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第二十七話【悲報】感動の翌朝、鏡に映ったのは希望か絶望か

満天の星空の下で、白雪 忘の記憶を取り戻し、そして俺、平凡太の頭頂部に最初の不毛地帯(直径数センチ)が誕生するという、感動と衝撃が入り混じった夜から一夜が明けた。


俺たちが借りている、人里離れたペンションの一室。窓から差し込む朝の光が眩しい。小鳥のさえずりなんかも聞こえちゃったりして、なんとも清々しい朝だ。…清々しい、はずなのだが。


俺は、洗面所の鏡の前で、完全に固まっていた。


(………………。)


鏡に映る自分の姿。寝癖でボサボサの髪はいつも通り。だが、問題はそこではない。問題は、頭のてっぺん…!


(…やっぱり、夢じゃなかった…)


そこには、昨夜、指先で確認した通りの光景が広がっていた。直径にして、500円玉くらいだろうか。その部分だけ、綺麗さっぱり、赤子のような滑らかな地肌が露出しているのだ。周囲の髪の毛がどんなに頑張って隠そうとしても、その存在感は圧倒的だ。まるで、俺の頭の上に、小さな満月が昇っているかのようだ。


「……はは…ははははは…」


乾いた笑いしか出てこない。これが、信頼度Lv.7達成の代償。第一の犠牲エリア。これから先、あと六人見つけ出すたびに、この不毛地帯が頭のどこかに増えていくというのか? しかも、最終的には完全にツルツルになるって?


(…いや、笑えねえ…全然笑えねえよ!)


俺は鏡の中の自分を睨みつけた。このハゲ(部分)頭で、これから美少女たちを探し、信頼を得ろと? 無理ゲーすぎんだろ! ただでさえ非モテなのに、こんなハンデキャップ(物理)まで背負わされて! あの神(?)、やっぱり性格が悪すぎる!


(くそっ…! こうなったら、隠すしかない!)


幸い、まだ範囲は狭い。周囲の髪をうまくセットすれば、なんとか隠せる…かもしれない。俺はドライヤーとワックス(安物)を駆使し、必死にカモフラージュを試みた。涙ぐましい努力の末、なんとか真正面から見れば分からない程度にはなった…ような気がする。だが、上から見られたら一発アウトだ。今後、身長の高いヒロインと出会ったらどうしよう…。


身だしなみ(という名のハゲ隠し)を終え、リビングに向かうと、そこにはすでに忘の姿があった。彼女は、窓辺に座って、朝の柔らかな日差しを浴びながら、静かに本を読んでいた。その横顔は、昨夜の出来事を経て、どこか吹っ切れたような、穏やかで澄んだ表情をしている。


俺の姿に気づくと、忘は本から顔を上げて、柔らかく微笑んだ。


「おはよう、凡太さん」


「お、おはよう、忘」俺は、頭頂部を意識しつつ、ぎこちなく挨拶を返す。


「昨日は…その、ありがとう。本当に…」忘は、少し頬を赤らめながら、改めてお礼を言ってくれた。


「い、いや…俺の方こそ、無事でよかったよ」


昨夜の、あの抱擁の瞬間を思い出すと、俺まで顔が熱くなってくる。あの時の忘の温もり、震え、そして俺の名前を呼んでくれた声…。間違いなく、俺たちの関係は、あの瞬間を境に大きく変わったのだ。


(…そうだよな。ハゲた(部分的に)ことばっかり気にしてちゃダメだ。俺は、忘との絆を深め、信頼度MAXを達成したんだ。これは、大きな前進なんだ!)


