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桜の贈り物  作者: Miley
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 数か月かけて準備をし、私は企画書を夫に見せた。高校生や大学生を対象に、人生設計の重要性を伝える講座だった。『過去と未来を繋ぐ~若者のためのライフデザイン講座』。


「素晴らしい内容だね。君の実体験に基づいているから、説得力がある」

「早速実行しよう!」

「まだ育休中じゃないの?」

「ボランティアとしてやる!いいでしょう?」

「ふっ、本当、君はたいしたもんだよ」


 第一回のセミナーの会場には100名を超える若者たちが集まった。


「皆さんの中に、遊んでばかりの毎日で将来が不安な人、もしくは、その不安から目を逸らして今を楽しんでいることに後ろめたさを感じている人はいますか?」


 ほぼ全員の手が上がった。


「私もそうでした。でも、気づいた時から変わることができます。大切なのは『今』からスタートすることです」


 私は自分の体験を、転生の部分を除いて正直に話した。Aさんのライフパターン、過去の私。夜遊びに明け暮れた高校時代、大学中退、フリーター生活、留学での挫折。今に勢力を尽くし将来を駄目にしてしまったこと。Bさんのライフパターン、今の私。自分の人生をより良いものにする方法。


「過去の失敗は恥ずかしいことではありません。それも含めて、あなたの貴重な財産なのです」


 セミナー後、多くの若者が私のところに相談に来た。


「私も変わりたいです。どこから始めればいいですか?」

「まずは小さな目標から。今日できることを一つずつ積み重ねていきましょう」


 このセミナーは定期的に開催されるようになり、やがて全国展開された。私は講演活動と並行して、オンラインでの相談業務も始め、新しいキャリアも順調に進む。


娘の桜も順調に成長していた。


「ママ、さーちゃんこれかいた!」


とてとてっと紙を両手に大切に持って桜が走ってきた。


「なぁに?これ」

「さーちゃんと、ままと、ぱぱだよ」


画用紙には私と祐輔さんが桜を真ん中に手を繋いでいる…であろう絵が描かれていて、思わず胸が熱くなった。それを見ていた夫も感動で目を潤ませていた。


「この子にも、いつか私たちの物語を話してあげよう」

「もう少し大きくなったらね。でも、時間旅行の部分は秘密にしておこう」


 私たちは笑い合った。


 2026年の春、また今年も桜が咲いた。毎年この時期に咲く桜は、私の人生の節目を祝福してくれる大切な友人のような存在だった。


「桜の下でお花見をしようか」

「いいね。桜も喜ぶ」


 娘の桜は私の膝の上で、窓の外の桜を指差していた。まるで自分の名前の由来を理解しているかのように。


「桜、あれが桜よ。あなたの名前と同じ」

「サクラ」


 娘は小さな手を伸ばして、桜の花を掴もうとした。


 私は思った。人生は散りゆく桜のように儚いものかもしれない。でも、散った後には必ず新しい芽が出て、また美しい花を咲かせる。私の人生もそうだった。


 一度は散ってしまった私の人生。でも、もう一度チャンスを与えられて、今度はもっと美しい花を咲かせることができた。夫との愛、娘の笑顔、そして多くの若者たちの希望を支える仕事。


 すべてが、桜散る日から始まった物語だった。


「幸せだね」

「うん。本当に幸せだよ」


 窓の外では、春風が桜の花びらを舞い散らせていた。それは終わりの風ではなく、新しい季節への祝福の風だった。私たちの物語は、これからも続いていく。桜が散り、また咲くように。愛が時を超えて、永遠に繋がっていくように。


 そして娘の桜が大きくなったら、きっと私は伝えるだろう。


「人生は何度でもやり直せる。大切なのは、今この瞬間を大切にすることよ」


 桜散る季節に、私は新しい人生を見つけた。



 そして、その美しい人生は今も続いている。

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