第七話【悲報】GPS代わりのレーダー、ポンコツ疑惑が濃厚になる
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カフェを飛び出した俺、平凡太は、夜の札幌の街を駆けていた。目指すは、SNSの写真に写っていた場所――大通公園の西の端だ。あの白いコートの子が、まだ近くにいるかもしれない! その一心で、凍てつく寒さも忘れ、ただひたすらに足を動かす。
(頼む…! まだいてくれ…!)
逸る気持ちを抑えきれない。だが、焦りは禁物だ。今度こそ、慎重に、かつ大胆に(できるのか?)アプローチしなければならない。同じ失敗を繰り返すわけにはいかないんだ。
息を切らしながら、ようやく目的地のエリアにたどり着く。雪まつりのメイン会場からは少し離れているためか、人通りはまばらだ。大小様々な雪像がライトアップされているが、中央エリアほどの派手さはない。静かで、どこか落ち着いた雰囲気だ。
俺はスマホの写真と見比べながら、例の雪像を探した。あった! これだ! 少しユーモラスな表情をした、デフォルメされた動物の雪像。写真の隅に写っていたのは、確かにこの雪像の前だった。
周囲を見渡す。だが、あの白いコートの少女の姿はどこにも見当たらない。代わりにいるのは、寒そうに寄り添うカップルや、記念写真を撮る家族連れだけだ。
(もう、行っちゃったのか…?)
がっくりと肩を落とす。せっかくの手がかりだったのに、またしてもタイミングが悪かったのか。いや、SNSの情報なんて、しょせん過去のものだ。彼女がずっと同じ場所にいるはずがない。
(落ち着け…レーダーだ。ヒロインレーダーを確認しよう)
俺は再び、尻ポケットからあの黒いカードを取り出した。カードに意識を集中させる。すると、淡い光の地図が浮かび上がった。
光点は…?
依然として、この大通公園の西側エリアを示して、チカチカと点滅している。さっきとほとんど変わっていない。
「おいおい…これじゃあ、いるのかいないのか、さっぱり分からんぞ…」
思わずレーダーに向かって毒づく。もう少しこう、ピンポイントで「ここ!」みたいに示してくれてもいいんじゃないのか? これじゃあ、宝探しというより、闇雲に歩き回るしかない。まるで、質の悪いソシャゲのイベント周回みたいだ。
(もしかして、このレーダー、俺の精神状態とかに反応してるのか? 俺が焦れば焦るほど、精度が落ちるとか…? いや、それともやっぱり、俺の髪の…)
いかんいかん、また不毛な考察に陥るところだった。今はとにかく、このレーダーが示すエリアをしらみつぶしに探すしかない。幸い、エリア自体はそこまで広大ではない。時間はかかるかもしれないが、可能性はゼロじゃないはずだ。
俺は意を決し、レーダーが示す光点の中心付近と思われる方向へと歩き出した。キョロキョロと周囲を見回し、白いコートを着た人物がいないか、注意深く観察する。
雪を踏みしめる自分の足音だけが、やけに大きく聞こえる。時折、他の観光客とすれ違うが、誰も俺が探している少女ではない。寒さで感覚が鈍ってきたのか、それとも期待と不安で神経が過敏になっているのか、よく分からない。
(それにしても、本当に綺麗な子だったな…)
ふと、さっき見た彼女の横顔を思い出す。雪の結晶のように繊細で、触れたら壊れてしまいそうな儚さ。そして、あの全てを見透かすような、冷たく澄んだ瞳。まさに「雪の妖精」という言葉がぴったりだった。
(あんな子が、一体どんな『特別な力』を…? そして、どんな『悲しみ』を抱えているんだろう…?)
あの神(?)は言っていた。「娘たちの抱える悲しみを解き放ち、その偽りなき信頼を得よ」と。つまり、俺はただ彼女を見つけるだけでなく、彼女の内面に深く関わっていく必要があるということだ。
(俺に、そんなことができるのか…?)
中学時代のトラウマが、またしても頭をもたげる。「空気みたい」と言われた俺が、他人の心の深い部分に触れるなんて、おこがましいにもほどがあるんじゃないか。拒絶されるのが怖い。傷つくのが怖い。でも…。
(でも、やらなきゃいけないんだ…!)
