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お気に入り小説5

本物の姉妹になれた日 ~虐げられた二人の令嬢が手を組み、王太子妃と公爵令嬢として輝くまで~

作者: ユミヨシ
掲載日:2026/03/15

リーリアは手の甲をパシっと引っ叩かれた。


「何度、言ったら解るのです。ハルデルク公爵家の娘として、このような作法ではね」


家庭教師の先生は厳しい。

リーリアは膨れっ面で、再びフォークとナイフを手にする。


また、手の甲を引っ叩かれた。

小さな革製の鞭で容赦なく家庭教師の先生は手の甲を叩く。


「持ち方が違います。どうして出来ないのですか」



リーリアは、16歳。ハルデルク公爵が酒場で働いていた母と浮気をして出来た娘だそうだ。

母は去年、病で亡くなり、一人で酒場で働いていたリーリア。

ハルデルク公爵の娘だという事が解って、公爵家に連れられていった時は天にも昇る心地だった。


貧乏生活だったのだ。

16歳のリーリアが一人で生きていくのは大変で。


だから、贅沢が出来る。美味しい物が食べられる。そう喜んだのに。


ハルデルク公爵も、公爵夫人も、姉であるディセシアも皆、冷たかった。


ハルデルク公爵は、


「私の娘だと、マリアから手紙を貰っていた。やっと妻の許可が下りたのだ。仕方なく引き取ってやる。しっかりと我が公爵家の娘として恥ずかしくないように学べ」


ハルデルク公爵夫人も、


「夫に顔立ちは似ているようね。忌々しい。仕方ないから引き取ってやったのよ。わたくしに恥をかかせないで頂戴ね」


姉であるディセシアも、


「ああ、嫌だわ。市井育ちの妹なんて。傍に近寄らないで頂戴。わたくしはカイデル王太子殿下の婚約者なのです。いずれは王妃になる身。本当にこんな妹じゃ恥ずかしいわ」


公爵家に来て後悔した。

だから、


「あの、私が来て迷惑ならば、帰ります」


ハルデルク公爵は、


「そうはいかない。私の娘だと解っているのだ。市井に再び放り出す訳にはいかない」


迎えに来るまで一年もかかっている癖に今更だ。

こうしてハルデルク公爵家で過ごす事になったのだが。


家庭教師をつけられた。

30歳過ぎの伯爵夫人だ。


それがまた、厳しくて、革製の小さな鞭で出来ないと手の甲を叩くのだ。


だからいつも手の甲が赤く腫れて痛くて仕方ない。

出来ない事が多いのは仕方がないのではないか?


