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第三十三話【悲報】りんごより甘い?初めての共同作業

数時間の船旅を経て、俺、平凡太と白雪 忘を乗せたフェリーは、ついに本州・青森港へと到着した。北海道とはまた違う、潮の香りと活気のある港の空気が、俺たちを迎えてくれた。


「着いたね、青森!」忘は、少し興奮した様子でタラップを降りる。長い船旅で少し疲れた様子も見せず、その表情は明るい。


「ああ! ここからが、また新しいスタートだな!」俺も、新たな土地への期待感で胸が高鳴っていた。…まあ、同時に、レーダーに表示された「ハゲ進行度:15%」という現実も、重くのしかかってはいるのだが。


ハーレム号(中古ワゴン)に乗り込み、フェリーターミナルを出発。まずは、昨日話していた「りんご狩り」を実現すべく、事前に調べておいた観光農園へと向かうことにした。時期的に少し早いかもしれないが、早生品種なら収穫体験ができるかもしれない、という情報をネットで見つけたのだ。


青森市内を抜け、少し郊外へと車を走らせると、車窓の風景は広大なリンゴ畑へと変わっていった。まだ青々とした葉が生い茂る木々に、小さな緑色の実がなっているのが見える。


「うわー! りんご畑だ! すごい!」忘は子供のようにはしゃいでいる。「早く、真っ赤なりんごが見たいな!」


「だよなー。収穫体験できるといいんだけど…」


しばらく走ると、目的地の観光農園に到着した。幸い、まだシーズン前ということもあってか、他にお客さんの姿はほとんどなく、静かでのどかな雰囲気だ。農園の人に尋ねてみると、ちょうど収穫が始まったばかりの早生品種があり、りんご狩り体験ができるとのこと! ラッキーだ!


俺たちは、カゴとハサミを受け取り、農園の人の案内に従ってリンゴ畑の中へと足を踏み入れた。一面に広がるリンゴの木々。爽やかな緑の葉の間から、太陽の光を浴びて赤く色づき始めたリンゴの実が顔を覗かせている。甘酸っぱい、いい香りが漂ってくる。


「すごい…! 本物のりんごだ!」忘は目をキラキラさせながら、木になっているリンゴにそっと手を伸ばした。もちろん、俺が事前に木の幹にタッチして『凡太浄化(仮)』済みだ!…いや、さすがに木は大丈夫か? でも念のためだ!


「美味しそう…!」


「もぎ取り方のコツはね…」農園の人が、リンゴの軸を傷つけないように、優しく回しながら収穫する方法を教えてくれた。


忘は、真剣な表情で説明を聞き、そして、初めて自分の手でリンゴをもぎ取った。


「わあっ! 取れた!」彼女は、収穫したばかりの真っ赤なリンゴを手に持ち、満面の笑みを浮かべた。その笑顔は、太陽の下で輝くリンゴそのものよりも、ずっと眩しく、瑞々しかった。


(…シャッターチャンス!)


俺はすかさずカメラを構え、その最高の笑顔を写真に収めた。カシャ!

うん、完璧だ! これは間違いなく、デジタルフォトブック(妄想)のハイライトシーンになる!


「凡太さんも、早く取ってよ!」


「お、おう!」


俺も忘に倣って、赤く色づいたリンゴを選び、慎重にもぎ取ってみる。ずしりとした重みが手に伝わる。自分で収穫するというのは、スーパーで買うのとは全く違う感動があるな。


それから俺たちは、夢中になってりんご狩りを楽しんだ。どちらがたくさん収穫できるか競争したり(忘が圧勝した)、形の面白いりんごを見つけて笑い合ったり。忘は、時折、収穫したリンゴを愛おしそうに撫でながら、本当に幸せそうな表情を浮かべていた。その姿を見ていると、俺まで温かい気持ちになった。


(…これが、忘が望んでいた『普通の体験』なんだな…)


特別な力に縛られず、ただ純粋に、季節の恵みを楽しむ。そんな当たり前のことが、彼女にとっては、どれほど貴重で、かけがえのない時間なのだろうか。


りんご狩りを終え、カゴいっぱいのリンゴ(主に忘が収穫したやつ)を手に、俺たちは農園の休憩スペースで一息つくことにした。農園の人が、採れたてのりんごを使ったアップルパイと、りんごジュースをサービスしてくれた。


「うわー! これも美味しそう!」


焼きたてのアップルパイは、サクサクの生地の中に、甘酸っぱいリンゴがぎっしりと詰まっている。りんごジュースも、濃厚で自然な甘みが口の中に広がる。


「んー! 最高!」忘は目を閉じて、その味を堪能している。


俺も、その美味しさに舌鼓を打つ。…と、ここで俺は思い出した。そういえば、昨日のSNSの初投稿、どうなっただろうか?