俺は自分に言い聞かせる。髪の毛(一部)と引き換えに得たものは、決して小さくないはずだ。


「あのね、凡太さん」忘が、少し改まった口調で切り出した。「昨日のこと…凡太さんが、私の記憶を戻してくれたこと…あれって、やっぱり、凡太さんの特別な力なんだよね?」


「…たぶん、そうなんだと思う」俺は頷いた。「理由は分からないけどな」


「その力があれば…もしかしたら、私のこの…記憶を消しちゃう力も、いつか、コントロールできるようになるかもしれない…そう思ったら、すごく…希望が湧いてきたんだ」


忘の瞳は、力強く輝いていた。以前の彼女からは考えられないような、前向きな光だ。


「ああ、きっとそうだよ! 俺の力(ハゲパワー改め、平凡ヒーローパワー!)と、忘自身の頑張りがあれば、絶対に道は開けるはずだ!」俺も力強く応える。


「うん!」


俺たちは、互いの目を見て、改めて決意を共有した。


朝食は、ペンションのオーナーさんが用意してくれた、焼きたてのパンと温かいスープ、新鮮なサラダだった。北海道の食材をふんだんに使った、シンプルだがとても美味しい朝食だ。俺たちは、昨夜の出来事を振り返ったり、これからの旅について話したりしながら、和やかな時間を過ごした。


忘は、時折、俺の頭頂部あたりに視線を送っているような気がしたが…たぶん、気のせいだろう。うん、きっとそうだ。隠せてる、隠せてる。


朝食後、俺たちはペンションをチェックアウトし、ハーレム号に乗り込んだ。今日の予定は、札幌へ戻ること。そして、次の目的地についての情報を待つことだ。


車内では、忘が昨夜の星空の美しさや、牧場で見た動物たちの可愛らしさについて、楽しそうに話してくれた。記憶を失っていた間のことは、やはり覚えていないようだったが、その前後の幸福な記憶は、しっかりと彼女の中に残っているようだった。それは、俺にとって何よりの救いだった。


「凡太さんのおかげで、本当に楽しい旅行になったよ。ありがとう」忘は心からの笑顔で言った。


「俺の方こそ、忘が楽しんでくれて嬉しいよ」俺も笑顔で返す。


(…まあ、頭頂部の一部を失ったのは痛いが…この笑顔が見られるなら、安いもの…いや、安くはない! 全然安くないけど! でも、後悔はしてない!)


俺は、ハンドルを握りながら、複雑な心境で自分自身を納得させようとしていた。


札幌へ戻る道すがら、俺はふと、忘に尋ねてみた。


「なあ、忘。これから、俺と一緒に旅をしてくれるって言ってくれたけど…本当にいいのか? 家族とか、友達とか…心配するんじゃないか?」


忘は、少しだけ寂しそうな顔をしたが、すぐに首を横に振った。


「家族には…ちゃんと話すつもり。私の力のことも、これからの旅のことも。きっと、心配するだろうけど…でも、分かってくれると思う。それに、友達は…もともと、いないから」


最後の言葉に、胸がチクリと痛む。


「でも、今は凡太さんがいるから、寂しくないよ」忘は、そう言って微笑んだ。「それに、これから出会うかもしれない『輝き』の子たちとも、友達になれたらいいなって思うんだ」


「…そうだな。きっと、なれるさ」


俺たちの旅は、ただヒロインを探すだけじゃない。彼女たちの孤独を癒し、新たな繋がりを築いていく旅でもあるのだ。そう思うと、なんだか壮大な使命感のようなものが湧き上がってくる。


札幌のアパートに戻ると、俺たちはまず、ヒロインレーダーを確認した。忘の信頼度がLv.7に達したことで、何か変化が起きているかもしれない、と期待したからだ。


レーダーをテーブルの上に置き、意識を集中させる。すると、カードの中央の水晶体が、これまでよりも強く、そして複雑な光を放ち始めた!


「おおっ!?」


光の粒子がカードの表面に広がり、日本列島の地図を描き出す。そして、これまで札幌周辺しか示していなかった光点が、新たに、別の場所にも現れたのだ!


それは、北海道から海を隔てた、本州の北端――青森県を指し示していた!


「青森…!」


「次の『輝き』は、青森にいるんだ…!」


ついに、次なる目的地が示された!

俺たちの旅は、新たなステージへと進むのだ!


忘と顔を見合わせる。彼女の瞳にも、期待と、ほんの少しの不安、そして確かな決意の色が浮かんでいた。


「行くぞ、忘!」


「うん!」


俺たちの、日本縦断ハーゲム(&ハゲ隠し)ロードムービーは、いよいよ本格的に幕を開ける!

まずは、この部分的なハゲをどうやって隠し通すか、という喫緊の課題から始めなければならないが…!


(第二十七話 了)

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