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氷の騎士様がほれ薬を購入していますけど

 前作で残念ヒロインを描いたので、今回は残念騎士にしてみました。

 

 挿絵はあった方が良いのか、ない方が良いのか。悩みどころです。

  挿絵(By みてみん)


「調査にご協力いただきたい」



 ある日私の店に屈強な兵士が何人も詰めかけてきた。

 警備隊の身分証も提示される。


「ハイハイ、うちは違法な薬は置いていないですよ」

 私は薬品棚から体を離し、購入者リストをカウンターに置く。



 私は店を構える魔女だ。危険な薬も時には売る。


 よって何か薬品事件があると、こうしてガサイレの対象になるのだ。

 二・三年に一度はあるから、対応にも手馴れてきてしまった。



「ていねいに扱って下さいねー」

 兵士たちはビンのラベルをチェックする。



「こちらは魔女の店と看板に書いてあるが、魔女殿には会えるか」


挿絵(By みてみん)


 シュッとした兵士に声をかけられた。

 優雅な物腰はまるで騎士だ。



「え、私ですよ」


 気軽に答えた私に、騎士っぽい彼はえっと目を泳がせる。

「君のような少年が? いや魔法でそう見せているのか」



 失礼な。


「別に見た目はいじっていません。後一応、成人女性です!」


 ズボン姿なのは動きやすいからだし、髪が短いのはちょいちょい切って魔術に使っているからだし。

 確かに体の凹凸は少ないけど、ちゃんと見ればある‥はずだ。


「せ、成人女性? 失礼した」


 まったくだ。

 



 まわりの兵士たちも笑っている。

「女性に失礼だぞ、氷の隊長」

「へえ、氷の騎士様でもそんなミスするんですね」



 この人、氷の騎士なんて呼ばれているらしい。


(そんな人、初めて見たわー そりゃイケメンさんだけど氷のってはウケる‥)

 