俺は、忘に断りを入れてから、こっそりとスマホを取り出し、SNSアプリを開いた。アカウント名は「凡太P(仮)@日本縦断中」、フォロワー数は依然として17人のままだ。まあ、そんなにすぐには増えないよな。


通知欄を確認してみる。…お? 何か反応があるぞ?


恐る恐る通知を開いてみると…なんと! 昨日の支笏湖の写真に、「いいね!」が3つもついていた! しかも、見知らぬアカウントから「綺麗な写真ですね!」「北海道行きたくなりました!」というコメントまで来ている!


「おおおお!? 反応あったぞ、忘!」俺は思わず声を上げた。


「え? 本当に?」忘も驚いてスマホの画面を覗き込む。


「ほら見ろ! いいね!3つ! コメントも2件! これはすごいことだぞ!」フォロワー17人のアカウントにしては、驚異的なエンゲージメント率と言えるだろう!(たぶん)


「すごい…! 私の写真(後ろ姿だけど)に、コメントが…」忘は、信じられないといった表情で、コメントを何度も読み返している。そして、その頬がほんのりと赤らんでいく。


「だろ? やっぱり、忘の魅力と俺の写真の腕は、世間に通用するんだよ!」俺はドヤ顔で言う。


「…ちょっと、嬉しいかも」忘は、はにかみながら呟いた。


「よし! この調子で、今日のりんご狩りの写真もアップしようぜ!」俺はさらに提案する。「忘の可愛い笑顔(もちろん顔は隠す感じで)と、この美味そうなりんごの写真を載せれば、もっと反応があるはずだ!」


「ええっ!? ま、また!? で、でも…」忘はまだ少し抵抗があるようだ。


「大丈夫だって! このアカウントは、俺たちの旅の記録でもあるんだ。それに、たくさんの人に『いいね!』って言ってもらえたら、忘の自信にも繋がるだろ?」俺は、彼女のためでもあるんだ、という点を強調する。


「…うーん…」


「それに、ほら、見てみろよ」俺は、りんごを手に持って微笑む忘の写真をカメラの画面で見せる。「こんなに可愛い瞬間、みんなにもおすそ分けしないともったいないだろ?」


「…か、可愛くないもん…!」忘は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。


(よし、落ちたな!)俺は内心で勝利を確信した。


「じゃあ、アップするぞー? 顔はスタンプで隠すからな!」


「も、もう、勝手にして…!」


許可(?)を得た俺は、早速、今日のベストショットを選び、キャプションを付けて投稿した。


『青森でりんご狩り体験! 採れたてりんご、最高に美味い! 旅の仲間(美少女)も大はしゃぎでした #青森 #りんご狩り #飯テロ #ロードムービー #凡太P活動記録』


今度は、忘の顔が分からないように、りんごで顔を隠しているような写真や、楽しそうな後ろ姿の写真を選んでみた。これなら大丈夫だろう。


投稿完了! さて、今回はどんな反応があるか…?


俺がスマホの画面とにらめっこしていると、忘が呆れたような、それでいて少し楽しそうな顔で俺を見ていた。


「凡太さん、なんか本当にプロデューサーみたいだね」


「だろ? 俺にはその才能があるんだよ、きっと!」俺は胸を張る。(フォロワー17人だけどな!)


そんな俺たちの、どこかちぐはぐで、でも確実に変化し始めている関係。

りんごの甘酸っぱい香りと、青森の穏やかな日差しの中で、俺たちの旅は、ゆっくりと、しかし確実に、次のステージへと進んでいく。


(第三十三話 了)

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