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第三十六話【悲報】看板娘(仮)爆誕!?SNSの力、恐るべし

藁にもすがる思いで飛び込んだ、青森の海沿いに建つ大きな道の駅。そこの事務所で面接(というほど堅苦しいものではなかったが)を受けた結果…なんと、俺、平凡太と白雪 忘は、二人揃って採用されることになったのだ!


やった! やったぞ! これでとりあえず、食いっぱぐれる心配はなくなった! しかも、時給もそこそこ良い! 神様、ありがとう! (まあ、俺の髪を奪っていく張本人でもあるわけだが!)


仕事内容は、主にお土産コーナーでの販売、品出し、レジ打ち、そして簡単な清掃など。幸い、シフトは相談に乗ってもらえ、俺と忘はできるだけ一緒の時間帯に入れるように調整してもらえた。これなら、俺が忘をサポート(という名の監視&浄化)しやすい。住み込みではなかったが、道の駅の近くに運良く格安のアパートも見つかり、俺たちの青森でのバイト生活は、無事にスタートを切ることができたのだ。


「それじゃあ、忘ちゃん、こっちのレジお願いできるかな? 使い方はさっき教えた通りね」

「は、はいっ!」


バイト初日。真新しい(と言っても貸与品だが)道の駅のスタッフ用エプロンを身に着けた忘は、緊張した面持ちでレジカウンターの中に立っていた。隣には、指導役のパートのベテランおばちゃん(優しくて頼りになる)がついている。俺はというと、少し離れた場所で商品の品出しをしながら、ハラハラした気持ちで忘の様子を見守っていた。


忘にとって、本格的な接客業は初めての経験だ。人と接すること、特にお金(と記憶操作能力)が絡むレジ業務は、彼女にとって相当なプレッシャーだろう。感情が高ぶって、力が不安定にならないか心配だ。


最初のお客さんがレジに来た。地元のおじいちゃんといった風情だ。忘は、ぎこちないながらも、教わった通りに「いらっしゃいませ」と声をかけ、商品のバーコードを読み取っていく。


ピッ。ピッ。


レジの電子音が静かな店内に響く。忘の指先が、商品やお金に触れるたびに、俺は内心ヒヤヒヤしていた。


(大丈夫か…? 今、力漏れてないか…?)


俺は、こっそりと『凡太浄化(仮)』を発動させるべく、レジカウンターの端っこにさりげなく触れてみたりする。…意味があるかは分からないが、やらないよりはマシだろう。


「…はい、〇〇円になります」

「あいよ」


おじいちゃんがお金を出し、忘がそれを受け取り、レジにお金を入れる。そして、お釣りを渡す。一連の動作は、まだ少しぎこちないが、問題なく完了したようだ。


「ありがとうございましたー」


おじいちゃんは、特に変わった様子もなく、商品を受け取って店を出ていった。


「…ふぅ」忘は、小さく安堵のため息をついた。


「忘ちゃん、上手だったわよー!」隣のおばちゃんが笑顔で褒める。


「あ、ありがとうございます…!」忘も、少しだけホッとした表情になった。


(よしよし、いいぞ! この調子だ!)


俺も内心でガッツポーズをする。幸い、この道の駅は、平日はそこまで客足が激しいわけではない。これなら、忘も少しずつ仕事に慣れていけるかもしれない。


その後も、忘は時折戸惑いながらも、一生懸命に仕事をこなしていった。商品の場所を尋ねられて、しどろもどろになったり、レジの操作で少し手間取ったりすることもあったが、その度に俺や他のスタッフがフォローに入り、なんとか乗り切っていく。


そして、数日が経つ頃には、忘はだいぶ仕事にも慣れてきたようだった。接客にも少しずつ笑顔が見られるようになり、その透き通るような美しさと、一生懸命な姿は、徐々に他のお客さんやスタッフの間でも評判になり始めていた。


「あそこのレジの若い子、すごく可愛いわねぇ」

「なんか、儚げで、守ってあげたくなる感じだよな」

「でも、あんまり喋らないんだよな。ミステリアスだ…」


そんな声が、俺の耳にも聞こえてくるようになった。

うんうん、分かるぞ、その気持ち! 俺の推し(今は忘が一番だが!)の魅力に、みんな気づき始めたようだな!


(これは…チャンスじゃないか?)


