血がつながっていなくても家族は家族
解決編です。
詰め込みすぎたかも。
「なあなあ代理人」
「何ですかリリスさん」
「代理人って両親はどういう人だったんだ?」
「……私を産んだだけの人間のことなんて覚えてませんよ。リリスさんもそうでしょう?」
「まあ……な」
「ま、私を育てた人間を親というなら……私の親は――」
「…………」
「――【虚偽遣い】、でした」
*****
――スズは13歳である。
そう描写したのは、覚えてるだろうか。
13歳。幼いといえば幼いが、地球でいうと中学生である。
あんな幼言葉を使うほど、幼くない。
「失念してましたよ……」
嘘は、虚偽は自分の領域なのに。
あまりに似合いすぎてたため、見逃してた。
「で? なんで大量殺人事件を……?」
幼女に対する優しい言葉づかいではなく、いつもの敬語で、語りかける。
「スズさん――」
さらさらと、風がなびく。
ランド村から少し外れた小高い丘に、狙撃銃を持った事件の犯人、スズがいた。
スズは、何も見てないような虚ろな目で代理人を見た。リリスが身構える。
「……【虚偽遣い】の、お兄ちゃん」
もう、幼言葉は無かった。普通の、可愛いだけの声である。
「もう一度訊きます、村長と、…………その他大勢を、何故殺したんですか?」
その他大勢カワイソス。
「お兄ちゃん――私ね、ランド村が大好きなんだ」
ゆっくりとした口調で、スズは語りだす。
「私を拾ってくれた村長もジュリックさんも、リリスさんもお兄ちゃんも、みんなみんな、大好きなんだ」
スズは年相応の、可愛らしいが、どこか大人っぽい笑みを見せる。
「でも、ダメなんだ」
途端にシュンとなるスズ、その表情のまま、腰のホルスターからライホウと取りだした。
「殺したくて、しょうがないんだ」
私は――
「殺人鬼だから」
パァンと、発砲音が鳴った。
*****
――殺人鬼。
殺し屋とは一味違うそのジョブの特徴は、人殺しが三大欲求と同じくらい生きるのに必要なこと、というところである。
呼吸をするように殺し、飯を食うように殺し、一定の間殺人をしないと発狂するという難儀な種族である。
殺すために生き、生きるために殺す。
スズがランド村に来てから5年、彼女は一度足りとも殺人を犯してない、魔物の討伐でなんとか鬱憤を晴らしている。殺さない理由は、村のみんなのことが好きだから。
それを愛というなら、代理人は愛の化身ということになるが、それは今は関係ない。
今まで我慢してても、どれだけ辛くても、彼女は殺人を犯した。
それはまだ法律が明確に定まってないエステアでも、紛れもない犯罪行為だ。
「さあリリスさん、さっさと事件を解決して、リリットさんに十二時間耐久肩たたきでもやってもらいましょう!」
「おう!」
放たれた雷光は代理人に直撃したが、【魔力拒否】で弾かれる。
リリスが突進する。もはや、相手が殺人鬼だと判ったなら遠慮は無用。
二人が殺人鬼という言葉に驚かなかったのは、もう、一度会ったことがあるからだろう。
リリスが強化魔法で強化された腕で全力全開の拳を振るう。
スズはそれをかがむことで避け、銃口をリリスに当てた。
「チャージショット」
ピッシャァアアアアアンっと今までと桁違いの雷光が轟き、リリスが後ろに吹き飛ぶ。
「ライホウってそんなこともできるのか!」
リリスは空中で嬉しそうに笑い、一回転。着地。
その瞬間、数多の雷光がリリスを貫いた。
「痛ててててててててて!」
痛いで済むのはおかしいのだが、ダメージは入っている。
スズはライホウの乱射を継続したまま、もう片方の手でもう一丁のライホウを手に取った。
右手で連射を、左手でチャージショットの準備をしながらリリスに近づいていく。代理人に動きは無い。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん」
右の連射を止め、左の銃口をリリスの後頭部に押し付けたスズが言う。
「お願い。この町から出て行って、お兄ちゃんとお姉ちゃんは殺したくない」
それは、最期通告。
首を横に振れば、即座にリリスの後頭部に強大な一撃が入るだろう。
それまで傍観していた代理人に、リリスとスズが視線を向ける。
代理人は、今までに無い程無表情のまま、口を開いた。
「さて、状況を整理しよう」
日本語で、ぼそりと呟く。
人質がいる、スズはライホウを二丁、エンホウを一丁所持、犯人の要求は村からの退去。
戦闘力は、あちらのほうが上。
ふぅ、とため息を吐く。
どうやら、【虚偽遣い】の出番のようだ。