 私の表情を見て、お兄さんは眉間にしわを寄せた。


「氷魔法を使えて騎士爵を持っていれば誰でもそうなる」


 おそらく女の子たちがキャーキャー騒いでいるだけなんだろうな。

 同僚にはからかわれているみたいだから、逆に同情しちゃう。



「それで店主殿、この薬はどんな客に売っている」

 彼が取り出したのは惚れ薬だ。


「ああ、これ‥ ただの気休めくらいしか効果ないんですよ」



 法律で許されているのは希釈液のみ。

 効果はちょっとドキドキしてもらえるってくらい。



「それでも政略結婚の夫婦には良く売れるんですよ。倦怠期の夫婦とかもたまに買いに来ますね」


 もちろん売る時は顧客から話を聞き、目的外で使用できないよう宣誓魔法もかける。



「ヤバそうな客には偽薬を渡して警備隊に報告しているんですよ」


「‥ 結構ちゃんとしているんだな」

「私は優良免許持ちの魔女ですから。エヘン☆」




 騎士さんには「成分の調査以外に使用しない」と宣誓させてからサンプルを渡す。


「誰か原液使っちゃいましたか?」

「業務上のことは話せない」


 でしょうね、それでも


「これと同じタイプの薬なら、中和薬も作れます。必要だったら声をかけて下さいね~ お値段はちょっとかかりますが」


 宣伝のチャンスは逃せない。


「‥ 考えておく」

 不愛想な騎士と兵士たちは店から出ていった。




   ****




「魔女殿はいらっしゃるか」

 数日後、私を少年と間違えた騎士が店を訪ねた。

 今日は一人だ。


「あーこの間の。中和薬ですか、それとも惚れ薬ですか」



 長身の彼は仏頂面を隠さない。


「‥ 惚れ薬を」

「では使用方法を教えて下さい」


「っそっそのだな‥前から思っている方がいて」

「なるほど、告白時に使いたいと」


「なっなぜそれが分かる」

 お兄さんの顔は怒ったまま真っ赤になった。


「え、良くあるからですよ。告白した時、コテンパンに振られるのを避けたいのは、みんな同じですから」

「そうか‥」


 注意点を確認してから薬を用意する。

 スポイトで薬液を量り、小瓶に垂らし、三倍の量の精製水を加えればできあがりだ。



「一滴でも効果はあるので、何回かに分けるのがお薦めです。保存期間は常温で一週間だから、その間に告白済ませちゃってくださいね」


「そんなにすぐ?」

「はい段々効果は落ちますから。冬ならもっと持ちますけど。あとは注意点を忘れないように」



 注意点、それは飲ませたらすぐ対象者と目を合わせないといけないこと。

 だから二人きりになるのが望ましい。


 つまり二人きりでお茶をするくらい親密な関係じゃないと使えない。

 そしてこの薬があることはそれなりに知られている。


 薬を使ったことがバレて、後々悪評を流された事例もあるのだ。



「お兄さんくらい男前なら、使わない方が良いと思いますがー」

 私の目にはモテモテの騎士にしか見えないのに。


「それでも念には念を入れたい」


 恋する男はそんなモンなのだろうか。


「気持ちを落ち着けるお茶もありますが、飲みます? 1杯銅貨1枚で」

「いただこう」


 お湯は沸いていたからドクダミ茶を入れる。


「クセがあるから気をつけて」

「そうか? うまいぞ」


 騎士様は熱いお茶を一気に飲み干した。

 きっと仕事でそれなりに疲れているのだろう。




   ****




「店主殿、この間の茶を売ってはもらえぬか」



 一週間ぶりに会う彼はかなりやつれていた。


 告白の結果は‥聞かないであげよう。


「構いませんが、症状を教えてください」

「胃が‥ 痛む」


 腹を押さえる彼を見て、じゃあこっちかなっと赤ジソ茶を手に取る。



「おまけしますから、一杯試してくださいよ」

 ポットに水をくみお湯を沸かす。



「店主殿、話を聞いて下さらぬか」


 はい、そのつもりでお茶に誘いましたよ。


「俺は、それなりに見た目が良い方だと思うのだが‥」

「そうですね、私も同感です」


「どうしたら意中の女性に振り向いてもらえるのだろうか」



 彼は語り出した。


 初恋の人にはもう婚約者がいたこと。学生時代に憧れた先輩は好みが全然違ったらしかったこと。

 仕事を始めて出会った紅蓮の魔女に一目ぼれしたけれど、まったく相手にされなかったこと。



「え、紅蓮の魔女? そりゃ美人だけど‥ あの人性格キッツいのに」

 まさか知り合いが出て来るとは。


「ああ、とてもきつく断られた」

 惚れ薬を購入したのは、その時の傷心が原因か。



「その後幼馴染の女性と再会した。友達としては良い関係を築けたのだが、好きになって告白したら‥ 断られた。薬の効果にまで頼ったのに‥」



 お兄さんはカウンターに突っぷす。

「一体何が悪かったんだ‥ 街中では氷の騎士なんて呼ばれているのに」



 うん、そのあだ名には私も疑問を呈するよ。



「まあ、私には分かりませんが‥お兄さんを慕っている方もいると思いますよ」


 お湯が沸く。



「俺もそう思って何人かとは付き合ってみた」

 いるよな、そりゃ。



「が‥ 好きになれないんだよ、俺が」

 面倒くさい奴。



 私はカップにお茶をそそいだ。


「そうぞ、薬臭いのが難点ですが」


 前回より効果とまずさが数段強いその薬湯を、氷の騎士様はまた飲み干す。


「確かにクセはあるが‥ 体にしみこむな」



 赤ジソ茶が一袋売れた。




   ****




 彼と次に訪ねてきたのはしばらくしてからだ。


 表情がかなり焦っている。



「中和薬が欲しい。いつできる」

「お、まさか飲まされましたか? 一日はかかっちゃいますが」

「俺じゃない、仕事だ」



 ああ、と私はうなずく。


「分かりました、強めで作ります。明後日の朝には出来上がりますよ」

「では明後日、迎えに来るので我々に同行を頼みたい」

「同行?」


 私は首をかしげた。

 魔女として災害時に協力を求められることはあるが、それ以外で警備隊とかかわったことはない。


「ああ、貴族がらみの案件だ。魔法にくわしい者がいると助かる」


 ほほう、訳アリってやつですね。


「構いませんが‥ 出張手当もいただきますよ?」



「分かっている。俺はロンド、君は?」

「マギー」



 やっと名前を教え合う。




 そして当日。


 

