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第二十三話【悲報】小旅行の計画のはずが、新婚旅行の妄想になってる件

白雪 忘の絶品手料理(と俺の毛根への大ダメージ)から数日が経ち、俺たちの札幌での「準備期間」は、比較的穏やかに過ぎていた。あの衝撃的な手料理イベント以来、忘は時々、俺のために料理を作ってくれるようになった。肉じゃがだけでなく、生姜焼き、オムライス、カレーライス…どれもこれも、そこら辺の定食屋が裸足で逃げ出すレベルの美味さだ。忘、恐るべき女子力(料理スキル限定かもしれないが)の持ち主である。


もちろん、俺だってただご馳走になっているだけではない。食後の洗い物は俺の担当だし、食材の買い出しにも一緒に行く。買い出しの際は、例の『凡太浄化(仮)』スキルを駆使し、忘がカートや商品に触れる前に俺がサッと触れておく。スーパーの店員さんからは時々「?」みたいな顔で見られるが、もう慣れた。これも世界平和(と俺のハーレム)のためだ。


能力対策訓練も、地道に続けている。感情コントロールは相変わらず難しいようだが、忘は諦めずに取り組んでいる。嬉しい感情の時はキラキラオーラ、悲しい感情の時は黒いオーラが漏れ出す頻度は、ほんの少しだけ減ってきたような気がしないでもない。まあ、俺のプラシーボ効果かもしれないが。


そして、忘は俺に対して、以前にも増して心を開いてくれているように感じられた。二人でテレビを見ながら笑ったり、他愛のない話をしたり、時には、彼女が抱える能力への不安や、将来への漠然とした希望について、ぽつりぽつりと語ってくれることもあった。俺は、その全てを、ただ黙って、しかし真剣に受け止めた。信頼度レベルは、レーダー上ではLv.5のまま変化はないが、俺たちの間の絆は、確実に深まっているはずだ。…俺の頭髪密度は反比例して薄くなっている気がするが、それは見ないふりをする。今は。


そんなある日の午後。俺たちは、いつものようにカフェ「ポラリス」で作戦会議(という名の雑談)をしていた。


「なあ、忘」俺は温かいコーヒーを飲みながら切り出した。「そろそろ、次のステップに進まないか?」


「次のステップ…?」忘は、飲んでいたココアから顔を上げた。


「ああ。いつまでも札幌にいるわけにもいかないだろ? 他の『輝き』を探す旅を、本格的に始めたいんだ」


俺の言葉に、忘は少しだけ寂しそうな表情を見せたが、すぐに力強く頷いた。


「うん。そうだね。私も、覚悟はできてるよ」


「よし、その意気だ!」俺は嬉しくなった。「それで、次の目的地なんだが…レーダーはまだ反応がないんだよな」


俺はテーブルの上にヒロインレーダーを置く。相変わらず、札幌周辺を示す光点が点滅しているだけで、他の場所には何の反応もない。


「やっぱり、私の信頼度がまだ足りないのかな…」忘が申し訳なさそうに言う。


「まあ、そうかもしれないな。Lv.5まできたけど、MAXのLv.7まではあと2つ。もしかしたら、Lv.6とかLv.7にならないと、次の情報は出てこないのかもしれない」


「そっか…」


「だから、だ」俺は提案した。「信頼度を上げる…つまり、もっと俺たちの絆を深めるために、ちょっとした小旅行に出かけるってのはどうだ?」


「小旅行?」忘は目をぱちくりさせた。


「ああ。札幌市内も色々見て回ったけど、北海道はもっと広いだろ? 少し足を延ばして、景色のいい場所とか、美味しいものがある場所とかに行ってみるんだ。気分転換にもなるし、二人で一緒に何かを経験することで、きっと絆も深まるはずだ!」


もちろん、下心がないと言ったら嘘になる。忘ともっと一緒にいたいし、彼女の新しい一面も見てみたい。それに、美しい景色の中で、彼女の写真を撮りまくりたいという願望もある(デジタル写真集計画はまだ諦めていない!)。


