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第三十四話【朗報】俺の手に新能力!?触れるだけで彼女が安定する(ただし俺は安定しない)

青森でのりんご狩りを満喫した俺、平凡太と白雪 忘は、次の目的地である弘前市を目指し、再びハーレム号(中古ワゴン)での旅を続けていた。リンゴ畑でのはしゃぎっぷりを見る限り、忘はりんごが相当好きらしい。後部座席には、お土産に買った(というか、ほぼ忘が収穫した)リンゴがたくさん積まれている。車内には、甘酸っぱいリンゴの香りがふんわりと漂っていて、なんだか幸せな気分だ。


助手席の忘は、買ってもらったばかりの青森ご当地アイドルのCD(俺の趣味に付き合ってもらった)をカーステレオでかけ、楽しそうに鼻歌を歌っている。出会った頃の、あの氷のような仮面をつけていた彼女とは別人のようだ。記憶を取り戻し、俺という「安全装置(?)」を得たことで、彼女は少しずつ、本来の感情を取り戻し始めているのかもしれない。


(この調子で、もっと笑ってくれたらいいな…)


俺は、そんな彼女の横顔を盗み見ながら、頬が緩むのを抑えきれなかった。…もちろん、頭頂部のハゲ隠しバケットハットの角度調整も怠らない。油断大敵だ。


しばらく快適なドライブを続けていたが、ふと、道路脇に「絶景!〇〇展望台」という看板を見つけた。予定にはなかった場所だが、時間に余裕はある。


「なあ、忘。ちょっと寄り道していくか? 展望台だってさ」


「展望台?」忘は音楽から意識を戻し、窓の外を見た。「うん、いいね! 行ってみたい!」


俺たちは、脇道に入り、くねくねとした山道を登っていった。しばらく走ると、視界が開け、小さな駐車場と展望台が見えてきた。平日の昼間だからか、他に車は一台も停まっていない。まさに穴場スポットだ。


車を降りて展望台に立つと、眼下には雄大な景色が広がっていた。どこまでも続く緑の山々、その間を縫うように流れる川、そして遠くには津軽平野とおぼしき平地が見える。空気が澄んでいて、深呼吸すると肺が綺麗になるような気がした。


「うわぁ…! すごい景色…!」忘は、手すりに寄りかかりながら、感嘆の声を上げた。その瞳は、キラキラと輝いている。


「だろ? 来てよかったな!」俺も隣に立ち、その絶景を堪能する。北海道のスケールとはまた違う、日本の原風景といった趣のある美しさだ。


俺はすかさずカメラを取り出し、この景色と、景色に見入る忘の姿を写真に収め始めた。広角レンズで雄大な風景と共に、望遠レンズで彼女の表情をアップで…。うん、今日も忘は最高にフォトジェニックだ! 凡太P(仮)、仕事が捗るぜ!


「見て、凡太さん! 鷹かな? 鳥が飛んでる!」忘が空を指差す。


「おお、ほんとだ! かっこいいな!」


忘は、子供のようにはしゃぎながら、鳥の行方を追っている。その無邪気な姿を見ていると、俺まで嬉しくなってくる。


だが、その時だった。

忘の身体から、ふわりと、あのキラキラした、喜びのオーラが立ち上り始めたのだ!


(おっと、まずい!)


感情が高ぶっている! このままでは、また力が不安定になるかもしれない! あの星空の夜の悪夢が蘇る!


俺は慌てて声をかけようとした。だが、それよりも早く、忘自身がオーラの発生に気づいたようだった。彼女はハッとした表情になり、必死に深呼吸をして、感情を抑え込もうとしている。


「…っ…大丈夫…抑えられる…!」


彼女は自分に言い聞かせるように呟く。オーラは、たしかにそれ以上強くなることはなかったが、完全に消えることもなく、彼女の周りで不安定に揺らめいている。忘の表情にも、焦りと不安の色が浮かんでいた。


(くそっ…! やっぱり、まだ完全にコントロールできるわけじゃないんだな…!)


どうすればいい? このまま見守るしかないのか? いや、何か俺にできることは…?


(そうだ! 俺が触れれば…!)


俺は、意を決して、忘の肩に、そっと手を置いた。


「大丈夫だ、忘。俺がいる」


できるだけ穏やかに、安心させるように声をかける。俺の手のひらから、温かいエネルギー(のようなもの)が、彼女に伝わっていくのをイメージしながら。


すると、驚くべきことが起こった。

俺の手が触れた瞬間、忘の身体から漏れ出していたキラキラしたオーラが、まるで霧が晴れるかのように、スーッと消えていったのだ!


