。


「死にます」


 目を閉じた。









「おいおい【余剰部品】」



 衝撃は、来ない。


「殺されかけてんじゃねーよ」


 来たのはリリスさんでもなく、ましてやお迎えでもなく、


「そうですね……次からは気を付けることにしましょう」

「あほか」


 金髪碧眼、ドッペルゲンガーと疑うほどに代理人とよく似た顔つき、ニヒルに笑みを浮かべるその姿は、男女不明なそいつが男に見えるほどイケメンだ。

 どちらかと言えば女の代理人とは、まるで点対象。線対象。


 【終着地点】こと、【真偽遣い】だった。





*****





「で、どうだった? 俺のかっちょいい登場シーンは。惚れた?」

「貴方なんざに惚れるわけないでしょう、ていうかタイミングよすぎでしょうが」

「だろうな、だって遠くからずっと見てて最高のタイミングで登場しようと待機してたんだし」

「ああ成るほど……最悪ですねアナタ」

「お前みたいな最低よりはましさ」

「それを言っちゃあ……ねぇ」


 世界で一番最低な人物。

 世界最低。


 何時だったか、リリスにそんなことを言われた気がする。


 嘘……だっけ?


「――おい」


 仲良く会話してたのに何なんだよてめー、と言った感じで【真偽遣い】はギロリと殺人鬼を睨む。


「何なんだお前らは……兄妹か――何かか?」


「うーん、何なんだ、か」

「何なんでしょうね」

「確か、線対象だったか」

「いえ、点対象でしょう」

「少なくとも赤の他人だな」

「ですね」


 そうか、と殺人鬼は自分から訊いた癖にどうでもよさげに言う。


「よくわからん」


「…………」


 そりゃそうか。


「まあいい――天体掌だか戦隊ショーだか知らんが、そんなことはどうでもいい」


 どうでもいい。

 どうでもいい、どうでもいい――か。


「死は、平等だ」


 死は平等、平等、公平。


 そんなこと、そんなこと無いのにねえ。


「嘘だけど」

「真だろ」


 まあ兎も角、戦闘開始だ。


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