リーリアは、貴族の色々なマナーなんて全く知らない。

字だってやっと書ける程度だ。


それなのに、家庭教師は出来ないリーリアの手の甲をバシバシと叩いて来るのだ。


公爵夫妻も姉も、食事を一緒に取るのだが、味が解ったものではなかった。

リーリアがマナー通りに食べないと、注意してくるのだ。


ハルデルク公爵は、ちらりとリーリアを見て、


「マナーがなっていないな」


公爵夫人は眉を顰めて、


「本当に市井の娘はなってはいないわ」


姉のディセシアも、


「王立学園に通わせるのですか?わたくしが恥をかくだけだわ」


リーリアは泣きたくなった。

ちっとも食事が美味しくない。


ここから逃げ出して、普通にご飯が食べたい。

マナーも何も気にせずに。


でも、市井に戻ったら、食事抜きだなんて日もあって、とても貧しかった。

酒場の雇い主は、リーリアをこき使うだけ使って、あまりお金をくれなかったのだ。


公爵家に引き取られ、マナーを煩く教育される、そんな地獄のような日々が過ぎて、貴族なら誰しも通う王立学園に通う事になった。

基本のマナーがある程度、出来るようになったと許可が出たのだろう。


二つ上の姉、ディセシアがカイデル王太子殿下と共に、廊下を歩いてきた。

2人とも凄く美しくて、特にカイデル王太子殿下にリーリアは見とれた。


あんな美しい王太子殿下とお姉様は結婚するんだ。

それに比べて、自分は。毎日毎日、馬鹿にされて。

辛くて辛くて。


カイデル王太子殿下とディセシアの前に、リーリアは進み出ると挨拶をした。


「ごきげんよう。お姉様。カイデル王太子殿下。わたくしは、リーリア・ハルデルク。ディセシアお姉様の妹でございます」


カイデル王太子は、


「ディセシアに妹がいると聞いてはいたが、君がリーリアか。ディセシアに似ているな」


ディセシアは眉を顰めて、


「市井育ちの妹と似ていると言われても。わたくしは生まれついてのハルデルク公爵家の娘なのですわ」


「すまない。そうだな。庶子と一緒にしては君も迷惑だな」


カイデル王太子の傍には、騎士団長子息と、宰相子息が付き従っている。


皆、市井育ちだと聞いた途端、こちらを見る目が、まるで汚いものを見るような目つきに変わった。


リーリアは、にこやかに、


「失礼致しますわ」


その場を去ったけれども、心の中で思った。

市井育ちの何が悪いというの。

本当に悲しかった。


死んでしまいたい。そう思えた。















レティシア・バレン公爵令嬢は、深紅のドレスを着て、王宮の夜会に出席していた。

歳は18歳。金の髪のレティシアは自分の容姿には自信があった。


それなのに、誰もレティシアに声をかけてこない。


そこへこれ見よがしに、レティシアの異母妹アリディアが、ネレル第二王子殿下と共に、夜会の会場に現れて


「あら、お姉様。お気の毒に。婚約を解消されて、お一人になってしまわれたというのに、夜会に出席とは」


ネレル第二王子も、ニヤついて、


「私はアリディアと婚約を結べてよかったと思っている」


ネレル第二王子は金髪碧眼の美男である。

レティシアと同い年の18歳。本当はレティシアと結婚し、バレン公爵家に婿入りするはずだった。

だが、異母妹のアリディアと現在、婚約を結び、バレン公爵家に婿入りする。


父はレティシアに言ったのだ。


「お前は家を出ていくがいい。自分で婚約者を探せ」


だから、レティシアは仕方なく、深紅のドレスを纏い、夜会に出席した。

父が婚約を結ぶ相手を、相手方と話し合って婚約を結ぶのが普通である。


それなのに。レティシアはなるべく早く家を出なくてはならないのだ。

そんなレティシアを、利益も何もない。家では邪魔者扱いされているレティシアを引き取ってくれる家はあるのだろうか?


