8.
今日は朝からとてもご機嫌だ。
そんな私に対して、兄たちは緊張で固くなっている。
そんなに緊張すると、魔物たちが敏感によってくるのに。
そう言う指導はされていないのだろうか。
まあ、良いけど。
寄って来るなら来るで、私が殺すだけだし。
今日私に同行するのは、黒翼兵団副団長のギディオン、第一隊長ガイとその部下だ。
ガイとその部下に会うのは、あの日以来だ。
ガイには、頭をグリグリ撫でられた。
ちょっと痛いけど、嬉しい。
ガイは約束を守ってくれたから。
黒翼兵団には、私のことはすでに伝えているらしい。
辺境伯領の住民にも知らせたようで、私に手を振ってくれる人もいた。
私も振り返した。
国にも養子の件を知らせているらしく、母が貴族たちが騒がしいと笑って言っていた。
その時の母の目は、飛行型魔物のように鋭かった。
思わず、飛び出しそうになった。
危なかった。
「では、出発しよう。」
私は要塞の前で、ガイの馬から飛び降りた。
「嬢ちゃん!?」
「走る。準備運動。」
「ガイ、構わん。閣下から好きにさせるように言われている。自己責任だと。」
「はっ!」
「速度はいつも通りで良い。合わせる。」
「わかりました、お嬢様。」
ギディオンと父が了承しているなら、文句を言う人はいない。
若干一名は、ずっと不満そうな顔をしているが。
ギディオンはそれをチラリと見た。
まだまだ子どもだ、と思いながら。
辺境伯の子息たちは、緊張を全く隠せていない。
それに比べて、5歳の少女を見た。
この落ち着きよう、それどころか楽しむ余裕すら見せている。
末恐ろしい子どもだ、とギディオンは思った。
「出発。」
改めてギディオンが号令をかけた。
ガイたちは、兄たちの周りを固めて隊列を作った。
馬が徐々に速度を上げる。
私は隊列の横を、馬の速度に合わせて走った。
しばらく走っていると、懐かしい『終末領域』の入り口が見えてきた。
中まで馬は連れて行けないので、領域の外で待機させておく。
「何層まで行ける?」
私はギディオンに確認した。
「普段の我々だけなら、四層までは行けます。」
「わかった。じゃあ、最終は五層で狩る。」
「…わかりました。」
五層は黒翼兵団でもごく一部しか行けない危険地帯。
護衛対象を連れてなど、本来なら考えられないのだが。
ギディオンは一抹の不安を抱きながら、領域に足を踏み入れた。




