第二十四話【悲報】ドライブデートのはずが、野生動物との遭遇率が高すぎる件
数日後、俺、平凡太と白雪 忘は、ついに札幌を出発し、北海道内小旅行へと旅立った。目指すは、広大な牧場と美しい丘が広がるエリア、そして夜には満天の星空が期待できる、少し人里離れた場所にあるペンションだ。俺の愛車ハーレム号(中古ワゴン)は、この日のために念入りに洗車し、ガソリンも満タン。準備は万端だ!(俺の心の準備と頭皮の耐久度は若干不安だが)
助手席には、少し緊張した面持ちながらも、窓の外の景色に目を輝かせている忘がいる。白いニット帽を目深にかぶり、マフラーに顔をうずめるようにしているが、その瞳は好奇心でキラキラと輝いている。初めての本格的な遠出に、不安と期待が入り混じっているのだろう。
「すごい…! 札幌を出ると、本当に何もないんだね…!」
高速道路を降り、広大な畑や牧草地がどこまでも続く一本道を走っていると、忘が感嘆の声を上げた。確かに、本州ではなかなか見られない、圧倒的なスケールの景色が広がっている。遮るものが何もない空はどこまでも青く、遠くにはまだ雪を頂いた山々が見える。
「だろ? これが北海道のスケールだ! 空気も美味いし、最高だぜ!」俺は得意げに言う。まあ、俺も北海道に来るのは初めてみたいなもんだが。
「うん! なんか、心が洗われるみたい…」忘は深呼吸をして、気持ちよさそうに目を細めた。
(…可愛い)
またしても俺の心臓が不整脈を打つ。いかんいかん、運転に集中しなければ。でも、こんな可愛い子が隣にいたら、集中しろという方が無理な話だ。俺はチラチラと忘の横顔を盗み見ながら、安全運転を心がけた。
最初の目的地は、忘が希望していた牧場だ。広大な敷地に、牛や馬、羊たちがのんびりと草を食んでいる、まさに絵に描いたような牧歌的な風景が広がっている場所らしい。
「うわー! 見えてきた! あれかな?」
忘が指差す方を見ると、緑の丘の上に、白い柵で囲まれた牧場が見えてきた。車を駐車場に停め、外に出ると、草と土の匂い、そして動物たちの匂いが混じった、独特の匂いが鼻をついた。
「空気が全然違うね!」忘は嬉しそうに言う。
「ああ、気持ちいいな!」
幸い、平日ということもあってか、牧場内の観光客はまばらだった。これなら、忘も安心して過ごせそうだ。俺は例によって『凡太浄化(仮)』スキルを発動すべく、忘が触りそうな柵や看板にさりげなくタッチしながら、彼女をエスコートする。
「あ! 牛さんだ! 大きい!」忘は、のんびりと草を食む牛たちを見つけて駆け寄った。もちろん、柵からは安全な距離を保っている。
「ほんとだ。のんびりしてるなー」俺も隣で眺める。
「馬もいるよ! かっこいい!」
「羊も可愛いなー。モフモフしてそうだ」
俺たちは、動物たちを眺めたり、牧場内を散策したりして、穏やかな時間を過ごした。忘は、動物たちを見るたびに目を輝かせ、その表情は札幌にいた時よりもずっと生き生きとして見えた。俺は、そんな彼女の姿を、ここぞとばかりにカメラに収めた。うん、これも良い素材になりそうだ…って、また下心が!
牧場の一角には、搾りたての牛乳を使ったソフトクリームを売る店があった。忘が「食べたい!」と言うので、もちろん購入。俺は定番のミルク味、忘は期間限定のいちごミックス味を選んだ。
「んー! 濃厚で美味しい!」忘は幸せそうにソフトクリームを頬張る。
「ほんとだ、ミルクの味が濃いな!」俺もその美味しさに感動する。
…と、ここで俺の脳内に、あのカフェでの悪夢(いや、天国?)が蘇る。
(ま、まさか、また味見イベント発生か!? いやいや、さすがに外でそれは…でも、もし忘が「一口ちょうだい」って言ってきたら…俺は…俺の毛根は…!?)
