第二十話【悲報】レベルアップの代償は毛根前払い? 謎パワーの考察始めました
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雪まつり会場の一角で起こった、子供の記憶喪失と、それに続く奇跡的な記憶復活劇。その中心にいた俺、平凡太と白雪 忘は、しばらくの間、呆然とその場に立ち尽くしていた。
周囲のざわめきは徐々に収まり、泣きながらも母親にしっかりと抱きしめられているゆうき君の姿が、やけに現実味を帯びて目に映る。母親は、何度も何度も俺たちに頭を下げ、「ありがとうございました」と涙ながらに感謝の言葉を繰り返していた。もちろん、何が起こったのか正確には理解していないだろうが、息子が元に戻った(ように見えた)ことへの安堵と感謝でいっぱいなのだろう。
俺は「いえ、俺は何も…」と謙遜しつつも、内心では(俺の謎パワーのおかげだぜ…!)と、ちょっとだけドヤ顔になっていたかもしれない。いや、なってたな。うん。
やがて、親子は他の見物客たちの心配そうな視線から逃れるように、足早にその場を立ち去っていった。残されたのは、俺と忘、そして気まずいような、それでいてどこか特別な空気が漂う、静かな空間だけだった。
俺は改めて、忘に向き直った。彼女はまだ少し顔面蒼白だったが、その瞳には、さっきまでの絶望の色はもうなかった。代わりに、俺を見るその眼差しには、畏敬の念と、戸惑いと、そして…間違いなく、以前よりもずっと強い信頼の色が宿っていた。
「…凡太さん」忘が、震える声で口を開いた。「さっきのは…本当に、凡太さんの力なの…?」
「…正直、俺にもよく分からないんだ」俺は自分の手のひらを見つめながら答えた。「でも、俺がゆうき君に触れたら、記憶が戻ったように見えたのは確かだ」
「そんなことって…あるの?」
「さあな…。でも、君の力が俺に効かないのも事実だし、何か…俺には、君の力に関係する、特別な『何か』があるのかもしれない」俺は言葉を選びながら言った。「平凡耐性…だけじゃなくて、もしかしたら…浄化とか、修復とか…そういう方向の力も…」
自分で言っていて、あまりのトンデモ理論に少し恥ずかしくなる。まるで中二病患者の妄想みたいだ。だが、忘は真剣な表情で俺の言葉を聞いていた。
「凡太さんの…力…」彼女は、俺の手を、まるで何か神聖なものでも見るかのように見つめている。「だとしたら…すごいよ…。だって、それは…私の絶望を、希望に変えられる力かもしれないってことだもん…!」
彼女の声が、わずかに上ずる。その瞳が、キラキラと輝き始めた。さっきまでの涙とは違う、純粋な感動と期待に満ちた輝きだ。
その瞬間、俺のポケットの中で、ヒロインレーダーが立て続けに、ピコン! ピコン! と高らかな電子音を鳴らした!
慌てて取り出して確認すると、表示されている文字に、俺は目を疑った。
「信頼度:Lv.5」!!
「ご、ごご、Lv.5!?」思わず声が裏返る。さっきまでLv.3だったはずだ! 一気に2レベルもアップしただと!?
(マジかよ! あの記憶復活劇、そんなに効果絶大だったのか!?)
これはデカい! 信頼度MAXのLv.7まで、あと2レベル! ゴールがぐっと近づいてきたじゃないか!
(ということは…! ついに、俺の頭皮にも希望の光が…!?)
期待に胸を膨らませ、俺はこっそりと、しかし迅速に、スマホのインカメラを起動! 自分の頭頂部を画面に映し出す!
頼む! 増えててくれ! せめて現状維持! なんなら減っててもいいから、これ以上後退しないでくれ!
画面に映し出された、俺の頭頂部。そこに広がる光景は…。
…………。
(…………あれ?)
(……なんか…気のせいか…?)
(…いや、気のせいじゃない!! 明らかに…明らかに、昨日よりも地肌の露出面積が増えている気がする!!! しかも、なんか頭頂部全体が薄くなってないか!?)
ズガァァァァァン!!!
俺の脳内に、衝撃と共に絶望の鐘が鳴り響いた。
嘘だろ!? なんでだよ!? 信頼度、2レベルも上がったんだぞ!? なんで毛髪は逆に減ってるんだよ!? レベルアップの代償が前払い式だとでもいうのか!? それとも、あの謎パワーの発動コストが、俺の毛根だったとでも!? ふざけるな! そんなのあんまりだ!
