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2025年の春が来た。桜が咲き誇る季節、前世で私が死んだ日。でも今年は違う。私のお腹には新しい命が宿っていた。
「もうすぐ会えるね」
夫が私のお腹に手を当てながら言った。
「楽しみだな。どんな子に育つかな」
「きっと君に似て、賢くて強い子になるよ」
自宅で会話をしているときに陣痛が始まった。タクシーの窓から見えた景色に胸が熱くなる。高層ビルの間を吹き抜ける風が、真っ赤な桜の花びらを舞い散らしていた。
「また、真っ赤な桜……」
「本当だ。あんな綺麗な桜初めて見たな」
病院に着くと、すぐに分娩室に向かった。長い陣痛の末、私たちの待望の第一子が誕生した。
「おめでとうございます。元気な女の子です」
看護師さんが赤ちゃんを私に手渡してくれた。小さくて、温かくて、生命力に満ち溢れた存在。
「こんにちは、はじめまして」
私は涙を流しながら、我が子に語りかけた。
「名前は『桜』にしよう」
夫が提案した。
「桜...いい名前」
「君と出会った時も、桜が咲いていた。そして君が生まれ変わった時も、桜が舞っていた。この子も、桜のように美しく、強く育ってほしい」
私たちの娘、桜。彼女の誕生と共に、私の新しい人生が本格的に始まった。私は産休からそのまま育児休暇を取り、母親としての新しい生活に没頭していた。
――1年後――――
「この子は本当に賢いね」
夫が桜を抱きながら言った。1歳の誕生日を迎えた桜の瞳にはどこか知的な光が宿っているように見えた。
「私の前世の記憶を受け継いでいるのかしら」
「それはないだろう」夫は笑った。「でも、君の強さは受け継いでいるかもしれない」
私は窓の外を見た。今年も桜が咲いている、真っ赤な花びらの桜もちらほら見える。もしかすると、これは私たちだけに見える特別な桜なのかもしれない。時間を超えた愛の証として、毎年この時期に咲いてくれるのかもしれない。
「私育休が明けたら、セミナーを開こうと思うの」
「セミナー?」
「『今を楽しむ若者へ 未来を見据えたライフプランニング』っていうテーマで。高校生や大学生に向けて、私の経験を伝えたい」
前世の失敗も、今世の成功も、すべて貴重な経験だった。同じような悩みを抱える若者たちに、私の体験を共有することで、彼らの人生の選択肢を広げることができるかもしれない。
「素晴らしいアイデアだね。会社も全面的にサポートするよ」
夫は社長になってから、社会貢献活動にも力を入れていた。私のセミナー構想も、その一環として全面的に支援してくれた。