俺が一人で勝手にドキドキしていると、忘は特にそんな素振りも見せず、自分のソフトクリームを美味しそうに食べ終えた。…ホッとしたような、少しだけ残念なような、複雑な心境だ。まあ、ここでまた毛髪が犠牲になるのは避けたかったから、結果オーライとしよう。
牧場を満喫した後、俺たちは次の目的地である美瑛方面の丘陵地帯へと車を走らせた。どこまでも続く緩やかな丘陵、パッチワークのように見える畑、点在する一本の木…。まるでヨーロッパの田園風景のような、美しい景色が広がっている。
「すごい…! 絵本の中みたい…!」忘は、車の窓に額をくっつけるようにして、食い入るように景色を眺めている。
「だろ? ここは写真スポットとしても有名なんだぜ」俺は、景色の良い場所に車を停め、カメラを取り出した。「ちょっと降りて、写真撮らないか?」
「うん!」
俺たちは車を降り、丘の上に立った。吹き抜ける風が心地よい。360度見渡す限り、美しい緑と空のコントラストが広がっている。人工物がほとんど見当たらない、雄大な自然。都会の喧騒とは無縁の世界だ。
俺は、この絶景をバックに、忘の写真を何枚も撮った。風に髪をなびかせながら、遠くを見つめる儚げな表情。丘の上に座り込み、無邪気に草花を眺める姿。どれも、信じられないくらい絵になっている。
(忘…綺麗だ…)
ファインダー越しに見る彼女の姿に、俺は改めて心を奪われた。特別な力なんてなくても、彼女自身の存在が、もう十分に特別で、魅力的だ。
(…この美しさを、俺だけが知っているのはもったいない…やっぱり、写真集…いや、今は我慢だ!)
俺がカメラに夢中になっていると、忘が不意に「あ!」と小さな声を上げた。
「どうした、忘?」
「見て、凡太さん! あそこに、キツネがいる!」
忘が指差す方を見ると、少し離れた丘の斜面を、一匹のキタキツネがトコトコと歩いているのが見えた!
「おお! 野生のキツネか! ラッキーだな!」俺は慌ててカメラを向ける。
「可愛い…!」忘も目を輝かせている。
だが、その時、さらに予想外の出来事が起こった。
キツネの後ろから、のっそりと、大きな影が現れたのだ。
茶色い毛皮、大きな体躯、そして鋭い眼光…。
(……え? あれって…もしかして…)
(…ヒ、ヒグマ!?!?!?)
嘘だろ!? なんでこんなところにヒグマが!? しかも、結構近いぞ!?
「ひっ…!」忘もヒグマの姿に気づき、息を呑んだ。
ヒグマは、俺たちの方をじっと見ている。その目には、明らかに警戒心と…そして、獲物を見るような光が宿っている気がする!
(やばい! やばいやばいやばい!)
俺の脳内で、再び最大級の警報が鳴り響く! 美しい北海道の景色が一転、サバイバルホラーの舞台へと変貌した瞬間だった!
「わ、忘! 逃げるぞ!」俺は忘の手を掴み、全力でハーレム号に向かって走り出した!
「きゃっ!」
忘も、恐怖で顔を引きつらせながら、必死に俺についてくる。
背後からは、ヒグマの低い唸り声のようなものが聞こえる気がする!
(なんでだよ! ドライブデート(妄想)に来ただけなのに、なんでヒグマに追いかけられなきゃいけないんだよ! 北海道、自然豊かすぎだろ!)
俺は心の中で絶叫しながら、必死に足を動かした。忘の手をしっかりと握りしめ、絶対に離さないように。
果たして、俺たちは無事にヒグマから逃げ切ることができるのか!? そして、この恐怖体験は、俺の頭皮にどれほどのダメージを与えるのか!?
(第二十四話 了)
♦️基本20時投稿!コンスタントに週3話以上投稿
✅️是非ブクマお願いします
 




