第二十八話【悲報】旅立ちの準備のはずが、最重要課題はハゲ隠しだった件
満天の星空の下での激闘(主に俺の毛根との)を経て、白雪 忘との信頼度がMAXレベル7に到達した俺たち。ヒロインレーダーは次なる目的地として本州の北端、青森県を示し、俺たちの日本縦断ハーゲム(&ハゲ進行)ロードムービーは、いよいよ新たな章へと突入しようとしていた。
「…というわけで、忘。数日中には札幌を出発しようと思うんだが、準備は大丈夫そうか?」
カフェ「ポラリス」で作戦会議(という名の、もはや日常と化したお茶会)をしながら、俺は忘に尋ねた。あの星空の夜から数日が経ち、俺たちは札幌での最後の準備を進めていた。
「うん、大丈夫だよ」忘は穏やかに頷いた。「荷物はもともと少ないし、いつでも出発できる。それより、凡太さんは大丈夫なの?」
「え? 俺?」
「うん。なんだか最近、よく頭を気にしてるみたいだから…。まだ痛むの?」忘は心配そうに俺の顔を覗き込む。
ぎくぅっ!!
鋭い! さすが信頼度Lv.7! 俺の些細な(いや、重大な)変化にも気づいているのか!? いや、単に俺が挙動不審なだけか!?
「い、いやいや! 頭痛はもう全然ないぞ! 絶好調だ!」俺は慌てて笑顔を作り、頭頂部をさりげなく隠すように髪をかき上げた(効果があるかは不明)。「ただ、ほら、長旅になるからさ、体調管理とか、色々考えないとなって思ってな!」
「そっか。ならいいんだけど…。無理しないでね」
「おう!」
危ない危ない…。忘に、俺の頭頂部が部分的に不毛地帯と化したことを、まだカミングアウトできていない。というか、できるわけがない! ただでさえ俺に特別な感情(?)を抱き始めている(かもしれない)彼女に、「実はハゲ始めてるんだ」なんて、どうして言えようか! いや、言えるはずがない!(反語)
これは、旅立ち前の最重要課題だ。**いかにして、この部分ハゲを隠し通すか。** これが今後の俺の旅(と尊厳)を大きく左右する。
(帽子…か? でも、室内でもずっと被ってるのは不自然だよな…。ウィッグ…? いや、金銭的にも技術的にもハードルが高い…。いっそ、開き直ってスキンヘッドに…? いやいやいや、それは最終手段だろ!)
俺が内心でハゲ隠しファッションショーを繰り広げていると、忘が「あのね」と切り出した。
「私、昨日、実家に電話したんだ」
「え? 電話? 大丈夫だったのか?」俺は驚いた。彼女は、自分の力のせいで家族とも距離を置いていたはずだ。
「うん…」忘は少し俯いた。「すごく、緊張した。何年も、ちゃんと話してなかったから…。それに、私の力のことも、今回の旅のことも、全部話さないといけないって思ったら、怖くて…」
「…そうだよな」
「でも、凡太さんが言ってくれたじゃない?『君は一人じゃない』って。それに、店長さんも『ちゃんと話してみなさい』って背中を押してくれて…」
忘は顔を上げて、俺と、カウンターで穏やかに微笑んでいる店長さんを交互に見た。
「だから、勇気を出して電話してみたの」
「…それで、どうだったんだ?」俺は固唾を飲んで尋ねた。
「お母さん、すごく驚いてた。最初は、私がまた何か変なことを言い出したんじゃないかって、心配してたみたいだけど…」忘は、当時の母親の反応を思い出すように、少しだけ苦笑いを浮かべた。「でも、私が真剣に、今までのこと、力の苦しみ、そして凡太さんと出会って希望を見つけたこと、これから旅に出ることを話したら…」
「……」
「…泣いてた。ずっと、私のことを心配してくれてたんだって。何もしてあげられなくてごめんねって…。そして、『あなたが自分で決めた道なら、応援する。でも、絶対に無理はしないで。いつでも帰ってきていいんだからね』って言ってくれたの」
忘の瞳が、再び潤んでいた。だが、それは悲しみの涙ではない。温かい、家族の愛に触れた喜びの涙だ。
「よかったな、忘…!」俺も、自分のことのように嬉しくなった。彼女が、ずっと断ち切れていたと思っていた家族との絆を、再び結び直すことができたのだ。
「うん…!」忘は涙を拭い、力強く頷いた。「だから、もう大丈夫。私は、迷わずこの旅に出られる。凡太さんと一緒に、他の『輝き』の子たちを探しに行くよ!」