「スズさん」
呼ぶと、ピクリとスズが反応する。リリスへの警戒は減らないけど。
「貴女の希望通り村から出て行きましょう、だからリリスさんを離してください」
「……嘘でしょ」
わお。ばれてる。
「お兄ちゃんが【虚偽遣い】なのは知ってるよ、そう簡単に信じないよ」
「うわー、私って信用無いんですね」
当たり前だろ。とリリスは心の中で呟く。
「じゃあ……スズさん」
「何?」
「好きです。愛してます。結婚してください」
「嘘でしょ」
「大っ嫌いです。息しないでください。同じ次元に存在しないでください」
「……嘘じゃないでしょ」
「どうしてそう思うんですか?」
「だって、私お兄ちゃんにもお姉ちゃんにも今酷いことしてる」
「いえいえ、そんなことどうでもいい。別にスズさんのことは嫌いじゃないです。嘘だけど」
「じゃあ嫌いじゃない」
「何言ってるんですか、『嘘だけど』が嘘かもしれないですよ?」
「……そんなの、」
「「どうでもいい」」
声が重なり、代理人がにやりと笑い、スズが顔を引きつらせる。
「……舐めた真似してると、撃つよ?」
「そんな可愛い顔じゃ怖いこと言っても怖くありませんよ?」
「…………」
「それに、リリスさんじゃ人質に成りえません」
「……?」
「……!」
リリスが僅かに顔をゆがめる。
「どうして? お姉ちゃんはお兄ちゃんにとって大事な人じゃないの? いつも一緒じゃない」
「正直言ってどうでもいいです。たまたまリリスさんだっただけですよ」
ほら、私って最強っていうのが嫌いじゃないですかー、と、日本でいう今どきの女のような口調で代理人は言う。
「……嘘だ」
「嘘じゃないです。そこでものは相談なんですが……一緒に代理屋をやりませんか?」
にっこりとほほ笑みかけながら、代理人は手を差し伸べる。
「代理屋は良いですよ? 仕事によっては人を殺し放題です」
スズの表情に戸惑いが浮かぶ。迷ってるのだ、代理人の言葉が真が、嘘か。
おそらく――
「嘘でし「本当ですよ」
スズの言葉にかぶせるように代理人は言う。
「さ、決断を」
チリン、とスズの鈴が鳴る。
スズの脚が、一歩動いたのだ。
代理人の甘言に、騙されたのだ。
「まあ、全部、最初から最後まで嘘なんですけどね」
クン、と代理人の手首が外側に曲がる。
カチリと何かが作動する音が代理人の肘から鳴った。
すると袖から一本のナイフが飛び出した。
持つところのほうが長く、刀身が異常に短い小型のナイフ。
代理人の、武装の一つである。
そのナイフは勢いよく飛んでいき、スズの左手に突き刺さった。
「痛ッ……!」
スズの手からライホウが落ちる。
そう、リリスを抑えつけていた、左手のライホウが。
「歯ぁ食いしばれええええええええ!」
瞬時に立ち上がった赤色は、強烈なボディーブローを放った。
「かはっ……!」
……いや、赤色さん、貴女歯を食いしばれとか言っといてボディーブローですかそうですか。
「……ああ、間違えた。腹食いしばれ」
「どうやってですか。てか、もう聞こえてないと思いますよ」
スズは気絶していた。てか、生きてるだけすごいと思う。
「殺人鬼……ね」
殺すために生まれた人まがい。当然、戦闘力も高いのか。
まあ、それはともかく。
「依頼完了。さ、リリットさんに肩もんでもらいますか」
「おう!」
こうして、ランド村連続殺人事件は、幕を閉じた。
*****
翌日。
村の外れで、手錠を付けたスズが護送用の馬車の前で、見送りに来ていた代理人に話しかけた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん? 何ですかスズさん」
「昨日の虚偽……本当は幾つ真実があったの?」
「……言ったでしょう、全部嘘、と」
「嘘だね。まあいいや、次会う時は、本当のこと教えてね?」
「おい! 出発だ!」
警備兵の声が聞こえ、スズは軽い足取りで馬車に乗り込んだ。
次、ね。これから彼女は、何十年とかけて王都にある懺悔会で自分の罪を償うのだろう。
「……本当に、全部嘘なんだがなぁ」
代理人はそう呟き、踵を返して村に戻って行った。
*****
「ごめんね?」
王都に向かう途中にある街道で、殺人鬼は目の前の死体に言った。
死体の額には、小さな穴が開いている。
「私はまだ捕まるわけにはいかないの」
そう。
「ジャックお兄ちゃんに、会うまでは――」
返り血に塗れた状態のまま、少女は大地を歩いていく。
同じ殺人鬼である、兄を捜して――――。
スズ
属性 妹 ロリ 殺人鬼