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第三十八話【悲報】バズった!…けど、主役は俺じゃなかった件(知ってた)

ヒロインレーダーが次なる目的地・弘前を示してから数日後。俺、平凡太と白雪 忘は、お世話になった道の駅でのバイト最終日を迎えようとしていた。弘前さくらまつりの開催まで、あとひと月を切った。本格的にヒロイン探しを再開するためには、そろそろこの地を離れなければならないのだ。


店長さんや、指導役のパートのおばちゃん、他のスタッフさんたちに、俺たちの旅の事情(もちろん、世界の危機とか能力とかは伏せて、「日本一周の旅の途中で、資金稼ぎのために働かせてもらっていた」という、当たり障りのない理由で)を説明し、バイトを辞めることを伝えると、皆、とても残念がってくれた。


「えー! 凡太くんも忘ちゃんも、辞めちゃうのかい? 寂しくなるねぇ」

「忘ちゃんがいると、お店が明るくなったのに…」

「短い間だったけど、助かったよ。ありがとうね」


温かい言葉をたくさんもらい、俺たちの胸は熱くなった。特に忘は、ここで働くことで、少しずつ社会との繋がりを取り戻し、自信をつけてきていた。別れを惜しむように、瞳を潤ませている。


「皆さんに、本当に良くしてもらって…感謝しています」忘は深々と頭を下げた。


「そんな、水臭いこと言わないでよ」おばちゃんが笑う。「またいつでも遊びにおいで! 美味しいりんごジュース用意して待ってるから!」


「はい…!」


(本当に、いい人たちに出会えたな…)俺も心から感謝していた。


そして、俺にはもう一つ、このバイト最終日に向けて、密かに計画していることがあった。凡太P(仮)としての一大プロジェクトだ!


「なあ、忘」俺は休憩時間に、忘に声をかけた。「バイト、残りあと一週間だろ? 最後にさ、この道の駅と、忘の頑張りを記念して、ちょっとした動画を撮らないか?」


「え? 動画?」忘はきょとんとした。


「ああ! 忘がこの道の駅のおすすめ商品を、可愛く紹介する感じのショート動画だ! これを俺のSNSアカウントで公開すれば、絶対にバズる! 間違いない!」俺は力説する。


「ま、またバズるって…そんな簡単にいくわけ…」


「いや、いける! 今、俺のアカウント、フォロワー500人超えてるんだぞ? 忘の『看板娘(仮)』効果で、注目度は確実に上がってる! ここで、満を持して動く忘(顔出しNGだけど)の姿を見せれば、フォロワー爆増は必至!」俺は熱弁を振るう。目指すは、フォロワー1000人突破だ!


「で、でも、動画なんて、もっと恥ずかしいよ…!」忘は顔を真っ赤にして抵抗する。


「大丈夫だって! ちょっとしたポーズで、商品をこう…キュッと差し出す感じにするだけだから! BGMとか編集は俺がなんとかする!」俺は、謎の自信に満ち溢れていた。(根拠はない)


「うぅ…凡太さん、最近なんか、プロデューサーっていうより、怪しいスカウトマンみたいだよ…」


「失敬な! 俺は純粋に、忘の魅力と、この道の駅の素晴らしさを伝えたいだけだ!」(半分くらいは本当だ)


結局、俺の熱意としつこさに根負けしたのか、忘は「…ちょっとだけなら…」と、動画撮影を許可してくれた。やったぜ!


そして迎えた、バイト引退まで残り一週間となった日。俺は、休憩時間を利用して、お土産コーナーの一角で動画撮影を開始した!


「よし、忘! まずは、この店の目玉商品、特製りんごパイを持ってくれ!」


「こ、こう…?」忘は、ぎこちない手つきでりんごパイの箱を持つ。


「そうそう! で、カメラに向かって、商品を可愛く差し出す感じで…! 首をちょっと傾げて、小悪魔っぽく!」


「こ、小悪魔…!?」忘は混乱している。


「いいからやってみて!」


忘は、照れながらも、言われた通りにポーズをとる。帽子とマスクで顔の大部分は隠れているが、その仕草だけでも、とんでもなく可愛い!


「完璧だ! カット!」


次に、りんごジュースの瓶を持って、爽やかな感じで。さらに、地元の工芸品を持って、しっとりとした感じで…。俺は、凡太P(仮)としての演出力を(自己満足的に)発揮し、いくつかのパターンの動画を撮影した。


撮影した動画を、その日の夜、アパートで早速編集する。BGMにはフリー素材のオシャレな曲をつけ、テロップで『看板娘(仮)のオススメ!』『バイト引退まであと〇日…!』などの煽り文句を入れる。うん、なかなかの出来栄えだ!(自画自賛)


そして、完成した動画を、満を持して凡太P(仮)アカウントに投稿!