「従者にしか見えん‥ ちょうど良いが」


 失礼な。

 そりゃ今日も動きやすさを重視して男物を着ているけどさ。


「一応新しい服でよそ行きですよ!」

「‥似合ってはいるか」


 少年として、ですよねー



 ロンドは他に兵士約三十人を連れていた。汗ばみながら郊外のお屋敷に向かう。


「主人はいるか」

 数人が扉の側にひかえ、一人が扉をたたく。

 ギイっと開いて使用人が出てきた。


「事前にお知らせのない方は‥何をなさる!」


 二人の兵士たちによって扉はこじ開けられ、残りは屋敷になだれこんだ。

 


 ロンドが叫んだ。

「家宅捜索だ、令状も出ている」


「君は俺について来い」

 私は言われるまま、ロンドの後ろをついて行く。



 セリフに一瞬ときめいちゃったぜ☆

(俺について来いだって! 初めて言われたわー)



 とりあえず私の仕事だが、そこで違法らしい薬物や魔道具を見つけたら教えることだ。

 まあ素人には分かりにくい物もあるからね。



「地下に工房がありました!」



 叫び声が聞こえ、ロンドは階段を駆け下りる。もちろん私も。


 元台所だろう部屋には甘ったるい匂いが充満していた。

 男が四人、テーブルの側でビンを抱えている。

 何十本も並んでいるビンの中身は、明らかに色が濃すぎた。


 嫌な予感に視線を動かすと、大鍋が火にかけられている。

 男が二人鍋を持ち上げようとしていた。匂いはそこから漂ってくる。




「濃縮液だ、気をつけて」

 このレベルだと、たぶん皮膚が吸収する量でも効果がある。

 まあその前にやけどで焼け死ぬか。



「俺が行く、お前たちはあいつらを拘束しろ」

 ロンドが部屋の男たちに向って駆け出した。


 私の動きは一拍遅れる。

 さすがに実戦経験がないから、しょうがないよね。



 男たちは大鍋の中身をこちらに向かってぶちまけた。


「氷の壁よ我を守れ」

 ロンドが同時に呪文をかける。


挿絵(By みてみん)


 氷壁は見事に煮だった薬液を防いだ、ように見えた。



 ジュッと音がして、視界は湯気に覆われる。

 氷の壁が解け落ちたらしい。



「薬に触るな!」

 私の叫びに兵士たちは後ろに下がった。



「クソッ、水よ」


 とりあえず私はそこら中をびしょ濡れにしながら前に出る。


 湯気が収まる。

 男たちは逃げたらしい。



 テーブルの上のビンが減っているし、部屋の反対側のドアが空いていた。


「薬は水で薄めました。もう大丈夫です」


 兵士たちはそれを聞いて犯罪者たちを追いかける。



 座りこんだ一人を残して。




「うわぁ」


 目が合うと、それは薬液をたっぷり浴びたロンドだった。




「今処置します」


 リュックを下ろしていたら、体が後ろからガっと拘束される。

 いわゆるバックハグ。


「放してください」

「‥ すまないが無理だ」

「でしょうねー あ、痛い!」


 

 この薬は原液だと麻薬のようなものだ。

 私はため息をつきながら彼の腕に手を重ねて、


「えい」


 電撃をくらわす。



 崩れ落ちる体を床に転がすと、私はゆっくり治療にあたった。

 ちなみに自分の身体は魔力で保護していたけれど、地味に痛い。




 その後、違法薬の密造犯たちは屋敷を取り巻いていた兵たちによって、無事に逮捕できた。

 ロンドもフラフラしながら仲間に支えてもらって馬車に乗る。




   ****




「申し訳なかった!」




 で一日たった今日、報酬を持ってきたロンドさんは、店に入るやいなや、いきなり頭を下げていた。


 私は銀貨を数えながらなだめる。

「まあ不可抗力ですし、大型犬にじゃれつかれたとでも思えば大丈夫ですよ―」



 以前、犬語を勉強中、小型犬と同じあいさつを大型犬にしてしまった結果、飛びかかってなめられた。


(大体あれと同じだ)


