ネタとは無くなるもの
テストオワタ
例のごとく二つの意味で
「うーん、困りましたね」
「どうした? 代理人」
「ネタ切れです」
「は?」
*****
魔法は大きく分けて五段階に強さを表現できる。
一番弱い、下級魔法。
二番目の、中級魔法。
真ん中、上級魔法。
上から二番目、古代魔法。
そして最強、神聖魔法。
下級は言わば魔力を少し持ってるだけで行使出来るようなもので、
中級は魔法学校に通うか、それなりに高額の本を買うことで取得でき、
上級は魔法学校の先生になれるほどの魔力があれば可能で、
古代は特殊な才能を持つ者のみが使いこなせる。
神聖に至っては、本来神が魔力じゃなく神力を使って行使するような魔法で、それを人間が魔力で使おうとすると、なんとあの世界最強、リリス・レッドバードの魔力の五百分の一も消費するのだ。
そしてたった今代理人に打ち込まれた大爆発の魔法は、中の上といったところ。
代理人の体質の敵では無かった。
パァン。と、風船が割れるような音が響き、大爆発による火も、音も、熱も、風も、全て消え去った。
まるでナニカに、拒否されるように。
「んな……!」
リリシャンが驚きの声をあげる。
「……この程度の威力じゃ私の魔力耐性は打ち破れませんよ?」
「……っ」
ギリッとリリシャンは歯で唇を噛む。
自分が撃ったのは中級魔法の中でも最強クラスの威力を誇る魔法だ。
魔力耐性が嘘だったとしても、嘘じゃ無かったとしても、こいつには何か魔法を打ち消す、又は弱めるナニカがある……!
「もし貴女がこの程度の威力の魔法しか撃てないのなら諦めて帰った方がいいですよ?」
「――舐めるな!」
ゴウッとリリシャンの魔力が膨れ上がる。
さっきの魔法とは、比べ物にならないほどの魔力量だ。
「私は元【三愚人】の一人、【鈴音の魔女】! “神聖”の領域に辿り着いた一人なのよ!」
…………。
知らんがな。
「【三愚人】、【鈴音の魔女】、“神聖”の領域……知らない単語ばっかですねぇ」
代理人のセリフにムカッとしたのか、さらに魔力が膨れ上がる。
「束縛の鎖、戒律の鎖、自由の鎖、縛堂の鎖、悲哀の鎖、鬼姫の鎖、天界の鎖」
リリシャンの詠唱が始まる。
それと同時に纏ってた魔力がさらに膨れ上がる。
「罪悪の扉、欠陥の扉、常識の扉、異世の扉」
異世、という言葉に代理人がピクリと反応する。
しかしリリシャンはそんなこと意に止めず、詠唱を続ける。
「――――断罪の、斧」
ジャララララララララ! と大仰な音をたて、幾千、幾万の鎖が何かに巻きつくような形状で突如空中に現れた。
そして、まるで何処かの教会にでもありそうな煌びやかな扉が四つ、現れ、開いた。
「派手な魔法ですねえ……」
呟き、唖然として空を見上げる。
巨大な、それでいて煌びやかな。
まるで神の武器のような――いや、事実そうなのだろう。
神聖魔法。
神の領域に一歩踏み出した者のみが使える最強の魔法。
白銀に輝く――幾重にも鎖で縛られた大斧がリリシャンの掲げた手の先に顕現していた。
「《神聖魔法其の壱――断罪者》」
リリシャンの声に、何故かエコーがかかる。
「あんたの魔法耐性なんてものじゃ――到底防ぎきれない代物だよ!」
リリシャンが腕を振り下ろすと同時に、斧が振り下ろされる。
白銀の光を放ちながら代理人の命を潰し消そうとその大きな刀身からは想像できないほどの速度で代理人に迫る。
代理人はそんな光景を見ながらも、そっと、呟いた。
「スイマセン、私、嘘吐いてました」
パアン、と風船が割れるような音が鳴り、全てが消えた。
斧も、鎖も、扉も、全て、根こそぎ、消えていった。
まるで何かに、ナニカに、拒否されるかのように。
「………………え」
リリシャンの口から漏れ出た言葉はそれだけだった。
代理人は左手で自分の右の肘に触れ、捻る。
すると、カチっと何かの作動音が鳴り、袖から一本のナイフが飛び出た。
小型だが、人の喉笛を引き裂いて殺すくらいなら出来る、無骨なナイフだ。
「ひっ……ぐぅ……!」
代理人の蹴りがリリシャンの鳩尾に決まった。
茫然と、無防備に突っ立ってたリリシャンは容易に倒れ、転び、その上に代理人は馬乗りになって首にナイフを突き付けた。
「魔力耐性なんて私は持ってませんよ、私が持ってるのは『魔力拒否』、ありとあらゆる魔力で構成されてるモノの存在自体を拒否する能力です」
リリシャンの瞳が驚き一色に塗りつぶされる。
代理人はそんな彼女に頬笑みを返し、せめて速やかに、苦しませずに殺してあげようと手に力を込めた、
瞬間。
「っ―――――――!」
本能に身を任せて全身全霊、自分に持てる精一杯の力を込めて横に跳んだ。
右に跳んだのか、左に跳んだのかも分からなかった。
頭に鳴り響く警告音。
間違いない、間違い無く、この何度も何度も経験してきた感覚は正しく――
――死の、警告。
「はっ……は……」
息を整えつつ自分の元居た場所、リリシャンを見る。
刀が、突き刺さっていた。
それも一本じゃ無く、魔力で構成された複数の銀色の刃に、絶大な存在感を放つ一本の青い刀。
そしてその上に片足で立つ青いコートを身にまとう、殺人鬼。
「なんだ」
殺人鬼は笑う。嗤う。
世界すら殺せるんじゃないかと錯覚させるくらい、獰猛な笑みだ。
そしてその笑みは同時に、世界を否定するような冷たい笑みだった。
「二人一緒に殺せると思ったんだがな、思ったより――強かったんだな」
なあ? 【虚偽遣い】。
そう言って代理人を見る殺人鬼。
代理人は、曖昧に笑って、「過大評価ですよ……」と言うしかなかった。
代理人は物理攻撃を持つ相手との相性は最悪なのである。
「やっべ……」
呟く。
代理人、大ピンチである。
今気付いたけどこの小説名前の最初の文字が『リ』のやつ多い。
リリス、リリット、リリシャン、リン、リオ
5人もいるよ