『【緊急告知】看板娘(仮)ちゃん、バイト引退まであとわずか 最後にオススメ商品を紹介してくれました! 見逃し厳禁! #青森 #道の駅 #看板娘(仮) #バイト引退 #訳あり旅 #凡太P渾身の編集』


投稿後、俺はスマホの画面を食い入るように見つめていた。果たして、反応は…?


…ピコン! ピコン! ピコン! ピコン!


通知が、鳴り止まない!

「いいね!」の数、コメントの数、そしてリポスト(的な機能)の数が、とんでもない勢いで増えていく!


「うおおおお!? なんだこれ!?」


コメント欄には、


『か、可愛すぎる…! この子誰!?』

『引退しないでー!』

『どこの道の駅か教えてください! 今すぐ行きます!』

『凡太Pさん、グッジョブ!』

『この子の写真集まだですか!?』


といった、熱狂的なコメントが殺到している!


そして、フォロワー数も、みるみるうちに増えていき…あっという間に1000人を突破! さらに勢いは止まらず、最終的に…1152人に到達していた!


「い、いちいちごーに…!? いい子に…ってことか!? まさかの語呂合わせ!?」


俺は、スマホを持つ手が震えるほどの興奮を覚えていた。バズった! 間違いなく、バズったぞ! 凡太P(仮)、ついにやったんだ!


「すごい…! 本当にバズっちゃった…!」隣で見ていた忘も、目を丸くして驚いている。


「だろ!? 言った通りだろ!」俺は得意満面だ。「これはもう、本格的に忘の個人アカウントを開設するしかないな!」


「えええっ!? こ、個人アカウント!?」


「そうだ! これだけの反響があるんだ! 忘自身の言葉で、旅のこととか、日常のこととかを発信していけば、もっとファンが増える! デジタルフォトブックだって、バカ売れ間違いなしだ!」俺のプロデューサー脳は完全にトップギアに入っていた。


「で、でも、私、SNSなんてやったことないし…何を書いていいか…」忘は戸惑っている。


「大丈夫だって! 最初は俺がサポートするから! な? やってみようぜ!」


俺の勢いに押される形で、忘は「…わ、分かった…」と、ついに個人アカウント開設を承諾した。


俺は早速、忘のアカウントを作成した。アカウント名は、シンプルに「Wasure」。アイコンには、支笏湖で撮った、顔が分からないけれど雰囲気抜群の後ろ姿の写真を使うことにした。プロフィールには「訳あって旅をしています。日常を少しだけ。」とだけ書き込んだ。


そして、記念すべき初投稿。北海道で撮った、息を呑むような美しい風景写真(忘は写っていない)をアップした。


『はじめまして。旅の途中で見つけた景色です。』


さらに、二投稿目として、俺のアカウントでバズった、あの「看板娘(仮)のオススメ商品紹介動画(顔出しNG)」ちょっぴりロングバージョンも、忘のアカウントから投稿した。キャプションはシンプルに。


『お世話になった場所での、ささやかなお手伝いの記録。』


そして、俺の凡太P(仮)アカウントから、「新人ちゃんの個人アカウント開設しました! 例の動画ロングバージョンもアップされてますよ!」と大々的に告知した。


すると、どうだろう。

告知の効果と、やはり動画自体の破壊力が高かったのか、開設からわずか数時間で、忘のアカウント「Wasure」のフォロワーが、あっという間に**俺のフォロワー数(1152人)を超えてしまったのだ!**


「………………は?」


俺は、呆然とその数字を見つめていた。忘のアカウントのフォロワー数は、その後もぐんぐん伸び続け、翌日には3000人を突破していた。「いいね!」や「可愛い!」「どこの子?」といったコメントも殺到している。


「…すごいね、凡太さん! フォロワーたくさん!」忘は、自分のアカウントの反響に驚きつつも、どこか他人事のように(そして少し嬉しそうに)言っているが、俺の心境は非常に複雑だ。


(いや…すごいのは俺じゃなくて、完全に忘のポテンシャルなんだよなぁ…俺のプロデュース能力なんて、微々たるものだった…)


凡太P(仮)としての初勝利バズりの味は、なんとも言えない、ほろ苦いものとなったのだった。まあ、いいか。これも、忘の魅力が本物であることの証明だ。俺は、敏腕プロデューサー(のマネージャー?)として、彼女を陰ながら支えていくことに全力を注ごう。たとえ、フォロワー数で秒で抜かれたとしても…!(涙)


俺は、少しだけ遠い目をしながら、次の投稿ネタ(と、より効果的なハゲ隠しアイテム)について考え始めるのだった。


(第三十八話 了)

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