第五話【悲報】推ししか勝たん!…って思ってた時期が俺にもありました
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降りしきる雪は、俺の心を映すかのように、ますますその勢いを強めていた。さっぽろ雪まつりの喧騒も、まるで遠い世界の出来事のように感じられる。俺、平凡太は、冷たいベンチの上で膝を抱え、中学時代の苦い記憶に沈み込んでいた。
鈴木さんに「空気みたい」と言われ、見事に玉砕したあの日から、俺の青春は色褪せてしまった。高校に入っても、大学に進学しても、俺は相変わらず地味で、目立たず、異性との間に壁を作り続けていた。「どうせ俺なんて…」が口癖になり、新しいことに挑戦する勇気も、誰かと深く関わろうとする気力も、すっかり失せてしまっていた。周りが恋愛やサークル活動で青春を謳歌する中、俺はただ、教室の隅で、あるいは一人暮らしのアパートの部屋で、息を潜めるように日々を過ごしていた。
もちろん、そんな学生生活が充実するはずもなく、就職活動も当然のように難航した。面接では緊張でまともに話せず、自己PRなんてものは皆無。数十社受けたが、内定は一つも取れなかった。まあ、企業側から見れば、「よく見えない」学生なんて、採用する価値もないだろう。俺自身、自分が社会に出て何ができるのか、全く想像できなかったしな。
結局、大学を卒業しても定職には就けず、なし崩し的にフリーターの道へ。コンビニの深夜バイトや、単発のデータ入力、ティッシュ配り…時給の良い仕事を転々とする日々。将来への漠然とした不安と、社会から取り残されていくような焦燥感。そんな灰色の日々の中で、俺の唯一の慰めであり、生きる希望となったのが…そう、アイドルだった。
最初にハマったのは、テレビでたまたま見た大手アイドルグループだった。完璧なルックス、揃ったダンス、キラキラした笑顔。現実の俺とはあまりにもかけ離れた、眩しい存在。最初は「どうせ作られた偶像だろ」なんて斜に構えて見ていたんだが、彼女たちのドキュメンタリー番組で、レッスンに励む姿や、ステージ裏で見せる涙、仲間との絆なんかを見てしまうと、もうダメだった。
(うわ…この子たち、めちゃくちゃ頑張ってるじゃん…!)
画面の中の彼女たちは、俺みたいに最初から諦めたりしない。夢に向かって、ひたむきに努力している。その姿が、どうしようもなく輝いて見えた。そして、そんな彼女たちがステージ上で放つ圧倒的な輝きは、俺の荒んだ心を優しく照らしてくれたんだ。まるで、砂漠で見つけたオアシスのように。
それからというもの、俺はアイドルにどっぷりハマっていった。CDを買い漁り、ライブDVDを擦り切れるほど見て、握手会にも(勇気を振り絞って)参加した。つたないながらも「応援してます!」と伝えると、アイドルは天使のような笑顔で「ありがとう!」と返してくれた。その一瞬だけで、俺は数日分の生きる活力を得られた。生え際も0.5センチ前進した気にもなれた。現実の人間関係で傷つくことの多かった俺にとって、アイドルは決して俺を拒絶しない、完璧で、安全な存在だったんだ。
様々なグループを渡り歩き、推し変を繰り返す中で、俺が最終的にたどり着いたのが、現在進行形で熱狂的に推している地下アイドルグループ『レインボー☆セブン』だった。
彼女たちは、大手のような洗練さはないかもしれない。歌もダンスも、まだ発展途上だ。でも、彼女たちには、それを補って余りある魅力があった。
七人七色の個性。一生懸命さが伝わるパフォーマンス。ファンとの距離の近さ。そして何より、どんなに小さなステージでも、決して諦めずに夢を追いかける、そのひたむきな姿勢。
