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アンノウン  作者: ラウス
13/21

血がつながっていなくても家族は家族

解決編です。

詰め込みすぎたかも。

「なあなあ代理人」

「何ですかリリスさん」

「代理人って両親はどういう人だったんだ?」

「……私を産んだだけの人間のことなんて覚えてませんよ。リリスさんもそうでしょう?」

「まあ……な」

「ま、私を育てた人間を親というなら……私の親は――」

「…………」

「――【虚偽遣い】、でした」





*****




 ――スズは13歳である。


 そう描写したのは、覚えてるだろうか。


 13歳。幼いといえば幼いが、地球でいうと中学生である。



 あんな幼言葉を使うほど、幼くない。



「失念してましたよ……」


 嘘は、虚偽は自分の領域なのに。

 あまりに似合いすぎてたため、見逃してた。


「で? なんで大量殺人事件こんなことを……?」


 幼女に対する優しい言葉づかいではなく、いつもの敬語で、語りかける。


「スズさん――」



 さらさらと、風がなびく。


 ランド村から少し外れた小高い丘に、狙撃銃を持った事件の犯人、スズがいた。


 スズは、何も見てないような虚ろな目で代理人を見た。リリスが身構える。


「……【虚偽遣い】の、お兄ちゃん」


 もう、幼言葉は無かった。普通の、可愛いだけの声である。


「もう一度訊きます、村長と、…………その他大勢を、何故殺したんですか?」


 その他大勢カワイソス。


「お兄ちゃん――私ね、ランド村が大好きなんだ」


 ゆっくりとした口調で、スズは語りだす。


「私を拾ってくれた村長もジュリックさんも、リリスさんもお兄ちゃんも、みんなみんな、大好きなんだ」


 スズは年相応の、可愛らしいが、どこか大人っぽい笑みを見せる。


「でも、ダメなんだ」


 途端にシュンとなるスズ、その表情かおのまま、腰のホルスターからライホウと取りだした。



「殺したくて、しょうがないんだ」



 私は――


「殺人鬼だから」


 パァンと、発砲音が鳴った。




*****





 ――殺人鬼。

 殺し屋とは一味違うそのジョブの特徴は、人殺しが三大欲求と同じくらい生きるのに必要なこと、というところである。


 呼吸をするように殺し、飯を食うように殺し、一定の間殺人をしないと発狂するという難儀な種族である。

 殺すために生き、生きるために殺す。


 スズがランド村に来てから5年、彼女は一度足りとも殺人を犯してない、魔物の討伐でなんとか鬱憤を晴らしている。殺さない理由は、村のみんなのことが好きだから。


 それを愛というなら、代理人は愛の化身ということになるが、それは今は関係ない。



 今まで我慢してても、どれだけ辛くても、彼女は殺人を犯した。


 それはまだ法律が明確に定まってないエステアでも、紛れもない犯罪行為だ。


「さあリリスさん、さっさと事件を解決して、リリットさんに十二時間耐久肩たたきでもやってもらいましょう!」

「おう!」


 放たれた雷光は代理人に直撃したが、【魔力拒否】で弾かれる。


 リリスが突進する。もはや、相手が殺人鬼だと判ったなら遠慮は無用。


 二人が殺人鬼という言葉に驚かなかったのは、もう、一度会ったことがあるからだろう。


 リリスが強化魔法で強化された腕で全力全開の拳を振るう。

 スズはそれをかがむことで避け、銃口をリリスに当てた。


「チャージショット」


 ピッシャァアアアアアンっと今までと桁違いの雷光が轟き、リリスが後ろに吹き飛ぶ。


「ライホウってそんなこともできるのか!」


 リリスは空中で嬉しそうに笑い、一回転。着地。


 その瞬間、数多の雷光がリリスを貫いた。


「痛ててててててててて!」


 痛いで済むのはおかしいのだが、ダメージは入っている。


 スズはライホウの乱射を継続したまま、もう片方の手でもう一丁のライホウを手に取った。


 右手で連射を、左手でチャージショットの準備をしながらリリスに近づいていく。代理人に動きは無い。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん」


