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アンノウン  作者: ラウス
14/21

箸より重いものは無い

「よぉ、代理人。兄貴の肩たたきはどうだった?」

「彼は本当に【世界最弱】なんだなぁ、と改めて思いました」

「あー、万が一赤ん坊と本気で喧嘩したら九分九厘負けるほど弱いしな」

「びっくりですよ、彼が私の肩を叩いた瞬間彼の腕から骨の軋む音がしました」

「兄貴はリアルに箸より重いもの……いや、箸でもぎりぎり持てるか……?」

「脆弱の極みですね、流石【世界最弱】」

「ああ、流石アタシの兄貴だぜ」





*****





 暗い暗い、真っ暗な何処か。


 そこに、私? 俺? 僕? ウチ? 某? 拙者? あたい? は茫然と立っていた。


 すると、突如映画のスクリーンのようにパッと四角形の光が目の前に浮かんだ。

 傍らには、いつものように漫画本を手に、微笑を浮かべている、【絶望神】。


「さて、質問だよカズマ」


 【絶望神】は、スクリーンを指差し、こう言った。


「こいつをどう思う?」


 スクリーンに映し出されたのは青い髪の青年。


「どうでもいい」


「こいつは?」


 茶髪の、大きな鈴型の髪留めをした幼女。


「どうでもいい」


「こいつは?」


 と、次々と出てくる【絶望神】の質問に、私? 俺? 僕? ウチ? 某? 拙者? あたい? は「どうでもいい」と答えていく。


「じゃあ、こいつは?」


 次に映し出されたのは赤い髪の少女、そこで初めて、私? 俺? 僕? ウチ? 某? 拙者? あたい? は怪訝そうな表情を見せる。


 そして、一言。



「誰だこいつ」



 闇が、晴れて行った。





*****





「……またこれ系の夢ですか」


 何が【絶望神】だ。馬鹿馬鹿しい。


 布団から這いずり出て、ピンク色の寝巻を脱ぐ。汗だくだ。


 ちなみにここは代理屋だ。宿屋は先日の一件で斬れてしまったので一時的に代理人はこっちに寝泊まりするようになってる。


「あーズボンもびしょ濡れですよ……着替えなきゃ」


 と、代理人はズボンも脱ぎ、パンツ一丁になった。

 パンツの描写? そんなものはしない。


 新しい服を出そうとして辺りを見渡した代理人の目に、あるものが映った。


 鏡だ。ちょうど代理人の全身を映すのにピッタリな、鏡。


 その鏡に、ほぼ全裸の自分の姿を映し、代理人は呟いた。


「ほんと……どっちなんでしょうねぇ……」


自嘲気味に笑い、代理人はいそいそと服を着た。


 エステアは、もうすぐ冬の季節だ。





*****





「よ、お早う代理人」

「もう昼ですけどね」


 赤色空間から出てきたリリスに代理人は即座につっこみを入れる。


 事実、今は昼飯時だ。


「なあに、よくあることさ。それよりさ、一緒に飯食おうぜ」

「まあよくあることですね、昼飯は今さっき食い終わりました」

「な、何だってー!」


 折角早起きしたのに……と項垂れるリリス。


「昼間に起きといて早起きは無いでしょう、それより、暇なんで話し相手になってくれませんか?」

「むう、飯食ってからな」


 そう言って、代理屋から立ち去った。多分、何処か適当な飯屋にでも行くのだろう。


 今、代理人は猛烈に暇である。


 仕事はスズの一件以来無く、ただ暇をもてあそぶだけの毎日である。


 しょうがない、今日も適当に町をぶらつくか、と一歩踏み出した時。


「あの……」


 と、代理人に声をかける人物がいた。


 栗色の腰まである髪の毛をうなじのあたりで二つに縛り、冬が近いにも関わらず緑の麦わら帽子のような形をした帽子を被っている女の子。

 リオちゃんである。

 以前来た時とは違い、服装が長袖長ズボンになり、マフラーを付けている。


「私のペットって……どうなりました?」


 ちなみに。


 エステアの季節の移り変わりは相当特殊だ。まあ代理人からすればだが。


 年によって、季節の変わり目が違うのだ。

 例えば今年は、春が2ヶ月あり、夏が5ヶ月あり、秋がたった1週間で終わり、残り全てが冬。


 つまり、リオの依頼を受けてから、現在約2週間が経っている。


「あー、実は、あの依頼はとうに解決してるんだ」

「ホントですか!? ニャー介はどうなったんですか!?」


 ペットの名前はニャー介らしい、知らなかった。


「……実はね、」


 さあ語ろう。

 虚実を、虚言を、虚偽を。


 全てが嘘で塗り固められた、言い訳ものがたりを。


 あますことなく全て、リオに、ぶちまけた。





*****





 語り終えた後、リオは盛大に泣いていた。


 代理人とリリスの命がけとも言える奮闘、悪の組織の悪逆非道な拷問に耐えきったペットの勇ましさ、そして、壮絶なる最期。


 もはや英雄譚と言っても過言じゃない大物語に、リオは自然と涙を流していたのである。


「すいません、リオさん、私の力不足故に……貴女のペットを……ニャー介を死なせてしまって……!」

「いえ! いいんです! 代理人さんは何も悪くはありません! 悪いのは……その銀河団とかいう組織です!」


 よし、完ぺきに騙せたようだ。


 代理人は心の中でガッツポーズする。


「代理人さん……私、決めました……、私、強くなります! ニャー介の飼い主に相応しいくらい強くなってみせます!」

「頑張ってください、私もかげながら応援してますよ」

「はい! ありがとうございます!」


 リオはふかぶかと頭を下げ、勢いよく駆けだした。


 もう、リオの姿が見えなくなったことを確認して、代理人は、日本語で呟く。



「嘘だけど」









*****





「首尾はどうだ?」


 この世界――エステアの何処か。


 そこに、四人の男女が集まっていた。


「ばっちし、いつでも行けるよ」


 ふりふりのドレスを着た、クリーム色の髪をした女が、青い魔獣に乗りながら言った。


「問題無い」


 金髪ツリ目のきつそうな性格をした美女が、手に持ったライホウを腰のホルスターに仕舞った。


「…………行きましょう」


 突然、立方形の結界が現れたと思ったら、中から頭が光っている大男が姿を現した。


「そうか」


 青いコートを羽織った、バイザーのようなサングラスをかけた男が、呟いた。


「それでは、これより……」


 男の後ろで、何かが蠢いた。


 魔獣だ。その数は、目算では数え切れないほど多い。


「――王都を、襲撃する」


 魔獣の咆哮が、轟いた。


リオ

属性 唯一無二の普通でまじめなキャラ 純粋 良い子 一般人 動物好き


マジでコイツ以外で生きてる常識的なキャラがいないとかどんだけ

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