記録1 あの日の契約と誤算
「僕のための約束――それを代償とし契約をしよう、善良なウィストール。いつも僕を見破る、忌々しいきみよ」
遠い、遠い昔のあの日。金の陽射し色の瞳を細めて、魔物は笑んだ。
魔物の名は、黄金の昼下がり。
彼と契約をするためには、以前の契約者を上回る代償を支払わなくてはならない。
僕は契約のために、とある約束をした。
「簡単な約束さ。次の契約者が見つかるまで、ただ僕と一緒に生きてくれればいい」
彼の言うその約束こそが、現在の僕をどうしようもなく困らせている最大の悩みの種だ。
彼は、わかっていたのだ。そんな代償を上回るほどのものを支払える次の契約者なんて、現れやしないと。
そして内心で僕を嘲笑いながらも、自らの生への道連れを手に入れようとした。当時の彼は狡猾だったのだ。
「……さあ」
彼は、僕に蝋のような白い手を差し出してきた。触れる前から熱を吸い取られそうな感覚に襲われる──まるで、人生すべてを奪い取られるかのようだ。
その手を握れば、僕の運命はめちゃくちゃになるだろう。
それでも、後に引けなかった。彼に閉じ込められてしまった兄を救い出すには、彼の主人になって命令を下せる立場になるしかなかったのだ。
僕は緊張で震える手で彼の手をとった。
指と指が絡み合い、額同士が触れる。
その瞬間、世界を塗り替えるような風が、ぐるりと僕らを取り囲む。
思わず閉じていた目を開くと、目の前に彼の顔があった。
美しく妖艶に微笑むその姿は、かつての初恋の少女のもの。深層心理から理想の姿を読み取って変身するというだけあり、その微笑い方は、どうしようもなく僕の心を乱す。
彼は擽るように甘く囁いた。
「なんでも言って、僕の新たな契約者。僕は、きみのためにどんなことでもしよう」
――黄金の昼下がり。通称アウル。
『永遠』の概念を司り、何があっても死なない無敵の魔物。幸福な幻想を永遠に見せ続け、対象にそうと気づかせないまま閉じ込め続けることができる、究極の封印術式。
あの日、僕は永遠と契約をしたのだ。二十三歳だった。
そりゃあ僕だって、アウルとは長い付き合いになるだろうとは思っていたさ。
けれど、さすがに想像できるわけないよ――まさかあれから、二千年以上も生きることになるなんて!
今日もアウルは、可愛く笑いかけてくる。
「ウィズ。千年後も一億年後も、世界が滅びてしまっても、永遠にずっーと一緒だよ!」
――は、早く後継者を探さないと!
明日……いや、来週中には絶対に!