第二十一話【悲報】日常パートのはずが、能力対策訓練がシュールすぎる件
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さっぽろ雪まつり会場での記憶喪失&復活事件から数日が経過した。あの日の出来事は、俺、平凡太にとっても、そして白雪 忘にとっても、あまりにも衝撃的で、忘れられない一日となった。子供の記憶を奪ってしまったという事実に打ちのめされた忘。そして、意図せずして発動した俺の謎の記憶修復パワー(仮)。あの瞬間、俺たちの関係性は、確実に新たな段階へと進んだ気がする。
現在、俺たちは依然として札幌に滞在中だ。あの事件の後、すぐに次の目的地へ出発するという選択肢もあった。だが、忘の精神的なダメージも大きかったし、何より、俺の謎パワーも含め、もう少し現状を整理し、対策を練る時間が必要だと判断したからだ。幸い、カフェ「ポラリス」の店長さんが、空いているアパートの一室(店長さんの持ち物らしい)を格安で貸してくれることになり、俺たちは一時的ながらも落ち着ける拠点を得ることができた。もちろん、部屋は別々だぞ! 変な気を起こしたら、それこそ信頼度だだ下がり&ハゲ加速間違いなしだからな!
「それじゃあ、今日の訓練、始めよっか」
アパートのリビング(と言っても狭いが)で、忘が少し緊張した面持ちで言った。今日のメニューは、忘の能力対策訓練だ。あの事件以来、忘は自分の力と真剣に向き合い、少しでもコントロールできるようになりたいと強く願うようになった。そして、俺も全力でそのサポートをすると約束したのだ。
「おう! まずは基本の『凡太浄化(仮)』からだな!」俺は意気込む。「忘が触りそうな物に、俺が先に触れておく練習だ!」
「うん。でも、やっぱりちょっと恥ずかしいかも…」忘は頬を赤らめる。
そう、この訓練、傍から見たらかなりシュールなのだ。例えば、テーブルの上のリモコン。忘がそれに手を伸ばそうとすると、俺が「待った!」と叫び、素早くリモコンにタッチ! そして、「よし、浄化完了!」と宣言する。ドアノブも、電気のスイッチも、冷蔵庫の取っ手も、全て俺が先に触れて「浄化」する。その度に忘は「ありがとう…」と恥ずかしそうに俯く。
…これ、どう見てもただの潔癖症の彼氏(俺)と、それに付き合わされる彼女(忘)の図だよな…。いや、潔癖症どころか、もはや何かの儀式だ。ハタから見たら完全にヤバい奴らだ。まあ、他に人がいないからいいんだけど。
「次は、『感情コントロール訓練』だ!」俺は次のメニューを宣言する。
これは、忘が感情の起伏によって力が不安定になるのを防ぐための訓練だ。嬉しいこと、悲しいこと、怖いことなどをあえて想像してもらい、その時に力のオーラが漏れ出さないように意識を集中してもらう。
「よし、じゃあまずは…最高に嬉しかったことを思い出してみてくれ!」
「えっと…最高に嬉しかったこと…」忘は目を閉じて考え込む。「あ、この前、凡太さんと一緒に食べたパフェ、すごく美味しかったなぁ…」
「おお、あれか! あの時のことを思い出して、幸せな気分に浸ってみてくれ!」
「うん…」忘は幸せそうな表情を浮かべる。すると、彼女の身体から、ほんのりと、キラキラした光の粒子のようなものが見え始めた!
「おっと! 忘、オーラが出てるぞ! 抑えろ、抑えろ!」
「ひゃっ! ご、ごめんなさい!」忘は慌てて深呼吸をし、意識を集中させる。すると、光の粒子はゆっくりと収まっていった。
「よしよし、いいぞ! その調子だ!」
「次は、悲しかったこと…?」忘がおそるおそる尋ねる。
「ああ。思い出したくないかもしれないけど、訓練だからな。…例えば、自分の力のせいで、友達に忘れられちゃった時のこととか…」
俺がそう言うと、忘の表情が一気に曇った。そして、今度は黒っぽい、淀んだオーラのようなものが、彼女の身体からゆらりと立ち上り始めた! しかも、さっきの嬉しいオーラよりも明らかに濃くて、不穏な感じがする!
