第十九話【悲報】ヒーロー登場(ただしハゲかけ)!触れただけで記憶が戻るチート能力覚醒?
♦️この力作でアニメ化を目指します♦️
第十九話【悲報】ヒーロー登場!触れただけで記憶が戻るチート能力覚醒?
ドンッ!という鈍い衝突音と、それに続く甲高い子供の泣き声が、さっぽろ雪まつり会場の穏やかな午後の空気を引き裂いた。俺、平凡太は、目の前で起こった出来事に一瞬、思考が停止する。
忘に激突し、雪の上に転がって大声で泣き叫ぶ小さな男の子。血相を変えて駆け寄る母親。そして、その光景を、血の気が引いた真っ青な顔で、ただ呆然と見つめる忘…。
(やばい…! やばいやばいやばい!)
俺の脳内で、けたたましく警報が鳴り響く。これは、カフェでの実験で危惧していた状況よりも、はるかに深刻な事態だ。忘は子供と直接、かなりの勢いで接触してしまった。しかも、子供は顔を打って激しく泣いている。忘の動揺は計り知れない。感情の高ぶりがトリガーになる彼女の力が、今、まさに暴走しようとしている…!
「ゆうき! 大丈夫!? どこか痛いの!? しっかりして!」母親は必死に男の子に呼びかけるが、男の子はただ「うわーん!」と泣き叫ぶばかりだ。
「お姉ちゃん、本当にごめんなさい! うちの子がよそ見してて…! 怪我はない!? 大丈夫!?」母親は、パニックになりながらも、忘の心配をしてくれる。なんていい人なんだ。だが、今はその優しさが、逆に忘を追い詰めているように見えた。
忘は、母親の言葉に反応できない。ただ、わなわなと唇を震わせ、泣き叫ぶ男の子と、心配そうに自分を見る母親を交互に見つめている。その瞳には、深い恐怖と、そして自分を責めるような、強い罪悪感の色が浮かんでいた。
「わ、わたしの…せいで…」か細い声が、忘の唇から漏れた。
「え? 何か言った?」母親は聞き取れなかったようだ。
「ご、ごめんなさい! わたしのせいで、この子が…! わたしが、ここにいたから…!」忘は、明らかに動揺し、取り乱していた。普段、感情を押し殺している彼女が、これほど感情を露わにするのは初めて見る。それだけ、今の状況が彼女にとってショックなのだろう。
「いやいや、お姉ちゃんのせいじゃないわよ! うちの子が悪いのよ! 本当にごめんなさいね!」母親は重ねて謝る。
だが、その優しい言葉も、今の忘には届いていないようだった。彼女の意識は、自分が引き起こしてしまった(と思い込んでいる)事態と、これから起こるかもしれない更なる悲劇への恐怖に支配されている。
(まずい…! 忘の感情が限界だ…!)
俺は、忘の身体から、再びあの淡い白いオーラが立ち上り始めているのを、確かに感じ取った。それは、カフェでの実験の時よりも、明らかに濃く、そして不安定に揺らめいている。
俺は咄嗟に、忘の肩に手を置こうとした。彼女を落ち着かせなければ! 俺が触れれば、力が弱まるはずだ!
だが、俺の手が触れるよりも早く、忘は母親に向かって深々と頭を下げた。
「本当に…本当に、ごめんなさい…!」
その瞬間、忘の身体から放たれるオーラが、一際強く輝いた!
そして、信じられないことが起こった。
さっきまで泣き叫んでいた男の子――ゆうき君が、ぴたり、と泣き止んだのだ。
それだけではない。彼は、きょとんとした顔で、自分を抱きしめている母親を見上げた。そして、まるで初めて見る他人を見るかのような、怯えたような表情を浮かべた。
「……だれ…?」
「え…?」母親は、息子の言葉に凍りついた。「ゆうき…? ママのこと、分からないの…?」
「ママ…?」ゆうき君は、さらに怯えたように母親の腕の中から逃れようともがく。「いやだ! このおばさん、だれ!? ママじゃない!」
「ゆうき!?」母親は悲鳴のような声を上げた。「どうしちゃったの!? ママよ! あなたのママでしょう!?」
だが、ゆうき君は母親の言葉を完全に拒絶し、さらに激しく泣き始めた。「いやあああ! ママじゃない! こわい! ママー!!」
周囲にいた他の観光客たちも、何事かと遠巻きにこちらを見ている。母親は完全にパニックになり、泣きながら息子をなだめようとしているが、息子は母親を「知らない人」だと認識してしまっている。地獄のような光景だ。
忘は、その光景を目の当たりにして、ついに膝から崩れ落ちた。
「ああ…あ…やっぱり…わたしの…せいだ…」
彼女の顔は絶望に染まり、瞳からは大粒の涙が止めどなく溢れ出ている。自分の力が、幼い子供から母親の記憶を奪ってしまった。その事実に、彼女の心は完全に打ち砕かれてしまったようだった。
(くそっ…! なんてことだ…!)
