第三十二話【悲報】フォロワー17人の俺がP名乗るとか、無理がありすぎる件
函館での甘美な夜景(と俺のハゲ進行度15%発覚)から一夜明け、俺、平凡太と白雪 忘は、いよいよ北の大地・北海道に別れを告げ、本州へと渡るフェリーに乗り込むべく、港へと向かっていた。朝日が昇り始めた函館の街並みが、バックミラーの中で徐々に小さくなっていく。
「…本当に、行っちゃうんだね、北海道」助手席の忘が、少し名残惜しそうに呟いた。札幌を出る時と同じように、その声には寂しさが滲んでいる。
「ああ。でも、またいつか来ような。今度は、もっとゆっくりと、ラベンダーの季節とからさ」俺は励ますように言った。…その頃、俺の頭がどうなっているかは考えないようにして。
「うん…!」忘は力強く頷いた。その瞳には、もう迷いはなかった。
フェリーターミナルに到着し、ハーレム号(中古ワゴン)ごと巨大なフェリーに乗り込む。船内に車を停め、客室へと向かう。船旅は数時間かかる。それまでの間、船内でゆっくり過ごす予定だ。
俺たちが確保したのは、窓際の席。出航の時間が近づくと、港で働く人々の姿や、カモメが飛び交う様子が見える。忘は、初めての大きな船に少し興奮しているようで、子供のように窓の外を眺めていた。
やがて、長い汽笛と共に、フェリーはゆっくりと岸壁を離れ始めた。遠ざかっていく函館の街並み。そして、雄大な北海道の大地。
「…さよなら、北海道。ありがとう」忘が小さな声で呟くのが聞こえた。俺も心の中で、この短いけれど濃密な時間を過ごさせてくれた北の大地に感謝した。(まあ、ハゲの進行という手痛いお土産ももらったわけだが…)
船が沖に出ると、窓の外には青い海と空だけが広がった。単調な景色だが、どこまでも続く水平線を見ていると、心が洗われるような気分になる。
船内には、売店や軽食コーナー、休憩スペースなどがあり、思ったよりも快適に過ごせそうだ。俺たちは、船内を探検したり、デッキに出て潮風に当たったり(めちゃくちゃ寒かったのですぐ退散した)、休憩スペースで持参したお菓子を食べながら雑談したりして過ごした。
忘は、船旅という非日常的な空間が楽しいのか、終始笑顔だった。俺も、そんな彼女の姿を見ているだけで幸せな気持ちになれた。…もちろん、時折頭頂部のハゲ隠しバケットハットの位置を直すのは忘れなかったが。
「なあ、忘」休憩スペースでコーヒーを飲みながら、俺は切り出した。「青森に着いたら、さっそく次の『輝き』の子を探すことになると思うんだけど…その前に、ちょっと寄り道しないか?」
「寄り道?」
「ああ。青森といえば、やっぱりリンゴだろ? 時期的には少し早いかもしれないけど、りんご狩りができる農園とかあるらしいんだ。そういうの、体験してみるのも面白いかなって」
これは、昨日ネットで調べて思いついたアイデアだ。単に次のヒロインを探すだけでなく、こうしてご当地ならではの体験をすることで、旅の思い出も深まるし、忘の「普通の体験」を増やすことにも繋がるはずだ。それに、りんご畑で楽しそうにしている忘の写真…想像しただけで最高じゃないか!(また下心が)
「りんご狩り!」忘は目を輝かせた。「やってみたい! 私、りんご大好きなんだ!」
「おお、そうか! それは良かった!」俺の提案は、見事に彼女の心に刺さったようだ。「よし、じゃあ決まりだな! 青森に着いたら、まずは美味いりんごを探しに行こう!」
「うん!」忘は嬉しそうに頷いた。これで、青森での最初のイベントが決まった。
そして、俺にはもう一つ、この船旅の間に、忘に提案しておきたいことがあった。例の、デジタルフォトブック…いや、その前段階としての、SNS発信についてだ。
「なあ、忘。この前の支笏湖での写真、すごく綺麗に撮れただろ?」俺は、カメラを取り出し、液晶画面で何枚か写真を見せた。
「う…うん。凡太さん、写真撮るの上手だね…。でも、やっぱりちょっと恥ずかしいかも…」忘は頬を赤らめながら、自分の写真に見入っている。
「だろ? この写真、マジで最高なんだよ。それでさ、思ったんだけど…」俺は、意を決して切り出した。「この写真の一部を、試しにSNSで公開してみないか?」
「ええっ!? やっぱり!? だ、だめだよ、そんなの!」忘は慌てて首を横に振る。
「いやいや、待てって! 顔がはっきり分かるやつじゃなくていいんだ! 例えば、後ろ姿とか、風景メインで小さく写ってるやつとかさ。そういう、『雰囲気』が伝わる写真だけでも、絶対に反響あると思うんだよ!」俺は必死に説得を試みる。
「で、でも…誰が、そんなのを見るの…?」
「そこなんだよ!」俺は、ここぞとばかりにスマホを取り出した。「俺さ、実はSNSのアカウント持ってるんだ。まあ、ほとんど放置してたんだけど…」
俺は自分のアカウントページを忘に見せる。アイコンはデフォルトのまま、投稿は数えるほど、そしてフォロワー数は…**17人**。我ながら、泣けてくるほどの弱小アカウントだ。非モテっぷりがSNSにも滲み出ている。
「ふ、フォロワー17人…」忘も若干引いているように見える。くっ…!