「うわっ! こ、これはまずい! 忘、ストップ! ストップ!」俺は慌てて叫ぶ。「無理しなくていい! すぐに楽しいことを考えるんだ! 推しアイドルの笑顔とか!」
「う、うん…!」忘は必死に首を振り、別のことを考えようとする。幸い、黒いオーラはそれ以上強くなることなく、ゆっくりと消えていった。
「…はぁ、はぁ…怖かった…」忘は息を切らしている。
「…すまん、忘。辛いこと思い出させちまって…」俺は反省する。この訓練、かなり精神的な負担が大きいようだ。やり方を考えないといけないかもしれない。
「ううん、大丈夫…。でも、やっぱり、悲しいとか怖いって気持ちの方が、力が漏れやすいみたい…」
「そうか…。じゃあ、そういう気持ちになった時に、どうやって心を落ち着かせるかが重要だな」
俺たちは、深呼吸の方法や、心を落ち着かせるためのイメージトレーニングなどを試してみた。効果があるかは分からないが、やらないよりはマシだろう。
訓練の合間には、他愛のない話もした。忘の好きな食べ物(甘いもの全般と、意外にもラーメンが好きらしい)、好きな色(やっぱり白や水色)、苦手なもの(人混みと、苦い野菜)。俺も、自分の好きなアイドル(もちろんレインボー☆セブン!)の話や、非モテ時代のトホホなエピソードなどを語った。忘は、俺の話を興味深そうに聞き、時折楽しそうに笑ってくれた。その笑顔を見るたびに、俺の信頼度(と頭皮へのダメージ)も、少しずつ変化しているような気がした。
そんな穏やかな時間が流れる中で、俺はふと、あの謎の力について考えていた。俺が触れることで、忘の力を打ち消し、さらには失われた記憶すら修復できる(かもしれない)力。
(あれは、一体なんなんだろうな…)
忘は「凡太さんの優しさ」だと言ってくれたが、それだけでは説明がつかない気がする。何か、もっと別の要因があるのではないか? 例えば、俺が事故に遭った時に、あの神(?)が何か特殊な力を与えたとか? あるいは、このヒロインレーダー自体が、俺を通して何かを発動させているとか?
(…いや、まさかとは思うけど…俺のこの…ハゲかけの頭に、何か秘密があるとか…?)
例えば、古来より聖なる力を持つ者は頭髪が薄くなる傾向にある…とか? いや、そんな話聞いたことないな。むしろ逆だろ普通。あるいは、俺の毛根一本一本が、実は強力な魔力吸収体になっていて、それが抜け落ちることで周囲の異常な力を中和している…とか?
(…だとしたら、俺が完全にツルツルになった時、最強の浄化能力者として覚醒する…!?)
…いやいやいや、ないないない! 完全に妄想の暴走だ! そんな都合のいい話があるわけない! …でも、もしそうだとしたら、俺のハゲは決して無駄じゃない…? いやいや、やっぱり嫌だ!
俺が一人で壮大な(そしてアホな)考察を繰り広げていると、忘が不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「凡太さん、また難しい顔してる」
「あ、いや、なんでもない! ちょっと、世界の真理について考えてただけだ!」
「ふーん?」
忘は納得していないようだが、それ以上は追及してこなかった。
訓練と雑談を終え、少し休憩することにした。俺はキッチンでお茶を淹れ、忘は窓辺に座ってぼんやりと外を眺めている。
「なあ、忘」俺はマグカップを渡しながら尋ねた。「これから先のことを、少し話さないか?」
「これから先のこと…?」
「ああ。俺たちは、他の『輝き』…つまり、忘と同じような特別な力を持つ子たちを探さないといけないんだろ? いつまでも札幌にいるわけにもいかない」
俺の言葉に、忘の表情が少しだけ硬くなった。
「…そうだね。分かってる」
「次の目的地だけど…レーダーはまだ何も示してないんだ。もしかしたら、忘の信頼度がもっと上がらないと、表示されないのかもしれない」
「私の…信頼度…」
「ああ。だから、もう少しだけ、ここで一緒に過ごしながら、信頼度を上げる…つまり、もっとお互いのことを知って、絆を深める必要があると思うんだ。もちろん、能力の訓練も続けながらな」
俺の提案に、忘は黙って頷いた。彼女も、まだ一人で次のステップに進むのは不安なのだろう。
「分かった。もう少しだけ…凡太さんと一緒に、ここにいさせてほしい」
「おう、もちろんだ!」
「それで…もし、次の子の情報が出たら…その時は、私も一緒に行ってもいいかな?」忘は、少し不安そうに、しかし強い意志を込めて尋ねてきた。
「え? 一緒に来るのか!?」俺は驚いた。てっきり、忘は札幌に残るものと思っていたからだ。
「うん。だって、これは私だけの問題じゃないんでしょ? 世界の危機とか…それに、私と同じように苦しんでいる子がいるなら、助けたい。凡太さんみたいに、私も誰かの力になりたいんだ」
忘の瞳には、確かな決意が宿っていた。彼女はもう、ただ守られるだけの存在ではない。自分の意志で、この過酷な運命に立ち向かおうとしているのだ。
その成長が、俺はたまらなく嬉しかった。
「…ああ、もちろんだ! 一緒に行こう! 忘がいてくれたら、俺も心強い!」
俺たちは、固い握手…ではなく、熱い視線を交わした(握手はまだ怖い)。
こうして、俺たちの札幌での「準備期間」は、もう少しだけ続くことになった。忘との絆を深め、能力対策を進め、そして、次なる旅立ちに備える。
問題は山積みだが、希望もある。そして何より、俺の隣には、かけがえのない仲間がいる。
(よし、やるぞ…!)
俺は熱いお茶をすすりながら、改めて気合を入れた。…同時に、鏡で自分の頭皮の状態をチェックすることも忘れなかった。…うん、まだ大丈夫…なはずだ! たぶん!
(第二十一話 了)
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