俺の提案に、忘は最初、少し戸惑っているようだった。自分の力のことを考えると、やはり遠出には不安があるのだろう。


「でも…人が多い場所だと、また迷惑かけちゃうかもしれないし…」


「大丈夫だって!」俺は自信満々に(根拠はないが)言った。「俺の『凡太浄化(仮)』スキルも、だいぶ板についてきただろ? 俺がしっかりガードするから心配ない! それに、今回は、できるだけ人が少なそうな、自然が豊かな場所を選んで行こうぜ」


俺は、事前にネットで調べておいた北海道内の観光スポットの候補をいくつか挙げた。富良野のラベンダー畑(時期じゃないけど)、美瑛の丘、洞爺湖、支笏湖…。どこも、写真で見る限り、息を呑むような美しい景色が広がっている。


忘は、俺が提示したパンフレットやスマホの画面を食い入るように見つめていた。その瞳が、次第に期待の色に染まっていくのが分かった。


「わぁ…どこも、すごく綺麗…!」


「だろ? 北海道、でっかいからな! きっと、忘が見たことない景色がたくさんあるはずだ」


「……行きたい…!」忘は、意を決したように顔を上げた。「行ってみたい! 凡太さんと一緒なら、きっと大丈夫な気がする!」


「よっしゃ! 決まりだな!」俺はガッツポーズをした。「じゃあ、どこに行くか決めようぜ!」


俺たちは、パンフレットを広げ、あーでもないこーでもないと議論を始めた。


「富良野はラベンダーの時期じゃないけど、景色は綺麗だよな」

「美瑛の丘も捨てがたいな…パッチワークみたいな景色、一度見てみたい」

「洞爺湖の温泉とかもいいかも…って、いや、温泉はまだ早いか!?」

「支笏湖の透明度もすごいらしいぞ!」


二人で旅の計画を立てる。それは、俺の人生で初めての経験だった。誰かと一緒に、未来の楽しみな予定を語り合う。それだけで、胸が温かくなるような、幸せな気持ちになれた。


忘も、最初は遠慮がちだったが、次第に自分の希望を口にするようになった。


「私、動物が好きだから…牧場とか行ってみたいな」

「あと、美味しいソフトクリームが食べたい!」

「綺麗な星空も見てみたいな…札幌だと、あんまり見えないから」


「牧場! ソフトクリーム! 星空! いいな、全部採用だ!」


俺たちは、最終的に、いくつかの候補地を組み合わせた、1泊2日の小旅行プランを立てることにした。移動はもちろん俺のハーレム号だ。宿は、人里離れた場所にある、小さなペンションかコテージを探すことにした。これなら、他の宿泊客に迷惑をかける心配も少ないだろう。


計画を立てているうちに、俺の脳内では、またしても妄想が暴走し始めていた。


(忘と二人でドライブ…助手席には可愛い忘…サービスエリアでソフトクリームを「あーん」し合ったりして…夜はペンションで二人きり…満天の星空の下で語り合って…いい雰囲気になって…まさか、これは…!)


(…新婚旅行じゃないか!?!?)


ズキューン! 俺の脳天に、またしても衝撃が走る!

そうだ! これはもう、実質、新婚旅行と言っても過言ではない! いや、過言かもしれないが、俺の中ではもう確定だ!


(やばい…! 忘との新婚旅行…! どんな服着ていこう!? カメラのSDカードの容量は足りるか!? いや、それよりも俺の心の準備と毛根の準備は!?)


俺が一人で悶絶し、脳内で新婚旅行のしおり(妄想版)を作成していると、忘が不思議そうな顔でこちらを見ていた。


「凡太さん? どうしたの? また顔赤いよ?」


「ぶふぉっ!?」俺は変な声を出してむせた。「な、なんでもない! ちょっと、旅行のことで興奮しすぎただけだ!」


「ふふ、楽しみだもんね」忘は無邪気に笑う。その笑顔が、俺の妄想をさらに加速させる!


(ああ…神様…! これ以上、俺の毛根に試練を与えないでください…! でも、この幸せな時間のためなら…!)


俺は、来るべき(妄想)新婚旅行への期待と、それに伴うであろう毛髪へのダメージへの恐怖に打ち震えながら、旅行の詳細を詰めていくのだった。


果たして、この小旅行は、無事に成功するのだろうか? そして、俺の頭皮は、この試練に耐えうることができるのだろうか…!?


(第二十三話 了)

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