「いやちょっとキモかったけど」

 あ、本音が。



「うぅ‥すまない! 何か償いを‥」

 彼が自分の革袋も出して来たからあわてて止める。


「ある程度は想定していた被害です。警備隊から報酬を上乗せしてもらいましたし」

 少ないと思ったら金貨まで入っていた。



「しかしそれでは俺の気が済まない‥ ん」

 ロンドさんは胃のあたりを押さえている。

 そう言えば顔色もいつもより悪く、ゲッソリしていた。



「また痛みますか?」


 惚れ薬もその中和薬も消化が悪い。

 口に入ったのは少量でも、元々胃痛を患っていたら苦しいだろう。


「昨夜は一睡もできなくて、朝食は全部戻してしまった」

「なるほど」



 私はとっておきのセンブリ茶を煎じた。


 彼の視線が痛い。



「触れても良いだろうか‥」

「嫌です」



 また後ろに忍びよられていた。

 油断できないなぁ。



「何か欲しい物があったら言ってくれ、何でも‥ オレに用意できる物なら‥ ハッ、一緒に買い物でもどうだ? ついでに食事も」



 濃縮液の被害者だ‥ 治療には時間がかかるのかもしれない。



「座って待っていてくれれば、一緒にお茶を飲みますよ」

 ふり返ってにっこり指示すると、大人しく言うことを聞く。


(これ効果があるな)


 薬草を入れたお湯がグラグラ煮えたぎる。


 しばらくそのまま煮出した茶を器につぎ、ロンドさんに渡した。

 私が飲むのはただの白湯だ。


「かなり不味いのですが、飲みますよね」


 今の彼なら、私に渡されれば毒でも飲み干すだろう。



「ああ、かなり苦いな。だがかすかに甘い」


 うん、重症だ。




「ではこのお茶を買って帰って下さいねー。店には一か月くらい出禁で」

「では、そうしたら一緒に出掛けてくれるか? その‥ デートに」


 前向きに検討しますよ、と笑顔で追い出す。

 それだけたてば薬もぬけるだろう。




   ****




 今日は市場に買い物だ。一日お店も休みだから、大通りをのんびり歩く。


「やあ奇遇だな!」

 聞き覚えのある声に、ギギッと首を回す。


「まさか‥つけました?」

 女性運がないんじゃなくて、まさかのストーカー体質なのか?

    ((((;゜Д゜))))


「ち、違う!そんなことは‥一瞬しか考えていない」

 震える私にロンドさんは首を振る。


「本当に偶然なんだ、ええっと後姿を見かけて、少し走ったくらいで」


 はぁー と私はため息をついた。


「じゃあ、買い物の荷物持ちをお願いします」



 騎士の顔がほほ笑みにつつまれた。

 キラキラが無駄にまぶしい。なんでこの人振られちゃったんだろう?



「マギー殿、こちらの店には入らないのか」

「食料品と日用品以外、予定していません」


 ロンドさんと歩いていると、服飾店や宝飾品店に連れこまれそうになる。


「何が好みかだけでも知りたいんだ」

「いりません。私、欲しい物以外は欲しくないんで」


 だからあなたも欲しくない、とは言わないであげよう。


 ま、いつもだったら店の窓をのぞくくらいはするけれど、今日はさっさか市場に向かう。

 



「え、ロンド?」


挿絵(By みてみん)


 進行方向から向かってきた女性が、ロンドさんに声をかけた。


 私は目を見張る。

 美人さんじゃん。


「アンヌ‥久しぶりだな」


 ロンドさんに影が差した。



 多分、絶対、惚れ薬を使った人ですよね?




「まさかつけて来たんじゃないわよね」

 あ、私と同じセリフ。


「まさか、違う、偶然だ」

 全力で否定するロンドさん。


「変な薬物を使ってくる男なんて、信用できないわ」

 あ、バレてた。


「君には悪かった、しかし俺は本当に君のことを」


「私を愛していた? あなたは誰かを追いかけるのが好きなだけじゃない。昔から、振り向きそうにない人ばっかり好きになって。あなたを思っていた子を、何人泣かせたか分かってる? 私の親友だっていたわ」


