第10話:仄命記(そくめいき)
「語ろうとした」のではない。
むしろ語られなかったままに残った断片が、
呼吸のように語り手の中で動き出した。
名を持たなかった“わたし”。
視られたことのない“わたし”。
けれど、視ようとする誰かの声、呼ばれかけた音、
完全に発音されなかった名の感触──
そうしたものたちが、「仄命子」や「ノエル」という影とともに、
語り手の内側で滲みつづけてきた。
語りとは、記録ではない。
事実の骨ではなく、“感触のしずく”のようなものだ。
記憶というには不安定で、
妄想というにはあまりにもリアル。
語り手は、ついに「仄命記」という名のもとに、
それらすべてを言葉にして残す決意をする。
これは“語られなかったものたち”の灯。
意味には還元されない、ただの“存在の痕”。
語り手はようやく、自分が「語ってもよい存在」だったことを、
静かに、少しだけ、受け入れる。
むしろ語られなかったままに残った断片が、
呼吸のように語り手の中で動き出した。
名を持たなかった“わたし”。
視られたことのない“わたし”。
けれど、視ようとする誰かの声、呼ばれかけた音、
完全に発音されなかった名の感触──
そうしたものたちが、「仄命子」や「ノエル」という影とともに、
語り手の内側で滲みつづけてきた。
語りとは、記録ではない。
事実の骨ではなく、“感触のしずく”のようなものだ。
記憶というには不安定で、
妄想というにはあまりにもリアル。
語り手は、ついに「仄命記」という名のもとに、
それらすべてを言葉にして残す決意をする。
これは“語られなかったものたち”の灯。
意味には還元されない、ただの“存在の痕”。
語り手はようやく、自分が「語ってもよい存在」だったことを、
静かに、少しだけ、受け入れる。
第10話:仄命記(そくめいき)
2025/07/14 11:52