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アンノウン  作者: ラウス
2/21

女性に年齢を訊ねるのはマナー違反

「なあなあ代理人」

「何ですか? リリスさん」

「代理人って異世界人なんだよな?」

「ええ、そればっかりは嘘ではありません」

「でさ、どれくらい前からエステアに来たんだ?」

「そーですねー……10年ほど前でしょうか」

「結構前からなんだね……ところで代理人ってとし幾つ?」

「リリスさん、女性に齢を訊くのはマナー違反ですよ」

「じゃあ代理人は女なのか?」

「さぁ?」

「じゃあ問題ない」

「……リリスさんには幾つに見えますか?」

「うーん……19~21?」

「じゃあ私の年齢は18ということで」

「何その絶妙な嫌がらせ! しかも今決めた感に溢れてるセリフ!」

「それじゃあリリスさんは幾つ何ですか?」

「………………女性に齢を訊くのはマナー違反だ」

「そうですね、で、幾つですか?」

「黙れ!」




*****




 魔獣。

 この世界において、魔獣というのは害悪な存在だ。家畜を襲い、生態系を狂わせ、時に人を襲う。

 一般的には魔力を持った野獣と考えられている、凶暴なモンスターである。


 今回代理人らが退治するのはそんな生き物なのだ、しかし、下手すると軽く死ねる依頼だというのに二人の表情はかなり緩みきったものだった。


 ――――アロマスト密林――――


  ランド村から少し離れた位置に存在するこの密林は、薄暗く、不気味で、獣が多数入り浸り、時たま魔獣まで現れる危険度が高い密林である。


 そんな密林の中を、代理人とリリスはまるでピクニックにでも向かうような表情で堂々と歩いていた。


 何故そんなことが出来るかというと、理由は一つ。



 リリス・レッドバードがいるからだ。



「ぎゃう!」


突然――それこそ奇襲のようなタイミングで現れた青い体毛の狼っぽい魔獣が吹き飛んだ。


 原因は一発の蹴り。馬鹿みたいに巨大な魔力によって練られた『強化魔法』で強化、否、凶化された脚でわき腹に一撃。


 それによって、魔獣特有の鎧のような青い毛と、鉄のような皮膚、そして鋼のような骨を全て貫き、破壊し、摩擦熱で溶かし、音速を超えた時に発生するソニックウェーブで吹き飛ばしたのだ。


 ――最強の名は、伊達では無い。


「スプラッタ画像顔負けのグロい絵だなぁ……」


 言葉の割には平気なツラをして、代理人は言う。

 それも当然、リリスと相対した生物は彼女がよっぽどの手加減をしない限りどう頑張っても皮膚がずたずたに裂け、内臓が飛び散り、大量の血が吹き出るのだ。もう慣れた。


 かなり昔の話だが、一時期リリスは周囲から赤い髪は返り血で染まったものとか噂され、【血染めの赤】などの二つ名で呼ばれたこともあるとか。


 まあ、勿論赤い髪は生まれつきである。


「……やっぱ、手加減って難しいな」


 赤い最強は、ため息を吐きながら呟いた。


 そして、リリスを先頭に二人はひたすらにアロマスト密林を歩く。


 こんなところに来ている理由は二つの依頼について訊き込みをしたとき、とある情報屋から有力な情報を得たからである。


 ――リオの飼ってるペットがアロマスト密林に入ってくのを見た、という情報と、

 ――アロマスト密林で最近妙に魔獣の出現率が高くなっているという情報。


 これは都合よし、と二人は勇んで密林に出撃したというわけである。


「……確かに、さっきから妙に魔獣とのエンカウント率が高いですね」

「えんかうんと? 異世界語か?」

「遭遇率ってことですよ、今日遭遇した生き物は草食動物十五匹、野獣が五匹、魔獣が三十二匹……明らかに異常です」

「よく数えてたなー、しかし、それは確かに異常だ……一回村長に話しておいたほうがいいんじゃないか?」

「そうしましょう」


 そう言って、代理人は戻ろうと踵を返す。


「おろ? 目印とかマーキングとかしてなかったのによくそんな堂々と歩けるな」

 そんなリリスの疑問に、代理人は澄ました顔で答える。


「貴女が壊した樹や岩、そして獣の死体を遡れば大体わかりますよ」


 見ると、薄暗い密林でもハッキリと判るぐらいにリリスが駆逐しながら通った跡が付いていた。




*****




 翌日。

 代理人は古ぼけたベッドの上で目を覚ました。


 四畳くらいの部屋に布団と小さなタンス、そして座布団もどきが数枚あるだけの質素な部屋。


 代理屋の隣に位置する宿屋の三階、長期滞在の客用の一室である。


 代理人は寝巻にしている桃色の服(これもぶかぶかで体格は確認できない)を脱ぎ、今日は黄色では無く、青色のぶかぶかシャツを着た。

 ズボンは昨日と同じ色である。


 そして三階から一階に下り、受付のおばさんを呼んで朝飯を頼んだ。


 この宿屋、金を払えば軽い食事くらいなら出してくれるのだ。故に代理人はしょっちゅう朝飯を宿屋で済ませるのである。


「おまちどうさまです」


 しばらくすると、赤色――では無く青色の髪をした一人の美青年がトレイにおにぎりやたくあんみたいな食べ物を乗せてやってきた。

 異世界に来た当初は、食べ物の見た目が日本と大差なくて安堵したものである。


「ありがとうございます、リリットさん」

「恐縮です。今日もこうして貴女と話すことが出来て……僕はそれだけで三日は頑張れそうです」

「ははは、大げさですよー」


 青色の執事服っぽい服を着た青い青年――リリット・レッドバードは頬を赤く染め、「大げさではありません!」と叫んだ。


「その艶のある美しい黒髪は人々を魅了し、薄い唇は儚さを醸し出し、若干男の子っぽいところがさらにそそられる! 貴女はまさに……この世界に舞い降りた女神です」


 もうおわかりだろうが、このリリット・レッドバードは代理人に心酔している。


 そして、あの赤い最強との兄妹でもあるのだ。


「まあ……お世辞が上手ですね」

「お世辞などではありませぬ……どうです? この後一緒にお食事でも……」

「今朝ごはんを食べてる最中なのですが……」


 …………どうやら天然らしい。


「で……でわ、散歩は如何ですか?」

「それは素晴らしい提案ですが……仕事があるはずでしょう?」

仕事そんなもので僕の貴女に対する愛は遮ることはできません!」

「……リリットさん後ろをご覧ください」

「え?」


 リリットがゆっくりと後ろを振り向く。


 そこにはリリットとリリスの義理の母、兼、この宿屋の女将――さっき受付にいたおばさんが怒気全開で立っていた。


「……リリットさん」

「は、はい?」

 代理人は冷や汗だらだらの青い青年に優しく語りかける。


「逝ってらっしゃい」

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 町はずれの宿屋に若い男の絶叫が響いた。


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