俺の、眠っていたプロデューサー魂(仮)が、再びムクムクと頭をもたげてきた。忘のこの「看板娘」としてのポテンシャルを、このまま埋もれさせておくのはもったいない!


俺は、休憩時間に、忘にそれとなく話を持ち掛けてみた。


「なあ、忘。最近、お客さんたちの間で、忘のこと可愛いって評判になってるの、知ってるか?」


「えっ!? そ、そんなことないよ!」忘は顔を真っ赤にして否定する。


「いやいや、マジだって! 俺も何度も聞いたぞ! まさに、この道の駅の看板娘だ!」


「か、看板娘なんて…! 私、そんなんじゃないし…!」


「まあまあ、照れるなって」俺はニヤリと笑う。「それでさ、思ったんだけど…このチャンスを活かさない手はないよな?」


「チャンス…?」


「ああ! 俺のSNSアカウント『凡太P(仮)』でさ、忘がここで働いてる様子を、もっとアピールしていくんだよ!」


「えええ!? だ、だから、そういうのは恥ずかしいって…!」


「大丈夫だって! 顔が分からないように、後ろ姿とか、手元とか、そういう雰囲気重視の写真にするから! 例えば、忘がオススメのお土産を紹介してる風の写真とか、レジで頑張ってる(ように見える)写真とかさ!」俺は具体的なアイデアを熱弁する。


「うーん…」忘はまだ渋っている。


「これは、俺たちの活動資金のためでもあるんだぞ! 忘が看板娘としてバズれば、このアカウントのフォロワーも増えて、ゆくゆくはデジタルフォトブックの売り上げにも繋がる…! そうすれば、俺たちはもっと自由に旅を続けられる!」俺は、金銭的なメリット(という名の俺の野望)を強調する。


「む、むぅ…」忘は、ぐらついているようだ。よし、あと一押し!


「それに、忘だって、自分の頑張りをたくさんの人に見てもらえたら、嬉しいだろ? 『いいね!』とかコメントとかで応援してもらえたら、もっとやる気も出るんじゃないか?」俺は、彼女自身の承認欲求(?)にも訴えかける。


忘は、しばらくの間、うーんと唸っていたが、やがて、小さな声で「…わ、分かったよ…」と呟いた。


「おおっ! やった!」


「た、ただし! 本当に顔は写さないでね! それと、お店の人にもちゃんと許可取ってからにしてよ!」


「もちろんだ! 任せとけ!」


こうして、俺は再び忘の(渋々の)許可を取り付け、凡太P(仮)としての活動を本格化させることになった!


俺は早速、休憩時間やバイト終わりに、忘の仕事風景(もちろん、顔が分からないように細心の注意を払って)を撮影し始めた。真剣な表情で品出しをする横顔(帽子とマスクで顔は見えない)、お客さんにお土産を丁寧に袋詰めする手元、夕暮れの海を背景に、エプロン姿で佇む後ろ姿…。


(くっ…! 顔が見えなくても、この溢れ出る透明感と儚さ…! たまらん!)


俺は、撮った写真の中から厳選し、キャプションとハッシュタグを付けて、凡太P(仮)アカウントに投稿していった。


『本州上陸! 青森の海の見える道の駅でバイト始めました! 新人スタッフ(美少女・顔出しNG)が一生懸命頑張ってます! 応援よろしくお願いします! #青森 #道の駅 #看板娘(仮) #バイト日記 #訳あり旅』


『今日のおすすめお土産! 青森といえばやっぱりリンゴジュース 新人ちゃん(顔出しNG)が心を込めて品出し中…の後ろ姿。 #お土産 #りんごジュース #後ろ姿美人 #凡太P活動記録』


投稿すると、すぐに「いいね!」がつき始めた。フォロワー17人のアカウントとは思えない反応の速さだ。中には、「どこの道の駅ですか?」「この子、気になる!」といったコメントもちらほら。


(よしよし! いいぞ! この調子だ!)


俺はほくそ笑む。このまま順調にいけば、忘が「謎の看板娘」としてSNSでバズる日も近いかもしれない!


だが、この時の俺は、まだ気づいていなかった。

SNSでの注目は、必ずしも良いことばかりをもたらすとは限らないということを…。そして、この凡太P(仮)としての活動が、やがて予期せぬ騒動を引き起こすことになるなんて…。


俺の頭皮も、SNSの「いいね!」の数に反比例して、さらに薄くなっていくような、そんな嫌な予感が胸をよぎるのだった…。


(第三十六話 了)

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