 右の連射を止め、左の銃口をリリスの後頭部に押し付けたスズが言う。


「お願い。この町から出て行って、お兄ちゃんとお姉ちゃんは殺したくない」


 それは、最期通告。


 首を横に振れば、即座にリリスの後頭部に強大な一撃が入るだろう。


 それまで傍観していた代理人に、リリスとスズが視線を向ける。


 代理人は、今までに無い程無表情のまま、口を開いた。


「さて、状況を整理しよう」


 日本語で、ぼそりと呟く。


 人質リリスがいる、スズはライホウを二丁、エンホウを一丁所持、犯人の要求は村からの退去。


 戦闘力は、あちらのほうが上。


 ふぅ、とため息を吐く。


 どうやら、【虚偽遣い】の出番のようだ。


「スズさん」


 呼ぶと、ピクリとスズが反応する。リリスへの警戒は減らないけど。


「貴女の希望通り村から出て行きましょう、だからリリスさんを離してください」

「……嘘でしょ」


 わお。ばれてる。


「お兄ちゃんが【虚偽遣い】なのは知ってるよ、そう簡単に信じないよ」

「うわー、私って信用無いんですね」


 当たり前だろ。とリリスは心の中で呟く。


「じゃあ……スズさん」

「何?」

「好きです。愛してます。結婚してください」

「嘘でしょ」

「大っ嫌いです。息しないでください。同じ次元に存在しないでください」

「……嘘じゃないでしょ」

「どうしてそう思うんですか?」

「だって、私お兄ちゃんにもお姉ちゃんにも今酷いことしてる」

「いえいえ、そんなことどうでもいい。別にスズさんのことは嫌いじゃないです。嘘だけど」

「じゃあ嫌いじゃない」

「何言ってるんですか、『嘘だけど』が嘘かもしれないですよ?」

「……そんなの、」

「「どうでもいい」」


 声が重なり、代理人がにやりと笑い、スズが顔を引きつらせる。


「……舐めた真似してると、撃つよ?」

「そんな可愛い顔じゃ怖いこと言っても怖くありませんよ?」

「…………」

「それに、リリスさんじゃ人質に成りえません」

「……?」

「……!」


 リリスが僅かに顔をゆがめる。


「どうして? お姉ちゃんはお兄ちゃんにとって大事な人じゃないの? いつも一緒じゃない」

「正直言ってどうでもいいです。たまたまリリスさんだっただけですよ」


 ほら、私って最強っていうのが嫌いじゃないですかー、と、日本でいう今どきの女のような口調で代理人は言う。


「……嘘だ」

「嘘じゃないです。そこでものは相談なんですが……一緒に代理屋をやりませんか?」


 にっこりとほほ笑みかけながら、代理人は手を差し伸べる。


「代理屋は良いですよ? 仕事によっては人を殺し放題です」


 スズの表情に戸惑いが浮かぶ。迷ってるのだ、代理人の言葉が真が、嘘か。


 おそらく――


「嘘でし「本当ですよ」


 スズの言葉にかぶせるように代理人は言う。


「さ、決断を」


 チリン、とスズの鈴が鳴る。


 スズの脚が、一歩動いたのだ。


 代理人の甘言に、騙されたのだ。



「まあ、全部、最初から最後まで嘘なんですけどね」



 クン、と代理人の手首が外側に曲がる。

 カチリと何かが作動する音が代理人の肘から鳴った。


 すると袖から一本のナイフが飛び出した。


 持つところのほうが長く、刀身が異常に短い小型のナイフ。

 代理人の、武装の一つである。


 そのナイフは勢いよく飛んでいき、スズの左手に突き刺さった。


「痛ッ……!」


 スズの手からライホウが落ちる。


 そう、リリスを抑えつけていた、左手のライホウが。


「歯ぁ食いしばれええええええええ!」


 瞬時に立ち上がった赤色は、強烈なボディーブローを放った。


「かはっ……!」


 ……いや、赤色さん、貴女歯を食いしばれとか言っといてボディーブローですかそうですか。


「……ああ、間違えた。腹食いしばれ」

「どうやってですか。てか、もう聞こえてないと思いますよ」


 スズは気絶していた。てか、生きてるだけすごいと思う。


「殺人鬼……ね」


 殺すために生まれた人まがい。当然、戦闘力も高いのか。


 まあ、それはともかく。


「依頼完了。さ、リリットさんに肩もんでもらいますか」

「おう!」


 こうして、ランド村連続殺人事件は、幕を閉じた。





*****





 翌日。


 村の外れで、手錠を付けたスズが護送用の馬車の前で、見送りに来ていた代理人に話しかけた。


「ねえ、お兄ちゃん」

「ん? 何ですかスズさん」

「昨日の虚偽……本当は幾つ真実があったの?」

「……言ったでしょう、全部嘘、と」

「嘘だね。まあいいや、次会う時は、本当のこと教えてね?」


「おい! 出発だ!」


 警備兵の声が聞こえ、スズは軽い足取りで馬車に乗り込んだ。


 次、ね。これから彼女は、何十年とかけて王都にある懺悔会で自分の罪を償うのだろう。


「……本当に、全部嘘なんだがなぁ」


 代理人はそう呟き、踵を返して村に戻って行った。





*****





「ごめんね?」


 王都に向かう途中にある街道で、殺人鬼は目の前の死体に言った。


 死体の額には、小さな穴が開いている。


「私はまだ捕まるわけにはいかないの」


 そう。


「ジャックお兄ちゃんに、会うまでは――」


 返り血に塗れた状態のまま、少女は大地を歩いていく。


 同じ殺人鬼である、兄を捜して――――。


スズ

属性 妹 ロリ 殺人鬼

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