第八話【悲報】主人公特権発動? 美少女の記憶操作が効かない件
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目の前で起こっている現象に、俺、平凡太は完全に思考が停止していた。
東屋の中、俺が探していた白いコートの少女――彼女の身体から、淡く、しかし力強い白い光のオーラが立ち上っている。それはまるで、真冬のダイヤモンドダストのようにキラキラと輝き、周囲の雪を幻想的に照らし出していた。美しい。だが、同時に、得体の知れない恐怖も感じさせる光景だった。
俺のポケットの中のヒロインレーダーも、まるで呼応するかのように、これまでで最も激しく明滅を繰り返している。ピッピッと電子音まで鳴り始めた。おいおい、そんな機能あったのかよ。しかも結構うるさいぞ、これ。
少女自身も、自分の身体から発せられる光に戸惑っているようだった。その透き通った瞳が不安げに揺れている。
「な…なに、これ…?」
か細い声が、彼女の唇から漏れた。
まずい。これは、彼女の持つ『特別な力』が、不安定になっている証拠じゃないのか? 俺がしつこく話しかけたせいか? それとも、このレーダーが何か悪影響を…?
考えられる原因はいくつかあったが、今はそんな分析をしている場合じゃない。このままでは、何が起こるか分からない! 雪まつりの会場で見た、あの男性が一瞬記憶を失ったかのような現象…あれが、もっと大規模に起こる可能性だってある。
「お、落ち着いて! 大丈夫だから!」
俺は咄嗟に、できるだけ安心させるような声色で呼びかけた。だが、正直、俺自身が全く大丈夫じゃない。心臓はバクバクだし、足はガクガク震えている。何が「大丈夫」なのか、根拠は皆無だ。
少女は、俺の声にハッとしたように顔を上げた。その瞳には、依然として強い警戒心と、新たに生まれた混乱の色が浮かんでいる。彼女は後ずさり、東屋の柱に背中をぶつけた。逃げ場はない。
「ち、近づかないで…!」
拒絶の声。だが、その声は震えていた。恐怖に支配されているのが伝わってくる。
白いオーラは、ますます勢いを増していく。周囲の気温が、さらに下がったような気さえする。レーダーの電子音も、警告音のようにけたたましく鳴り響いている。
どうすればいい!? この状況を、どうやって打開すれば…!?
俺がパニックに陥りかけた、その時だった。
少女が、何かを決意したかのように、震える手で、俺の方へと手を伸ばしてきた。
え? 手…?
その白い手は、まるで助けを求めるかのように、ゆっくりと、しかし確実に、俺の腕に向かって伸びてくる。
これは…どういうことだ? 彼女は何をしようとしてるんだ?
反射的に身を引こうとしたが、できなかった。彼女の瞳に宿る、悲痛なまでの切実さが、俺の動きを縫い止めた。
そして、ついに。
ひんやりとした、雪のような感触の指先が、俺のコートの袖に、そっと触れた。
瞬間、少女の身体から放たれていた白いオーラが、まるで俺の身体に吸い込まれるかのように、急速に収束していくのが見えた。レーダーの激しい点滅と警告音も、ぴたりと止んだ。
東屋の中には、再び静寂が戻る。
ただ、降りしきる雪の音だけが、しんしんと響いていた。
何が…起こったんだ…?
俺は呆然と、自分の腕に触れたままの少女の白い手を見つめた。彼女は、息を荒げながら、驚いたように自分の手と俺の顔を交互に見ている。
やがて、彼女は信じられないものを見るかのような目で、俺を見つめ、そして、震える声で呟いた。
「……覚えてる…?」
「え?」
覚えてる? 何をだ?
「私のこと…覚えてるの…? さっき、会ったことも…今、こうして話していることも…」
その言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。
さっき、雪まつり会場で男性が彼女に触れた時、記憶を失ったようになっていた。つまり、彼女の力は、自分に触れた相手の記憶に、何らかの影響を与えるもの…? 自分に関する記憶を消してしまう、とか?
だとしたら…。
「あ、ああ…覚えてる。覚えてるぞ。さっき、君に声をかけて…その、無視されて…」
「……!」
少女は、俺の言葉に、明らかに動揺した様子を見せた。その透き通った瞳が、驚きと、信じられないという色で大きく見開かれる。
「どうして…? いつもなら…触れたら、みんな…私のことなんて…」
忘れてしまう、ということだろうか。
自分の存在が、他人の記憶から消えてしまう。それが、彼女の『特別な力』の正体…?
だとしたら、なんて孤独で、なんて悲しい力なんだ。
そして、なぜか、俺にはその力が効かなかった。
これは、あの神(?)が言っていた、俺の「平凡耐性(仮)」とやらのおかげなのか? それとも、髪が少ないから…いや。何か別の理由が…?
「……あなた、一体…何なの?」
少女は、警戒心と、それ以上に強い好奇心を含んだ目で、俺をじっと見つめてきた。さっきまでの、氷のような拒絶の壁が、少しだけ、本当に少しだけ、崩れたような気がした。
俺に、彼女の力が効かない。
その事実が、彼女の中で、何か大きな変化をもたらしたのかもしれない。
これは、チャンスだ。
彼女の心に踏み込む、絶好の機会かもしれない。
俺はゴクリと唾を飲み込み、意を決して口を開いた。
「俺は、平凡太。ただのフリーターだ。でも…君のことが、どうしても気になって、ここまで来た」
「どうして…?」
「君が、すごく辛そうに見えたから。そして…君が抱えているものが、何か特別なものだって感じたからだ」
俺は正直に、自分の気持ちを伝えた。もう、下手な誤魔化しは通用しない。
少女は、黙って俺の言葉を聞いていた。その表情はまだ硬い。だが、その瞳の奥に、微かな揺らぎが見えるような気がした。
「……私の名前は…」
彼女が、ぽつりと呟いた。
「しらゆき……」
しらゆき?
「白雪…忘…」
目の前の美少女――白雪 忘。名前を教えてくれたってことは、めちゃくちゃ前進だよな。生え際も前進頼むぜ。
(第八話 了)
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