その決意に満ちた表情は、以前の彼女からは想像もできないほど、強く、美しかった。
「…よし! じゃあ、出発に向けて、最後の準備をしよう!」俺は気合を入れた。「まずは、俺の最重要課題からだ!」
「最重要課題?」忘はきょとんとしている。
「ああ!」俺は立ち上がり、財布を握りしめた。「ちょっと買い物に行ってくる!」
「え? どこに?」
「それは…着いてからのお楽しみだ!」
俺は忘を伴い、カフェ「ポラリス」を出て、札幌市内の大型雑貨店へと向かった。もちろん、道中は『凡太浄化(仮)』を怠らない。
雑貨店の帽子コーナー。俺は、様々な種類の帽子を片っ端から試着し始めた。ニット帽、キャップ、ハット、ハンチング…。
「えっと…凡太さん? 何してるの?」忘が不思議そうに尋ねる。
「いや、ほら、これから旅に出るだろ? 北海道は日差しも強いし、それに、ちょっと気分転換に帽子でも買おうかなって!」俺はあくまで自然を装う。
「ふーん? でも、凡太さん、あんまり帽子似合わないような…」
「うぐっ…!」忘の素直すぎる(そして的確な)指摘に、心が折れそうになる。だが、ここで諦めるわけにはいかない! 俺の頭頂部の平和のために!
「い、いや、探せば似合うやつもあるはずだ! 例えば、これとかどうだ!」俺は、無難そうな黒いキャップを被ってみる。
「うーん…普通?」
「じゃ、じゃあ、これはどうだ!」ちょっとお洒落ぶって、フェルト生地の中折れハットを試す。
「…なんか、頑張ってる感が出てるかも…」
「ぐはっ…!」
ダメだ! 忘のファッションセンス(?)の前には、俺のハゲ隠し計画は難航を極めている!
「あ、これなんかどうかな?」忘が、一つの帽子を手に取って俺に差し出した。それは、シンプルなデザインの、少し深めのバケットハットだった。色は落ち着いたネイビー。
「バケットハット…? 俺、こういうの被ったことないけど…」
「似合うと思うよ。凡太さん、意外とこういうラフな感じの方が、雰囲気出るんじゃないかな?」
忘に勧められるまま、俺はバケットハットを試着してみた。鏡を見ると…あれ? 意外と悪くないかもしれない。深めにかぶれば、頭頂部も完全に隠れるし、どことなくオシャレ(?)な雰囲気も出ている…ような気がする。
「うん! いい感じだよ、凡太さん!」忘も満足そうだ。
「そ、そうか? じゃあ、これにするかな…」
こうして、俺の旅の新たな相棒(という名のハゲ隠しアイテム)が決まった。ネイビーのバケットハット。こいつが、俺の尊厳を守ってくれることを祈るばかりだ。
買い物を終え、アパートに戻る道すがら、俺は忘に尋ねた。
「なあ、忘。青森に行く前に、もう一箇所くらい、北海道でどこか寄ってみたい場所とかあるか? せっかくだし」
「え? いいの?」
「ああ。時間はまだ少しあるしな。それに、ほら、あれもやらないと…」俺は、首から下げていた一眼レフカメラを指差した。
「あれ…?」
「デジタルフォトブックの素材集めだよ!」
「で、デジタルフォトブック!?」忘は驚いて声を上げる。「え、私の写真で、そんなの作るの!?」
「もちろん! 忘はめちゃくちゃ可愛いんだから、絶対に人気出るって! これで活動資金を稼いで、俺たちの旅をより快適にするんだ!」俺は熱弁する。
「えええ!? でも、恥ずかしいよ…!」忘は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「大丈夫だって! 俺のカメラの腕を信じろ! 最高の写真集を作ってやるから!」俺は自信満々に(資金繰りのことしか頭にない顔で)言った。「だから、どこか景色のいい場所で、モデルさんになってくれないか?」
「も、モデル…!?」忘はますます混乱しているようだ。
さて、彼女をどうやって説得するか…。俺の敏腕プロデューサー(自称)としての腕の見せ所だ!
俺たちの旅は、新たな目的(資金調達)を加え、ますます波乱に満ちたものになりそうだった。
(第二十八話 了)
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