センターで圧倒的な天使スマイルを振りまく七瀬ミナトちゃん。クールビューティーだけど、たまに見せる照れ顔が破壊力抜群の星野レイカさん。元気いっぱいの妹キャラ、高橋ユイちゃん。おっとり癒し系のお姉さん、佐藤アカリさん。ミステリアスな雰囲気の小悪魔系、伊藤シオリさん。ボーイッシュでダンスキレキレの田中ミキさん。そして、リーダーとしてグループをまとめるしっかり者、渡辺ナツミさん。
一人ひとりが、違う色で輝いている。まさに虹のようなグループ。俺は、そんな彼女たちの「箱推し」になった。誰か一人を選ぶなんてできなかったんだ。だって、全員が魅力的で、全員が俺にとっての希望の光だったから。
彼女たちのライブに通い、グッズを買い、SNSをチェックする。バイト代のほとんどは、彼女たちのために消えていった。周りからは「いい歳してアイドルオタクかよ」と呆れられたりもしたけど、俺は全く気にしなかった。だって、彼女たちがいるから、俺はこの灰色の日々をなんとか生きていられるんだ。
(そうだ…俺には、レインボー☆セブンがいるじゃないか…)
ベンチの上で凍えながら、俺はスマホを取り出し、ロック画面に設定している『レインボー☆セブン』の集合写真を見た。七人の輝く笑顔が、そこにあった。
(もし…もし、本当に世界から美女が消えたら…この笑顔も、見られなくなるのか…?)
想像しただけで、背筋が凍る。それは、俺の生きる意味の喪失に等しい。
(嫌だ…絶対に、そんな未来にはさせない…!)
たとえ、俺がどれだけ非力で、コミュ障で、ヘタレだとしても。この笑顔を守るためなら、俺は…!
その時、ポケットの中のヒロインレーダーが、再び微かに、しかし確かに、脈打ったような気がした。まるで、俺の決意に呼応するかのように。
俺はゆっくりと立ち上がった。降り積もった肩の雪を払い、冷え切った身体に活を入れる。
「…よし」
まだ、諦めるわけにはいかない。
あの少女…雪みたいに白くて、儚げな雰囲気の、白いコートの子(まだ名前は知らないけど、今はそう呼んでおこう)彼女だって、きっと何かを抱えているはずだ。あの氷のような仮面の奥に隠された、本当の心を。
俺は、彼女の「悲しみ」を理解し、「信頼」を得なければならない。それが、このふざけたミッションのルールであり、世界(と俺の推し)を救う唯一の道なんだから。
それに、俺には新しい武器(?)もあるじゃないか。
俺はカバンから、大切に持ってきた一眼レフカメラを取り出した。レンズキャップを外し、ファインダーを覗く。冷たい金属の感触が、不思議と心を落ち着かせてくれた。
(そうだ…俺には、こいつがある)
推しの一瞬の輝きを捉えるために磨いてきたこの腕前。もしかしたら、これが何か役に立つかもしれない。彼女の、誰も知らない素顔を、俺だけが見つけ出すことができるかもしれない。そして、その写真が、いつか世界を救う資金源に…いや、それはまだ早いか。
まずは、あの白いコートの子のことを調べないと。手がかりは少ないが、あの雪まつり会場にいたことは確かだ。何か情報がないか、もう一度会場を回ってみよう。
俺はカメラを首から下げ、凍える空気の中、再び雪まつりの喧騒へと足を踏み出した。さっきまでの絶望感は、まだ完全には消えていない。でも、心の奥底に、小さな、しかし確かな闘志の火が灯ったのを感じていた。
(見てろよ、神(?)…そして、鈴木さん…!)
俺はもう、中学時代の俺じゃない。…はずだ! 多分! きっと!
(…まあ、髪の毛はあの頃より確実に少なくなってるけどな!)
俺の、リベンジと、世界救済と、ハーレム(願望)と、ハゲ予防(切実)を賭けた戦いは、まだ始まったばかりだ!
(第五話 了)
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