家を継ぐ為に、領地経営とかを父に教わっていた。

だが、異母妹が三年前に引き取られた時に、レティシアになにも教えてくれなくなった。

異母妹に父は色々と教え始めたのだ。


その時から、自分を追い出す事を考えていた父。

父はレティシアの母を嫌っていたらしい。

母はレティシアが物心つく前に亡くなったので詳しい事は解らないが。


誰でもいいの。わたくしに声をかけて。

わたくしと結婚して。


そう叫びたかった。

この際、歳が上でも再婚でも構わない。


一人のでっぷり太った貴族が声をかけてきた。

バド伯爵だ。

女癖が悪く、屋敷に3人の愛人がいると評判だった。


バド伯爵は、レティシアをちらちらと見ながら、


「どうだ?レティシア嬢。わしのところに来ないか?若い女っていうのはいいのう。今の女達は歳を食っているからな」


レティシアは真っ青になった。


誰でもいいと思ったけれども、この人は嫌‥‥‥


バド伯爵はレティシアの手を握り、


「早く家を出なくてはならないのだろう。ならば、わしが面倒を見てやろう」


鳥肌が立つ。

そこへ背が高くやせぎすな男がやってきた。

オード伯爵である。


レティシアの手を取り、

「そんな、デブの所より、私の所へ来ないか?レティシア様」


確かこの伯爵は凄いケチで。前の妻は頭がおかしくなって家を出たって聞いているわ。

レティシアは首を振って、


「いえ、遠慮したいと思いますわ」


あまりにも悲しかった。

どうしたらよいのか。


ただただ、死にたい。そう思えた。







リーリアとレティシア、そんな二人が、一月後、王立学園で出会った。


レティシアは、王立学園で教えてくれた教師に相談しようと、学園に訪れたのだ。

中庭でため息をついているリーリアを見かけた。


ベンチに座っているリーリアは泣いていた。

そっと近づいてレティシアはハンカチを差し出した。


「どうかなさいましたか?悲しい事でも?」


リーリアはレティシアの胸に縋りついて、ワンワン泣いた。


レティシアはリーリアの髪を優しく撫でた。

自分の妹もこれ位、可愛かったらよかったのに。


リーリアは大きな瞳に涙を流しながら、レティシアを見て、


「ごめんなさい。あまりにも毎日が辛くて」


「まぁ貴方もですの?」


「わたくし、リーリア・ハルデルクと申します」


「対抗派閥のハルデルク家の???」


「という事は貴方様は?」


「わたくし、レティシア・バレンと申します。でも、家を出て行かなくてはならなくて。学園の先生に相談しようと訪れたのですわ」


「何故?レティシア様が家を出なくては?」


「わたくしは前妻の娘なのです。父は母を愛していなかったみたいで、今は異母妹ばかり可愛がっていて。わたくしに家を出て行けと」


「まぁ。わたくしと逆ですわ。わたくしはマナーがなっていないと、義姉や両親に毎日言われていて。辛くて辛くて。レティシア様みたいな素敵なお姉様が欲しかったですわ」



レティシアはリーリアに愛しさを感じた。

だから、リーリアに、


「わたくしが貴方に全てを教えます。出来るだけ貴方に会いに来るわ。学園に。お友達になりましょう」


「いいのですか?レティシア様」


「せめて貴方には幸せになって欲しい。わたくしは駄目」


「そんな事は言わないで。一緒に幸せになりましょう」


リーリアと共に足掻いてみることにした。

時間を見ては王立学園に通い、放課後、リーリアにマナーや公爵令嬢として必要な事を教えた。


レティシアはまずは自分の出来る事、祖父に相談することにした。


元々、バレン公爵家は母が婿を取って継いだ家である。

それなのに、父が好き勝手をし、異母妹アリディアがネレル第二王子を婿に取って継ぐという形に強引になったのだ。

母の家を父が好き勝手している。義母も、異母妹も好き勝手している。


祖父はレティシアの訴えに、親身になって聞いてくれて、王家に苦情を入れる事にした。

血筋をなんだと思っているのかと。アリディアにはバレン公爵家を継ぐ、権利は何もないと。


王家は目を瞑っていたようだった。そりゃそうだ。ネレル第二王子が婿に入れれば、バレン公爵家の血筋なんてどうでもよいというのが王家の考え方だった。


だが、祖父の正式な訴えで、国王は改めて、


「アリディアとの婚約を解消させる。正式な血筋を持つレティシアと婚約を結ぶ事にする。これは王家からの命令だ」


レティシアはネレル第二王子と婚約を結ぶ事になった。


ネレル第二王子は、


「結局はレティシアと婚約か。アリディアの方が可愛らしくてよかったな」


だなんて言って来た。

レティシアはネレル第二王子に、


「わたくしも貴方様が婿で不満ですわ。ですから、種だけ貰ったら、儚くなってもらおうと思っております」


と言ってやった。

そうしたら、ネレル第二王子は真っ青な顔をして。


「わ、私を殺すというのか?」


「人生、何があるか解りませんもの」


「頼む。殺さないでくれ。我儘は言わないっ。言わないから」


こんな男を婿に迎えいれるのは嫌だったが、レティシアは我慢することにした。


父はまだまだ必要だったので、働かせる為に置いておくことにした。


義母とアリディアは追い出した。

馬車で送り出したが、門前に戻って来て騒ぎ立てた。だから、警備隊に通報して連れて行ってもらった。


学園に通い、放課後、レティシアはリーリアにマナーを教え込んだ。

リーリアのマナーは大分マシになった。

ダンスも一緒に練習し、公爵令嬢らしくなってきた。


とある夜会に出席する為に、レティシア自らリーリアを着飾らせた。

桃色のドレスを着せて、金の髪を巻いてアップにする。

リーリアは美人だ。

着飾ったらとても美しくなった。


レティシア自身も金の髪を巻いて、青のドレスを着て、オシャレをした。


そして、夜会の会場で、二人一緒に、カイデル王太子殿下とその婚約者のディセシアに挨拶した。


