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桜の贈り物  作者: Miley
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 2025年4月、桜が都心を彩っていた。高層ビルの隙間をすり抜ける春風が、花びらをひらひらと舞い散らせている。春の終わりを告げるかのように、ピンク色の雲が都市の灰色を染めていく。


 仕事帰りの疲れ切った足取りで、その美しい光景を見上げていた。夜桜がライトアップされた新宿の高層ビル街。まるで夢のような幻想的な風景だった。しかし、その美しさとは裏腹に私の心は空虚だった。


 31歳。これといった資格もなく、派遣社員として転々とした会社を渡り歩いてきた。夫の借金で家計は火の車。同年代の友人たちはみな家庭を築き、キャリアを積み、充実した人生を送っているというのに、私には何もない。何一つ誇れるものがない。


「私の人生って、いったい何なんだろう」


 そんなことを考えながら横断歩道を渡ろうとした時、ビル風に煽られて真っ赤な桜の花びらが舞い踊った。(美しい...)そう思った瞬間、激しいクラクションが鳴り響く。




―――――私は死んだ。――




 目が覚めると、見覚えのある天井、実家の自分の部屋。オフホワイトの壁紙に、10代の頃ハマっていたアイドルのポスター。机の上には常に出しっぱなしのメイク用品と、懐かしいスライド型の携帯電話。


「夢...?」


 机の上にある鏡に映った自分の顔に息を呑んだ。16歳の私がそこにいた。スウェット姿で、髪は染めたばかりのミルクティーブラウン、肌にはまだ若さが残っている。


 慌ててテレビをつけると、夕方のニュースが流れている。


「ポップスの王様、マイケル・ジャクソンさんが現地時間25日、ロサンゼルスの病院で死去しました」

「ドラゴンクエストIXが大ヒットを記録しています」


 記憶の奥底に眠っていた出来事が、まるで昨日起こったかのように報道されている。リビングに向かって震える手で冷蔵庫を開けると、中身の賞味期限はすべて「2009年」を示していた。


「2009年4月...16年前に戻ってる」


 現実を受け入れることができずにいると、懐かしい着信音が鳴り響いた。当時愛用していたウィルコムのPHS。着信音は当時ハマっていたNe-Yoの楽曲だった。


「もしもし?」

「あーちゃん!今どこにいるの?学校サボるなら連絡してよー!みんなカラオケに来てるよ!早く来てよねー!」


 親友のユミの声だった。彼女とは高校卒業後、次第に疎遠になっていった。大学中退後は特に連絡を取ることもなくなり、結婚の報告すらしていなかった。


「ごめん、今日はちょっと...」

「えー、なんで?体調悪いの?珍しいじゃん、あーちゃんがカラオケ断るなんて」


 そうだった。当時の私は毎日のようにユミや、地元の友達と遊び歩いていた。勉強なんてそっちのけで、友達との時間だけが大切、夜中に家を抜け出して朝方まで遊び回ることも珍しくなかった。


「体調がちょっと...明日は絶対行くから」


 電話を切ると、部屋の静寂が戻ってきた。机に向かい、当時の教科書を手に取る。数学、英語、国語。どれも全然理解できずに学ぶことを諦めたんだ。


 この時から私の人生は狂い始めた。遊びに夢中で勉強を疎かにした結果、地元の友達はほとんどが就職したり、専門学校へ進学した。私はどうしても大学に行きたくて、地元のFラン大学に進学。しかし、そこに私が思い描いていたキャンパスライフはなく、結局中退。その後はフリーター生活が続き、何をやっても長続きしなかった。


 留学も、英語ができないまま興味本位で行っただけで、結局何も得られずに帰国。そして、自分のことを好いてくれた男性と結婚したものの、彼の借金問題で生活は破綻寸前。


「でも、今度は違う」


 私は未来を知っている。これから起こることを知っている。マイケル・ジャクソンの死去はもちろん、東日本大震災、オリンピック、そしてコロナパンデミック。すべてを知っている私なら、人生をやり直すことができるはずだ。

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― 新着の感想 ―
過去のリアルとこれから起きることへの決意。魅力に惹き込まれる作品でした。 続きを楽しみに読ませてもらいます♪
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