俺は唇を噛み締めた。これが、忘が恐れていた最悪の事態。彼女の力が、最も残酷な形で現実になってしまった。
だが、ここで俺まで絶望しているわけにはいかない! 俺がしっかりしなければ!
(そうだ…俺には、忘の力を打ち消す(かもしれない)力がある…!)
カフェでの実験を思い出す。俺が触れれば、力が弱まる。あるいは、消えるかもしれない。だとしたら…!
俺は意を決して、泣き叫ぶゆうき君に近づいた。母親は、突然現れた俺に驚き、警戒するような視線を向ける。
「あ、あの! すみません! 俺、この子の友達で…!」咄嗟に、意味不明な嘘をついてしまった。
「え? 友達…?」母親は怪訝そうな顔をしている。だが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
俺は、母親に軽く断りを入れてから、しゃがみ込み、ゆうき君の目線に合わせて、できるだけ優しい声で話しかけた。
「ゆうき君、だよね? 大丈夫だよ、怖くないよ」
ゆうき君は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、俺を怯えたように見ている。
俺は、ゆっくりと、自分の手をゆうき君の小さな肩に、そっと置いた。
(頼む…! 俺の力(平凡耐性? ハゲパワー?)よ、発動してくれ…!)
心の中で強く念じる。温かい、何か優しいエネルギーのようなものが、俺の手のひらからゆうき君に伝わっていくような、そんな感覚があった(完全に気のせいかもしれないが)。
数秒間、俺はそのままゆうき君の肩に手を置いていた。
すると、ゆうき君の激しい嗚咽が、少しずつ小さくなっていった。そして、彼は、さっきまで「知らないおばさん」だと怯えていた母親の方を、ゆっくりと見上げた。
その瞳に、徐々に認識の光が戻ってくるのが分かった。
「……あ…?」
ゆうき君は、母親の顔をじっと見つめ、そして、まるで長い夢から覚めたかのように、ぽつりと呟いた。
「……ママ…?」
「ゆうき…!」母親は、息子の言葉に、堰を切ったように泣き崩れた。「よかった…! 思い出してくれたのね…!」
母親は、ゆうき君を強く、強く抱きしめた。ゆうき君も、今度は怯えることなく、母親の胸に顔をうずめ、しゃくりあげながらも、確かに「ママ」と呼んでいる。
(…戻った…!)
俺は、安堵感で全身の力が抜けそうになるのを感じた。よかった…! 本当によかった…!
周囲で遠巻きに見ていた人々も、何が起こったのかは分からないながらも、親子が無事だったことに安堵したような空気が流れる。
俺は、そっと立ち上がり、涙ながらに抱き合う親子から少し距離を取った。
(しかし…なんだ? 今のは…?)
俺が触れただけで、ゆうき君の記憶が戻った。これは、単なる偶然か? それとも、本当に俺には、忘の力を打ち消すだけでなく、「修復」するような力があるのだろうか?
だとしたら、それは一体なんなんだ? あの神(?)は、そんなこと一言も言っていなかったぞ? (まあ、アイツの言うことは基本あてにならないが)
俺が一人で混乱していると、崩れ落ちたままだった忘が、信じられないものを見るような目で、俺を見上げていた。その瞳には、驚きと、戸惑いと、そして…ほんの少しの、希望のような光が宿っていた。
「…凡太さん…今のは…?」
「…俺にも、よく分からないんだ」俺は正直に答えた。「でも…結果的に、ゆうき君の記憶は戻ったみたいだ」
忘は、俺の手と、抱き合って泣いている親子を、交互に見つめていた。そして、何かを確信したかのように、ゆっくりと立ち上がった。
「…すごいよ、凡太さん…。あなた、やっぱり…特別なんだね」
その言葉は、これまでのどんな言葉よりも、強く、深く、俺の心に響いた。
(特別…? 俺が…?)
非モテで、平凡で、ハゲかけ(疑惑)の俺が? 信じられなかった。だが、目の前で起こった事実は、それを証明しているのかもしれない。
俺は、自分の手のひらを見つめた。この手に、本当にそんな力が宿っているのだろうか?
(…もし、そうだとしたら…)
俺は、忘の「普通になりたい」という願いを、本当に叶えてあげられるかもしれない。
いや、叶えなければならない。
俺は、改めて強く決意した。この力(仮)が何なのかは分からない。でも、これを使えば、きっと道は開けるはずだ。
…ただし、この奇跡の代償として、俺の頭頂部からさらに数十本の毛髪が犠牲になったような気がすることは、今は考えないでおこう…。ヒーローだって、代償はつきものだ…うん…
(第十九話 了)
♦️基本20時投稿!コンスタントに週3話以上投稿
✅️是非ブクマお願いします