ディセシアはリーリアを虐めていた姉である。


レティシアは青のドレスを、リーリアは桃色のドレスを着て、優雅に挨拶をする。


カイデル王太子は二人の姿に見惚れたような顔をして。


レティシアがまず挨拶をする。


「レティシア・バレンと申します。ネレル第二王子殿下の婚約者ですわ。そしてこちらが」


「リーリア・ハルデルクと申します。以前、ご挨拶を致しました。姉、ディセシアの妹ですわ」


カイデル王太子は二人を見て、


「ああ、挨拶有難う」


レティシアがカイデル王太子に手を差し出して、


「ダンスを一曲お願いしたいですわ」


リーリアもにこやかに、


「次のお相手はわたくしにお願い致します」


ディセシアがイラついたように、


「わたくしの婚約者よ。貴方達とダンスを踊らせる訳にはいかないわ」



カイデル王太子はディセシアに、


「ダンスを一曲ずつ踊る位はいいだろう。ではまず最初にレティシア嬢から」


手を差し出してレティシアと踊る。

レティシアは完璧なステップでカイデル王太子はレティシアの耳元で、


「弟にやるのはもったいない。どうだ?私の側妃にならないか?」


「わたくしはバレン公爵家を継がなくてはなりませんので」


「アリディアがいるではないか」


「異母妹にはバレン公爵家の血は一滴も入っておりませんわ。王家はそれを知っていて、今まで押し進めてきたのですね」


カイデル王太子は顔を歪めて、


「それは仕方ない。ネレルは名門公爵家に婿に行ければよかったのだ。それが、レティシアでもアリディアでもどちらでもよかった」


「そうですの。それにしても、ディセシア様は、品格も何もございませんわね。王妃に求められる器が欠けているように思えますけれども」


「それでもディセシアはハルデルク公爵家の娘だ」


「そうですの。リーリアは?」


「あれの母は市井の女だろう。ダンスだって踊れるのか?」


「わたくしが鍛えましたから。踊ってみたらいかがです?」



リーリアが次にカイデル王太子とダンスを踊る。

完璧なステップで、華やかに桃色のドレスを翻して踊った。

カイデル王太子は思わず、


「随分と成長したな。完璧な公爵家の娘だ」


「有難うございます」


「正直、ディセシアの我儘にはウンザリしている。どうだ?お前と結婚してやってもいいぞ」


ディセシアがその言葉を聞いていたのか、傍に来ると、思いっきり、リーリアをビンタした。


「下賤の出の癖に生意気だわ。それに王太子殿下。こんな下賤な出の女と?わたくしを捨てて???」


カイデル王太子は、


「お前の我儘には正直ウンザリしていたんだ。ディセシア。婚約破棄をしてやる。そして私はリーリアと改めて婚約を結ぶ」


リーリアは目を見開いた。


レティシアがリーリアの肩に手を添えて、


「貴方なら大丈夫。わたくしが味方をするわ」


「で、でも‥‥‥」


真っ青な顔をしているリーリア。


そして同じく、青い顔のハルデルク公爵夫妻。まさかディセシアが婚約破棄をされるとは思わなかったのだろう。


カイデル王太子は、リーリアに向かって、


「お前と婚約をしてやる。感謝するんだな」


リーリアは頭を下げて、


「かしこまりました。ご命令とあれば承ります」


ディセシアはさらに掴みかかろうとして、近衛兵に連れて行かれた。


「わたくしが、わたくしがっ。王妃になるのよ。わたくしがーーー」


夜会の会場にディセシアの声が響き渡る。

出席者達は、

「まぁみっともない」

「本当に品位が問われますわね」


と口々に悪口を言い合った。




ディセシアは夜会で笑いものになり、ハルデルク公爵夫妻は貴族社会に顔を出さなくなった。

ディセシアは婚約破棄され、屋敷に閉じこもって。外に出てこなくなった。



リーリアは家を出て、今、王宮にいる。


レティシアが一緒だ。



カイデル王太子はリーリアに、


「お前は庶子で、下賤な出だ。だが、ディセシアよりも、余程、心が美しい。我が王国は今は平和な時代だ。これからの王妃は民の心を包み込むような慈愛が必要だ。ディセシアにはそれがなかった。リーリア。正式に私の妻になってくれないか?」


レティシアが笑って、


「わたくしは側妃にどうかと言っておいて、リーリアは妻に?」


カイデル王太子は、


「男として最低か?だが、リーリアを妻にと言った気持ちは本物だ」



リーリアはレティシアを見て、


「受けて大丈夫でしょうか?」


レティシアはリーリアの手を取って、


「わたくしが貴方の後見人になるわ。我がバレン公爵家が、リーリアを支えます。受けなさい。この話。わたくしと貴方の友情は永遠だわ。貴方が王妃として輝くのを傍で見ているわ。ずっと見ている」


「ああ、レティシア様。貴方はわたくしのお姉様だわ。本物のお姉様より、ずっとずっと大切なお姉様」


レティシアはリーリアを抱き締めて、


「リーリアもわたくしの妹よ。大事な大事なずっと大事な妹」




リーリアはカイデル王太子と婚約を結び、後に結婚して王太子妃となった。


リーリアを虐めていた伯爵夫人は、社交界からいられなくなり、追放された。

ハルデルク公爵家は評判を落としたが、親戚筋の青年が後を継ぐことになって、それなりに存続した。

ディセシアは後に修道院に入って、寂しく生涯を終えた。


ネレル第二王子は婿入りしたが、一生、レティシアには頭が上がらなかった。

機嫌を取っていつもびくびくしていたと言われている。


カイデル王太子に嫁いだリーリアは、男の子を三人産んで、

カイデルが国王になった時に、慈悲深い王妃としてリーリアは有名になった。


生涯、レティシアはリーリアを支援し、二人の友情は一生、続いたと言われている。


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