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しかし、私の秘密を知ったのは佐藤部長だけではなかった。田中は再び私の前に現れた。今度は直接的な暴力ではなく、もっと巧妙な手段を使って。
「君の秘密を知っている」
会社での打ち合わせが終わり資料を片付けているとき、田中は私にそう告げた。
「何の話ですか?」
「とぼけても無駄だ。君は未来から来た。違うか?」
私の血の気が引いた。どうやって気づいたのか。
「この前もう一度君に近づこうと後を付けたらカフェに入ったもんだから、近くでご一緒させてもらったよ。部長さんと仲良くしてるみたいだねぇ。君には大変価値がある。一緒に大金を稼ごう」
「そんなこと、できません」
「できないではすまない。もし僕の協力を拒むなら、どうなるかは君の想像通りだろう」
田中の脅迫が始まった。競馬の結果、競艇のレース、株価の動向。あらゆるギャンブルや投資について情報を要求してきた。
「答えなければ、痛い目に遭うことになる」
実際に彼は暴力も辞さなかった。拒否すれば殴られ、蹴られ、身体的な暴行を受けた。でも私は屈服するわけにはいかない。傷を服で隠し、メイクで隠し、いつも通りに振舞っていたが部長の目はごまかせなかった。
「なぜもっと早く相談してくれないんだ」
「私は負けたくありません。もう二度と、あの男に人生壊されたくない」
そんな私の状況を察した佐藤部長は、ある提案をしてきた。
「田中を合法的に失墜させよう」
「え?」
「君の未来の知識を使って、彼を罠にかける。未来の世界でどんなことが起こるか、君は詳しく知っているだろう?」
確かに私は知っていた。2020年のコロナパンデミックで世界経済がどう変動したか、2022年のロシア・ウクライナ侵攻で株価や原油価格がどう動いたか。
部長の計画は巧妙だった。田中を騙すのではなく、まず信頼させるのだ。
「最初の数回は、完全に正確な情報を教える。彼に成功体験を積ませるんだ」
私は渋々従った。田中への最初の「予言」は全て的中した。小さな投資で確実に利益を出し、田中は私の能力を疑わなくなった。
「すごいじゃないか!もっと大きな勝負の情報はないのか?」
「そう焦らないでください」
3ヶ月間、私の情報は90%以上的中し続けた。田中の資産は順調に増え、彼の私への信頼は絶対的なものになった。そして、その時がやってきた。
「来月、X社が大型買収を発表します。株価は確実に3倍になります」
これだけが、唯一の嘘だった。実際にはX社は粉飾決算の発覚で株価暴落が予定されていた。
田中は迷わず全財産をX社に投じた。借金までして、レバレッジを効かせた。
一週間後、X社の不正会計が発覚。株価は90%下落した。
「なぜだ!今まで完璧だったのに!」
「申し訳ありません。でも、私がいた未来とは変わってしまったのかもしれません。私があなたに未来を教えたことで、運命が変わってしまったのかも…」
「騙したな!」
「99回当てて1回外れただけです。それを騙したと言うなら、そうなのかもしれませんね」
この一件で田中は破産、今まで的中し続けていたからこそ、最後の一撃が致命傷になったのだ。