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第二話【悲報】なけなしの貯金、北の大地へ消える

♦️この力作でアニメ化を目指します♦️

あの忌まわしき電柱との激突から一夜が明けた。

俺、平凡太は、いまだズキズキと痛む頭を押さえながら、安アパートの万年床から這い出した。昨日の出来事は、果たして夢だったのだろうか? あの妙にリアルな事故の衝撃、そして何より、頭の中に響いたあのふざけた神(?)の声…。


「……夢、だよな? さすがに…」


そうであってほしい、と切に願う。しかし、そんな俺の淡い期待を打ち砕くように、机の上に置かれたソイツは、無機質な存在感を放っていた。


黒い金属製のカード。中央には水晶のような球体が埋め込まれている。昨夜、俺が拾った謎の物体だ。


「……やっぱり、現実かよ…」


思わず深いため息が漏れる。あの神(?)の声が言っていたことが本当なら、俺は一年以内に日本全国に散らばる七人の特別な少女を探し出し、彼女たちの信頼を得なければならない。さもなければ、この世界から「美女」という概念が消え、俺の愛するアイドルも、画面の中の二次元嫁も、みーんな100キロオーバーの肉塊になってしまう…と。そして、その代償は俺の毛根。ふざけんな。


「いや、でも…もし本当だったら…?」


美女のいない世界なんて、想像しただけでゾッとする。推しのいない人生なんて、砂漠で水を求めるようなものだ。それに、もしこのミッションをクリアすれば、「褒美」があるとも言っていた。もしかしたら、それは俺が長年夢見てきた「ハーレム」…!?


「……やるしか、ないのか…?」


ごくり、と喉が鳴る。疑念と恐怖、そしてほんの少しの下心がない交ぜになった感情が胸の中で渦巻く。正直、全く信じられない。だが、昨夜感じた世界の微妙な違和感…あれも気のせいではなかったのかもしれない。


腹を括るしかないようだ。俺は意を決して、あの黒いカードを手に取った。


「で、これ、どうやって使うんだ…?」


カードを振ってみたり、光にかざしてみたり、念じてみたりするが、何の反応もない。ただの綺麗な文鎮のようだ。しかし、昨夜は確かに光ったはずだ。何か特定の条件があるのだろうか?


『…七つの輝きを探し出すのだ…』


あの声はそう言っていた。探す、ということは、これがそのための道具…つまり、レーダー的な役割を果たすのではないか? 7つボール集めるアニメで言えば、あの便利なレーダーのような。


「七つの輝き…どこにあるんだ…?」


俺はカードに意識を集中させ、強く念じてみた。「最初の輝きはどこだ?」と。

すると、カードの中央の水晶体が、再びぼんやりと光り始めた!


「おおっ!?」


光は徐々に強まり、やがてカードの表面に、淡い光の粒子で描かれた地図のようなものが浮かび上がった。それは紛れもなく、日本列島の形をしていた。そして、その地図の上、北海道とおぼしき場所に、ひときわ強く輝く光点が一つ、チカチカと点滅しているではないか!


「北海道…!? しかも、これ、地名も出てるぞ…『札幌』?」


マジかよ…。最初の目的地、いきなり北の大地か! しかも札幌って、今の時期は…確か、めちゃくちゃ寒いんじゃなかったか? 東京だって朝晩は冷え込むのに、北海道なんて行ったら凍え死んでしまうかもしれない。


「金…どうしよう…」


最大の問題はそこだ。しがないフリーターの俺に、北海道までの旅費なんてあるわけがない。なけなしの貯金は、いつかハーレム号(中古ワゴン)のローン返済や、推しへの投げ銭のためにコツコツ貯めてきた虎の子だ。それを、こんな突拍子もないミッションのために使うなんて…。


だが、選択肢はない。美女消滅か、破産覚悟の旅か。そして、俺の残り少ない(かもしれない)髪の毛か。…どう考えても、旅に出るしかない。


俺は通帳とにらめっこし、ネットで交通手段を必死に検索した。飛行機? いや、LCCでも今の時期はそこそこ高い。新幹線? 論外だ。となると、やはり俺の愛車、ハーレム号(7人乗り中古ワゴン)の出番か?


東京から札幌まで、車でどれくらいかかるんだ? 高速代、ガソリン代、そして本州と北海道を繋ぐフェリー代…。計算してみると、眩暈がするような金額になった。貯金のほとんどが吹き飛んでしまう計算だ。


「うぐぐ…俺のハーレム資金が…」


血の涙を流しながらも、俺は決断した。ハーレム号で、北の大地を目指す、と。ロードムービーの始まりだぜ…(白目)。


最低限の着替え(防寒具は古びたダウンジャケットくらいしかない)、なけなしの現金とクレジットカード、そしてあの黒いカード(ヒロインレーダーと命名しよう)。それらをボストンバッグに詰め込み、最後に、部屋の隅で静かにその時を待っていた相棒を手に取った。


少し古いが、まだまだ現役の一眼レフカメラ。レンズには安物だが単焦点の明るいものがついている。これは、俺が推しアイドル『レインボー☆セブン』の一瞬の輝きを捉えるため、バイト代をつぎ込み、独学で使い方をマスターし、ライブやイベント会場で磨き続けてきた、いわば俺の分身のような存在だ。正直、この旅に持っていくか迷ったが、何か…何かを記録しなければならないような、そんな予感がしたんだ。それに、もし…万が一、本当に美少女たちと出会えるなら、その姿を最高の形で残しておきたいじゃないか!(下心)