「まあ、今はこれだけだがな!」俺は強がって言った。「でも、このアカウントの名前を、今日から変えようと思うんだ!」
「名前を変える…?」
「ああ! 俺は今日から、『凡太』改め、**『凡太P(仮)』**として活動を開始する!」俺はビシッと宣言した。
「ぼんたぴー…かっこかり…?」忘はきょとんとしている。
「そうだ! PはプロデューサーのPだ! 俺が、忘や、これから出会うかもしれないヒロインたちの魅力を、このアカウントから世界に発信していく! そして、ゆくゆくはデジタルフォトブックをだな…」
「ええっと…つまり、凡太さんの、そのフォロワー17人のアカウントで、私の写真を公開するってこと…?」忘はまだ状況を飲み込めていないようだ。
「そういうことだ! まずは、このアカウントで、俺たちの旅の様子とか、美しい景色とか、そして、忘の(顔が分からない程度の)魅力的な写真を投稿していく。そうすれば、きっと少しずつフォロワーも増えて、『いいね!』も増えて、忘の魅力が世界に伝わっていくはずだ! どうだ!? ワクワクしないか!?」俺は熱く語る。
忘は、しばらくの間、俺の顔とスマホの画面(フォロワー17人)を交互に見て、何かを考えていた。そして、ふっと吹き出した。
「ふふっ…あははは!」
「え? な、なんだよ、急に笑い出して…」
「だ、だって…凡太さん、必死なんだもん。フォロワー17人で、プロデューサーって…ふふふ」忘は、お腹を抱えて笑っている。こんなに大笑いする彼女を見るのは初めてかもしれない。その笑顔は、最高に可愛いのだが、同時に俺のプライド(と僅かに残った毛根)を微妙に傷つける!
「わ、笑うなよ! これは壮大な計画の第一歩なんだぞ!」
「ご、ごめんごめん…」忘は笑いをこらえながら言った。「でも…なんだか、面白そうかも。凡太さんが、そこまで言うなら…少しだけ、協力してみようかな」
「お! 本当か!?」
「うん。ただし! 絶対に顔が分からないようにしてね! それと、変なコメントとか来たら、すぐにやめるから!」
「もちろんだ! 任せとけ!」
やった! ついに、SNS発信の許可を得たぞ! これで、俺のプロデューサー(仮)としての第一歩が踏み出せる! フォロワー17人からのスタートだが、きっと、いつかは万垢(万フォロワー)になってみせる! …たぶん!
俺は早速、アカウント名を「凡太」から「凡太P(仮)@日本縦断中」に変更し、プロフィール欄に「訳あって日本全国を旅してます。各地の美少女(!?)や絶景を発信予定。応援よろしくお願いします(切実)」と書き込んだ。アイコンも、デフォルトからハーレム号の写真に変更した。
そして、支笏湖で撮った、忘の後ろ姿と美しい湖面の写真を選び、最初の投稿を作成した。
『北海道・支笏湖にて。息を呑むほどの透明度でした。旅の仲間(美少女)の後ろ姿と共に。 #北海道 #支笏湖 #絶景 #ロードムービー #訳あり旅』
よし、こんな感じか。ハッシュタグもつけて、これで少しは検索に引っかかるだろう。俺は、震える指で「投稿」ボタンを押した。
記念すべき、凡太P(仮)としての初投稿。果たして、反応はあるのだろうか…? 俺は、期待と不安を胸に、スマホの画面を食い入るように見つめるのだった。
(第三十二話 了)




