第三十話【悲報】第一部完!…って感じだけど俺の毛根の戦いはまだ続く
支笏湖でのフォトセッション(という名の、俺にとっては実質的な妄想新婚旅行・第二弾)から数日が経ち、俺、平凡太と白雪 忘は、札幌での準備期間の最終段階に入っていた。次の目的地である青森へ向かうフェリーのチケットも手配し、ハーレム号(中古ワゴン)の簡単な点検も済ませた。アパートの部屋も、店長さんに感謝を伝え、引き払う準備を進めている。
あの星空の下での記憶喪失&復活劇、そして支笏湖での美しい思い出。短い期間だったが、俺と忘の間には、言葉では言い表せないほどの、深く、そして確かな絆が生まれていた。
ヒロインレーダーに表示される信頼度は、あの日以来、ずっとLv.7のまま輝き続けている。最初のヒロイン、白雪 忘の攻略(と言ったら失礼か)は、ついに完了したのだ。第一関門突破! これは大きな成果だ!
…まあ、その代償として、俺の頭頂部には500円玉大の不毛地帯が誕生し、オシャレ(?)なバケットハットが手放せない身体になってしまったわけだが…。些細な問題だ! …いや、全然些細じゃないけど! でも、今は忘との絆と、ミッションの前進を喜びたい!
「…本当に、行っちゃうんだね」
荷造りを手伝ってくれていた忘が、少し寂しそうに呟いた。彼女は、俺と一緒に青森へ行くことを決めてくれた。だが、生まれ育った北海道、そして唯一の安息の地だったかもしれないカフェ「ポラリス」を離れることには、やはり一抹の不安と寂しさがあるのだろう。
「ああ。でも、これは別れじゃない。新しい旅の始まりだ」俺は、できるだけ力強い声で言った。「それに、忘には俺がついてる。何があっても、絶対に守るから」
「うん…」忘は、俺の目を見て、小さく頷いた。その瞳には、もう以前のような怯えや絶望の色はない。不安はあっても、それ以上に、未来への希望と、俺への信頼が宿っている。
「それにしても…」俺は、ふと思い出したように言った。「あの星空の下で、忘が最後に言った言葉…覚えてるか?」
「え?」忘はきょとんとして、そして次の瞬間、顔を真っ赤にした。「あ、あれは…! その…! 感動して、つい口が滑ったというか…! 深い意味は…!」
「はは、分かってるよ」俺は笑って誤魔化した。本当は、めちゃくちゃ意識してるし、録音しておきたかったくらいだが、ここで蒸し返すのは野暮だろう。「でも、嬉しかったぞ。ありがとうな」
「うぅ…もう、凡太さんのいじわる…」忘は、さらに顔を赤くして俯いてしまった。その仕草が、たまらなく可愛い。
(…やばい。完全に惚れてるな、俺)
自覚はあった。単なる仲間意識や、保護欲だけではない。俺は、白雪 忘という一人の女性に、本気で惹かれているのだ。まあ、他のヒロイン候補たちにも同じように惹かれていく運命なのかもしれないが(ハーレム目標だしな!)、今の俺にとって、忘は間違いなく、特別な存在だった。
荷造りを終え、俺たちは最後にもう一度、カフェ「ポラリス」を訪れた。お世話になった店長さんに、お別れの挨拶をするためだ。
「そうかい、もう行っちまうのかい」店長さんは、いつもの穏やかな笑顔で、しかし少しだけ寂しそうに言った。「達者でな、二人とも」
「店長さん、今まで本当にありがとうございました!」忘は深々と頭を下げた。「店長さんがいなかったら、私、どうなっていたか…」
「いいんだよ、忘ちゃん。君が元気になってくれたのが、私にとって一番の喜びさ」店長さんは、忘の頭を優しく撫でた。「凡太くんも、忘ちゃんのこと、しっかり頼んだよ。彼女は、見かけによらず頑張り屋だけど、無理しやすいところがあるからね」
「はい! 任せてください!」俺は力強く頷いた。…頭頂部を隠すバケットハットが少しズレた気がしたが、気にしない!
「それと…」店長さんは、何かを思い出したように、カウンターの奥から小さな包みを取り出した。「これ、餞別だ。旅の途中で、腹が減ったら食べなさい」
包みを開けると、中には店長さん手作りの焼き菓子がたくさん入っていた。クッキーに、マドレーヌ、フィナンシェ…。どれも、すごく美味しそうだ。
「こ、こんなにたくさん…! いいんですか!?」
「ああ。私の気持ちさ。道中、気をつけてな」
「店長さん…!」忘の瞳が、また潤んでいる。
「泣くんじゃないよ、忘ちゃん。これは別れじゃない、新しい始まりなんだろ?」店長さんは、優しく微笑んだ。
俺たちは、店長さんの温かい心遣いに胸を熱くしながら、何度も何度もお礼を言い、カフェ「ポラリス」を後にした。本当に、素晴らしい人との出会いだった。いつか、必ずまたここに戻ってこよう。そう心に誓った。
そして、いよいよ出発の時。
俺たちは、たくさんの思い出(と、俺の抜け毛)が詰まった札幌の街を後にし、ハーレム号に乗り込んだ。目指すは、フェリー乗り場のある港町、そしてその先の新天地、青森だ。
助手席の忘は、少し名残惜しそうに、遠ざかっていく札幌の街並みを見つめていた。
「…さよなら、札幌」
その呟きには、寂しさだけでなく、新たな決意も込められているように聞こえた。
俺は、そんな彼女の横顔を見ながら、ハンドルを握る手に力を込めた。
(ここからが、本当の始まりだ)
最初のヒロイン、白雪 忘を仲間に加え、俺の力(?)の謎も深まり、そして頭頂部には新たなアクセント(ハゲ)が加わった。問題は山積みだが、それ以上に、希望と、そして隣にいる彼女の存在が、俺を強くしてくれている。
「行くぞ、忘! 新しい冒険の始まりだ!」
「うん!」
ハーレム号は、朝日を浴びて輝く道を、力強く走り出した。
俺たちの、日本縦断ハーゲム(&ハゲ隠し&資金調達)ロードムービーは、まだ始まったばかり。これからどんな出会いが、どんな試練が待ち受けているのか。そして、俺の頭皮は、最終的にどうなってしまうのか…!?
期待と不安と、ほんの少しの下心(と大量の抜け毛への恐怖)を胸に、俺たちの旅は続く!
(第三十話 了 / 忘編 完)