全ての荷物をカバンに詰め込み、俺はアパートを出た。駐車場で埃をかぶっていたハーレム号に乗り込み、エンジンをかける。ブルルン、と頼りない音を立てて、エンジンがかかった。助手席には、大切にカメラバッグを置く。こいつとハーレム号で本当に札幌まで行けるのか、一抹の不安がよぎる。


かくして、俺、平凡太の、前代未聞、波乱万丈、そしておそらくはハゲ散らかすであろう日本縦断の旅が、こうして始まったのだった。



高速道路をひた走り、青森からフェリーに乗る。何時間かかっただろうか。車中泊と安いビジネスホテルを繰り返し、心身ともに疲弊しきった頃、俺はようやく目的地の北海道・札幌市にたどり着いた。


フェリーを降りて車を走らせると、そこはまさに別世界だった。一面の銀世界。気温は氷点下。東京の冬とは比較にならない、肌を刺すような冷気が容赦なく襲いかかってくる。


「さ、さむい…! マジで凍える…!」


古びたダウンジャケットでは、この極寒には到底太刀打ちできない。歯の根が合わないほどガチガチと震えながら、俺はヒロインレーダーを取り出した。


「で、えっと…『輝き』はどこなんだ?」


レーダーに意識を集中させると、再び光の地図が浮かび上がる。札幌市内の地図が表示され、その中心部にある一点が、強く点滅していた。場所は…「大通公園」?


「大通公園…ってことは、もしかして…」


今の時期、札幌の大通公園で開催されているものといえば、アレしかない。


そう、『さっぽろ雪まつり』だ!


俺はハーレム号をコインパーキングに停め、凍える身体を引きずるようにして、雪まつり会場へと向かった。会場は、国内外からの観光客でごった返していた。巨大な雪像や、精巧な氷の彫刻が立ち並び、そのスケールと美しさに圧倒される。寒いけど、これは確かにすごい。


「うわー…綺麗だな…」


しばし寒さを忘れ、雪と氷のアートに見入ってしまう。だが、俺は観光に来たわけじゃない。目的は、「七つの輝き」の一つを見つけ出すことだ。


俺は再びヒロインレーダーを確認する。光の点は、この雪まつり会場のどこか、特定のエリアを指し示しているようだ。人混みをかき分け、レーダーが示す方向へと進んでいく。


レーダーの光点が、徐々に点滅の速度を速めていく。近い! この近くにいるはずだ!


そして、ついにレーダーの光は一点で激しく明滅し始めた。まるで「ここだ!」と主張するように。

俺は息を呑み、レーダーが示す先を見た。


そこには、人混みから少し離れた場所に、一人ぽつんと佇む少女の姿があった。


透き通るような白い肌。雪の精霊がそのまま人の形をとったかのような、儚げで、どこかこの世のものとは思えない美しさ。色素の薄い、銀色にも見える長い髪が、冷たい風に静かに揺れている。着ているのは、真っ白なダッフルコート。その姿は、まるで雪景色に溶け込んでしまいそうだ。


挿絵(By みてみん)


彼女はただ、静かに、巨大な雪像を見上げていた。その横顔はどこか寂しげで、周囲の喧騒とは明らかに異質な空気を放っている。


間違いない。彼女が、俺が探していた「七つの輝き」の最初のひとり――。


ヒロインレーダーは、彼女を指して激しく光り続けている。

俺はゴクリと唾を飲み込んだ。いよいよ、ミッションの始まりだ。


だが、どうやって話しかける? いきなり「君、特別な力持ってるでしょ?」なんて言ったら、100%不審者扱いだ。下手したら警察を呼ばれるかもしれない。しかも、彼女のあの雰囲気…まるで触れたら壊れてしまいそうなガラス細工のようだ。迂闊に近づくことすら躊躇われる。


どうする、俺…!? 最初の接触で失敗したら、全てが終わってしまうかもしれない…!


俺が逡巡している、まさにその時だった。

一人の観光客らしき男性が、写真を撮ろうとしてバランスを崩し、その少女にぶつかりそうになった。


「おっと、危ない!」


少女は咄嗟に身をかわしたが、男性の手が、ほんの一瞬、彼女のコートの袖に触れた。


その瞬間、奇妙なことが起こった。


男性は、一瞬きょとんとした顔になり、まるで自分が今何をしようとしていたのか忘れてしまったかのように、数秒間、その場で固まってしまったのだ。そして、何事もなかったかのように、再びキョロキョロと辺りを見回し始めた。


「……あれ?」


俺は自分の目を疑った。今の、一体…?


少女は、男性の奇妙な様子には気づいているのかいないのか、ただ静かに俯き、少しだけ眉をひそめたように見えた。そして、まるでその場から逃げるように、ゆっくりと歩き出した。


俺は確信した。間違いない、彼女は「何か」を持っている。そして、それはおそらく、彼女自身も望まぬ力なのだろう。


追いかけなければ! ここで見失うわけにはいかない!

俺は意を決し、凍える空気の中、白いコートの少女の後を追って、一歩を踏み出した。


(第二話 了)

♦️基本20時投稿!コンスタントに週3話以上投稿

✅️是非ブクマお願いします

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