「え…?」忘は驚いたように、自分の身体と俺の手を交互に見ている。「お、収まった…?」


「ああ、みたいだな」俺も驚きを隠せない。「俺が触れると、オーラが消えるのか…?」


「すごい…! 本当に、凡太さんの力なんだね…!」忘は、感動したように俺の手を見つめている。


「いや、まあ…たまたまかもしれないけど…」


だが、さらに驚くべきことが起こった。

俺が手を離した後も、忘の状態は安定したままなのだ。さっきまで見られた、力の暴走を恐れるような不安げな表情は消え、穏やかな落ち着きを取り戻している。


「…あれ? なんだか、すごく…落ち着く…」忘は不思議そうに呟いた。「さっきまで、感情が昂って、力が漏れ出しそうで怖かったのに…今は、全然そんな感じがしない」


「え? 手を離しても、効果が続いてるってことか?」


「うん、みたい…。なんだか、心の中に、凡太さんの温かい何かが残ってる感じ…?」


(マジかよ…!? 俺の力、触れるだけで安定化バフ効果まであるのか!? しかも持続性!?)


これは、とんでもない発見だ! これなら、忘が感情豊かになっても、俺が定期的に触れて「安定化バフ」をかけてあげれば、力の暴走をかなり防げるかもしれない!


(…ってことは…? これから、もっと自然に、忘に触れる機会が増える…ってことか!?)


俺の脳内で、再びピンク色の妄想が花開きそうになる! 手を繋いで歩いたり、頭を撫でたり、なんなら肩を抱いたり…!? いやいやいや、それはまだ早い! でも、可能性はゼロじゃない!


(うひょー! これはヤバい! 嬉しすぎる! でも、調子に乗って触りまくったら、セクハラで訴えられるか、あるいは俺の毛根が持たない可能性も…!)


俺が一人で興奮と葛藤に身悶えていると、忘が嬉しそうに言った。


「すごいよ、凡太さん! これなら、私、もっと色んなことを楽しめるかもしれない! 嬉しいとか、楽しいって気持ちを、我慢しなくてもいいかもしれない!」


彼女の顔には、心からの喜びと希望が満ち溢れていた。その笑顔は、これまでで一番輝いて見えた。


「ああ、そうだな!」俺も、自分の欲望(と頭皮への不安)を一旦脇に置いて、彼女の喜びを共有した。「これからは、もっと色んなことを一緒に楽しもうぜ! 美味しいもの食べたり、綺麗な景色見たり、面白いことしたり!」


「うん!」忘は力強く頷いた。


その時、俺のレーダーがピコン、と鳴った。確認すると、信頼度はLv.7のままだが、何やら新しいメッセージが表示されている。


『特殊スキル:【感情スタビライザー(凡太限定・接触型)】が発現しました。対象:白雪 忘。効果:接触により対象の精神状態を安定させ、能力の暴走を抑制する。効果は接触後、一定時間持続(持続時間は信頼度と接触密度に依存)。注意:使用者の精神力及び毛根に負荷がかかる可能性があります』


(やっぱり新能力だった! しかも名前ダサい! そしてやっぱり毛根に負荷かかるんかい!!!)


俺は内心で激しくツッコミを入れた。便利能力ゲットの代償は、やはり俺の頭皮だったか…。世の中、そんなに甘くないってことだな。


「凡太さん? レーダー、何か言ってた?」


「あ、いや、なんでもない! ちょっとしたお知らせだ!」俺は慌ててレーダーをしまう。「さ、そろそろ行こうか! 次は、美味いラーメンでも探しに行くか!」


「ラーメン! いいね!」


俺たちは、新たな発見(と俺の新たな悩み)を胸に、展望台を後にした。

忘の感情表現が豊かになることは嬉しい。だが、それに伴い、俺の接触機会とハゲるリスクも増えるということだ。


(…まあ、なるようになるか!)


俺は、助手席で楽しそうに鼻歌を歌う忘の横顔を見ながら、半ば諦め、半ば期待するような気持ちで、アクセルを踏み込んだ。


俺たちの旅は、ますます予測不能で、エキサイティング(主に俺の頭皮にとって)なものになっていく!


(第三十四話 了)

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