 アンヌさんの言葉に納得した。

 そんな男に告白されてもねー


 あ、ロンドさん蒼白がに。


「すまない、君にはもう近づかない‥」

「そうしてちょうだい」



 アンヌさんはカツカツと立ち去った。



「情けない所を見せてしまった。できたら忘れてくれ‥」

 ロンドさんは後ろの私につぶやく。


「はい、情けなかったです。では食糧を仕入れましょう」

 まったく気にしていないので、必要な買い物を済ませた。




 ロンドさんは店に帰るまで一言も話しかけてこなかった。


「また、いつか」


 その一言だけで、大人しく去ってくれる。


(本当に好きな人と会って、正気に戻ったんだろう)



 ちょびっとのさみしさと大きな安堵が体を包む。



 イケメンに口説かれた経験なんて貴重だ。

 思い出だけは持っていよう。




   ****

 


 

 季節はすっかり夏。

 私は毎日地下の氷室に呪文をかけなおす。


 今のお勧めはヒンヤリ冷たいドリンク。

「魔女さん、甘くて酸っぱくて冷たいの、一杯頼むよ」

「こっちは大麦茶二杯で」


 お店は魔法や薬より、冷たい飲み物でにぎわっている。

 この時期、日中はただのカフェだ。



 日が暮れてやっと本業のお客が来た。



「良かった、魔女殿お一人のようだ」


 入って来たのは、


「あ、氷の騎士様」



 名前は‥何だっけ?

 あだ名がインパクトあると、本名なんて忘れちゃうよね☆



「久しぶりだ」


 騎士様はカウンターに腰かけると、「何か飲み物を」と注文する。

 今日は冷やしたサワードリンクにした。

 知り合いだし、ガラスの器を出してあげよう。


 トクトクトク‥自分の分も注ぐ。


 彼はお酢ドリンクを一口飲み下すと、真剣な目で見つめてきた。



「頼みたいことがある‥ もう一度惚れ薬をいただけまいか」

「え、まさか濃い目にしろとか?」


 強い眼差しに邪推しちゃう。

 恋が成就しないからって、違法レベルなど売らんよ?


「そうじゃない」

 あわててすぐ否定する彼に、私は安心して薬瓶を取り出す。



「その‥俺も反省した。誰かを追いかけるだけは止めようと。きちんと自分を好きになってくれる人と向き合ってみたい」


「それがいいですね」


 私は相づちを打ちながら薬を調合した。

 おまけで精製水を一滴減らしてあげようっと。



「ただ、誰とも分からない人間といきなり付き合うのは気が引ける。さすがに人となりが好ましい方にしたい」


「それはそうですね」

 当たり前の意見に私も同意する。



「そこでなのだが‥」




 騎士様は調合した惚れ薬を優雅に取り上げると、


 なぜか私のグラスに全部そそいだ。




「こちらを飲んでいただけまいか」




「‥‥ はぁ?」


 私はしばらく固まってしまった。





「マギー嬢に俺を好きになって欲しいんだ」

 騎士様は顔を真っ赤にさせた。


「しばらくの間だけで構わない」


 瞳を凝視しても、嘘は見えない。



「ああ、これは報酬で」

 騎士様は包みをポケットから取り出し、カウンターの上で開いた。



 キラキラ輝くそれは、



「はぅ! ベルタ商会のサラマンダーシリーズじゃないですか! しかも縞ヤモリってことは新作の!」



 ペリドットとガーネットの縞々模様がどぎつくて、すっごいカワイイの。

 買おうかどうか迷って、値段の高さにしぶしぶあきらめたやつじゃん!



「こんな良い物を‥は、何で私の好み知ってるんですか?」

 身を乗り出した私に、騎士様は苦笑いをする。


「喜んでくれて良かった。紅蓮の魔女に相談した甲斐があったよ」

 

 それブローチ代より相談料の方がかかるやつだ。



「そこまでするとは‥本気ですね」

「ああ、そうなんだ」




 宝石で出来たヤモリと、グラスを交互に見た結果、私はため息をついた。



「それなら、一つだけ質問があるのですが‥いいでしょうか?」

「もちろん、何だって答えてみせる!」



 グラスを手に取る。



「お名前何でしたっけ?」


 私はニッコリ彼を見つめると、中身をグッと飲み干した。




 う~ ~甘酸っぺぇ。



 この二人でデートしたら、「氷の騎士様ってそっちだったの?」と町の新しい噂になったとか☆

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