「…凡太さん?」俺の異様な様子に気づいたのか、忘が心配そうに声をかけてきた。「どうかしたの? また頭が…?」
「いやああああああああああ!!!!!!!!!」
俺は思わず、札幌の空に向かって絶叫していた。周囲の人が何事かとこちらを見ているが、もうどうでもいい! 俺の毛根が! 俺の未来が!
「だ、大丈夫!? 凡太さん、しっかりして!」忘が慌てて俺の腕を掴む。
ハッ! いかん! 忘に触れてる! いや、でも、俺には力が効かないんだった! …たぶん!
俺は深呼吸を繰り返し、なんとか平静を取り戻そうと努めた。
「…す、すまん、忘。なんでもないんだ。ちょっと…嬉しすぎて、つい…な」苦しすぎる言い訳だ。
「嬉しすぎて…?」忘はきょとんとしている。
「ああ! 信頼度がLv.5まで上がったのが嬉しくてな! これで、ゴールにまた一歩近づいた!」俺は無理やり笑顔を作る。
「…そっか。うん、そうだね!」忘も、俺の(嘘くさい)説明に納得してくれたのか、嬉しそうに微笑んだ。「これも、凡太さんの力のおかげだよ」
「いやいや、忘が心を開いてくれたからだ。それにしても…」俺は改めて、自分の手のひらを見つめた。「この力、一体なんなんだろうな…」
あの神(?)は、俺にヒロインレーダーを渡しただけで、こんな能力があるなんて一言も説明していなかった。もしかして、アイツ自身も知らなかったのか? それとも、意図的に隠していた?
あるいは、この力は、俺自身の中に元々あったものなのだろうか? 非モテで平凡な俺の中に、こんな特殊な力が眠っていたなんて、にわかには信じがたいが…。
「…平凡太さん」忘が、何かを思いついたように言った。「もしかして、その力って…あなたの『優しさ』と関係があるんじゃないかな?」
「優しさ…?」
「うん。だって、凡太さん、すごく優しいもん。私のこと、全然知らないのに、あんなに心配してくれて、助けようとしてくれて…。そういう、強い想いみたいなものが、力になってるんじゃないかなって…」
忘は、少し照れたように、しかし真剣な眼差しで俺に言った。
(俺の…優しさ…?)
そんなものが、特別な力になるのだろうか? 自分では、ただのお人好しで、流されやすいだけだと思っていたが…。
でも、もしそうだとしたら。俺が誰かのために本気で悩み、苦しみ、そして助けたいと強く願うこと。それが、忘の力を打ち消し、さらには記憶を修復する力に繋がっているのだとしたら…。
(…だとしたら、俺のこの『平凡さ』も、あながち無駄じゃなかったのかもしれないな…)
そして、同時に気づく。誰かのために本気で悩み、苦しむこと。それは、俺の頭皮にとって、最大級の負荷をかける行為でもあるということに…!
(…やっぱり、俺の毛根、犠牲になる運命なのか…!?)
希望と絶望が、ジェットコースターのように俺の心を駆け巡る。
「…まあ、理由はどうあれ、この力が使えるなら、大きな武器になるのは確かだ」俺は気を取り直して言った。「これから、他の『輝き』を探す上でも、きっと役に立つはずだ」
「うん!」忘も力強く頷いた。「私も、もっと凡太さんの力になりたい。私の能力のことも、もっと詳しく調べて、何かコントロールする方法が見つかれば…」
「ああ、そうだな。二人で協力して、この謎だらけの状況を乗り越えていこう!」
俺たちは、改めて互いの目を見て、固い決意を共有した。
事件はあったが、結果的に大きな進展があった。忘との信頼度はLv.5に到達し、俺の謎パワー(仮称:平凡ヒーローパワー? ハゲヒーローパワー?)の可能性も示唆された。
問題は山積みだが、確かな希望も見えてきた。
俺は、ポケットの中のレーダーを握りしめ、次なるステップへと意識を向けた。
(まずは、この札幌で、忘の能力について、もう少しだけ調査と対策を練ろう。それが終わったら、いよいよ次の『輝き』を探す旅に出る!)
俺の、日本縦断ハーゲム(&ハゲ進行)ツアーは、まだ始まったばかりだ!
(第二十話 了)
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