俺はぶんぶんと頭を振って、弱気な心を追い払った。ここで立ち止まるわけにはいかない。世界(と推しと俺の毛根)のために!
再びレーダーを確認する。光点の示すエリアの中心に、さらに近づいてきているようだ。点滅の速度も、心なしか速くなっている気がする。
(近い…! この辺りにいる!)
期待に胸が高鳴る。俺はさらに慎重に、しかし素早く、周囲を探索した。公園の木々の陰、雪像の裏、ベンチの隅…。
そして、ついに見つけた。
公園の隅にある、少し古びた東屋。その中に、雪明かりに照らされて、白い影がぽつんと座っているのが見えた。
間違いない。あの白いコート。銀色に見える長い髪。
(いた…!)
俺は息を殺し、そっと東屋に近づいた。彼女は、膝を抱えるようにして座り込み、ただじっと、降りしきる雪を眺めているようだった。その横顔は、やはりどこか寂しげで、世界から切り離されてしまったかのような孤独感を漂わせている。
レーダーは、もはや激しい点滅を繰り返し、彼女がターゲットであることを明確に示していた。
(よし…今度こそ…!)
深呼吸を一つ。心臓が早鐘のように打っている。だが、さっきのような焦りや恐怖だけではない。何か、使命感のような、あるいは、ただ困っている人を助けたいというような、そんな純粋な気持ちが湧き上がってきていた。
俺は、ゆっくりと、東屋へと足を踏み入れた。
ギシ、と古い木の床が軋む音が、静寂の中に響く。
その音に、彼女がハッと顔を上げた。
再び、あの透き通った、しかし警戒心に満ちた瞳と視線がかち合う。
彼女は驚いたように目を見開き、そしてすぐに、まるで小動物のように身を強張らせた。立ち上がって、逃げ出そうとする気配。
(まずい、また逃げられる…!)
俺は咄嗟に、しかしできるだけ穏やかな声で、彼女に呼びかけた。
「あ、あの! 待って! 逃げないでほしい!」
「……!」
彼女の動きが止まる。だが、その瞳には強い警戒の色が浮かんでいる。まるで、得体の知れないものを見るかのような目で、俺を見つめている。
「べ、別に、怪しい者じゃないんだ! 信じてもらえないかもしれないけど…!」
しどろもどろになりながらも、必死に言葉を続ける。
「ただ…その…さっきも少し話したけど…君が、何か、すごく困っているように見えて…放っておけなかったんだ」
嘘偽りのない、正直な気持ちだった。
彼女は、俺の言葉を黙って聞いていた。表情は相変わらず硬い。だが、さっきのような完全な拒絶のオーラは、少しだけ和らいでいるような…そんな気がした。
「……あなたには、関係ない」
ようやく返ってきたのは、やはり冷たい拒絶の言葉だった。だが、その声には、ほんの少しだけ、震えが混じっているような気がした。
「関係なくない!」俺は、思ったよりも強い口調で言い返していた。「だって、君は今、すごく辛そうに見える! 俺に何かできることがあるなら、力になりたいんだ!」
柄にもなく熱くなっている自覚はあった。でも、ここで引き下がったら、本当に何も始まらない。
少女は、俺の剣幕に少し驚いたように、再び目を見開いた。そして、何かを言おうとして、しかし言葉が出てこないかのように、唇を小さく震わせた。
その時だった。
俺の持っているヒロインレーダーが、これまでで最も強く、激しく輝き始めたのだ! まるで、共鳴するかのように!
「うおっ!?」
そして、それと同時に、少女の身体からも、淡い、白い光のようなオーラが立ち上るのが見えた!
「え…?」
少女自身も、自分の身体の変化に気づき、戸惑っているようだ。オーラはますます強くなり、周囲の雪をキラキラと輝かせ始める。幻想的で美しい光景だが、同時に、何か良くないことが起ころうとしているような、そんな予感もした。
まずい! これは、彼女の力が暴走する前兆か!?
(第七話 了)
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