5.
私の記憶の始まりは、おそらく3歳の時。
周りには誰もおらず、着ている服が全てだった。
それ以外は、何も覚えていない。
もしかしたら、忘れただけかもしれないが。
そこが『終末領域』だと言うのは知識であった。
戦い方も、生き方も、全て知識として知っていたし、身体が動きを知っていた。
何故だかは、私にもわからない。
私は生き残るために、この2年間、戦って、戦って、戦った。
ただ、それだけ。
私のしたことは、ただそれだけだった。
拙い言葉で話し終えると、一息をついた。
「2年前…そう言うことか。」
辺境伯は一人、何かを納得したようだ。
「ルーナ、うちの子になるか?」
意味が理解できず、首を傾げる。
「一般的にルーナくらいの子どもは、一人では生活出来ない。なので保護者が必要になる。それに、君の能力は手放すには惜しい。そして、我が家には女の子がいない。」
「最後が本音でしょうが。」
ジャレッドがボソリ呟いた。
「…あったかい布団と、美味しいご飯と、甘いお菓子は?」
「もちろん、好きなだけあげよう。」
「わかった、なる。」
最初の条件が守られるなら、私に否はない。
「ちょっと心配だな、この子…。」
ジャレッドがまた、ボソリと呟いた。
「まずはお風呂に入って、身なりを整えようか。」
毎日水浴びをしているので、それほど汚いとは思わないが、駄目だったらしい。
辺境伯がベルを揺らして、誰かを呼んだ。
「お呼びでしょうか、旦那様。」
「カエラ、今日から私の娘になるルーナルシアだ。」
「ルーナ、君の専属侍女になるカエラだ。わからないことはいろいろ聞くといい。」
「よろしくお願いいたします、お嬢様。」
「うん。えっと、よろしく?」
害意も敵意もない。
好意的な気配だから、大丈夫な人だ。
カエラに促されて、私は部屋を退出した。
わたしがお風呂に入っている間に、部屋を用意してくれるのだとか。
自分の部屋。
とても楽しみだ。
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ルーナがカエラに促されて、部屋を出て行った。
ルーナのお風呂の時間が終われば、すぐに夕食の時間だ。
その時に家族に紹介しようと思う。
「閣下、よろしかったので?」
「ああ。あの子が言っていただろう?少なくとも2年もの間『終末領域』を一人で生き残ったんだ。手元に置いておきたい。それにっこ2年、異常なほど『終末領域』が静かだったのは、あの子が魔物を狩っていたからだろう。これからどんな成長を見せるのか、楽しみだな。」
終わりの見えない『終末領域』との戦い。
もしかしたら、ルーナが鍵になるかもしれない。
辺境伯はこれからの未来を考えて、そう答えた。




