第十八話【悲報】聖地にしたいレベルで雪まつり満喫したらフラグ立った
♦️この力作でアニメ化を目指します♦️
カフェ「ポラリス」を出た俺、平凡太の足取りは、正直少しだけ覚束なかった。いや、別に酔っているわけじゃない。さっきのパフェ味見イベント…特に忘からの「あーん(は、しないけど)」攻撃のダメージが、ボディブローのようにじわじわと効いているのだ。心臓はまだ少しバクバクしているし、頭皮は…考えないようにしよう。今はただ、この幸福な余韻に浸っていたい。
「凡太さん、大丈夫? 顔、ちょっと赤いよ?」隣を歩く忘が、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「え? あ、ああ、大丈夫だ! ちょっとカフェの中が暖かかったからな!」俺は慌てて誤魔化す。まさか、君との間接キス(未遂含む)で興奮して毛が抜けたなんて言えるわけがない。
「そっか。でも、無理しないでね」忘は優しい言葉をかけてくれる。ああ、もう、そういう優しさがまた俺の心臓(と毛根)に悪いんだって!
俺たちは、再びさっぽろ雪まつりの会場へと向かった。今度こそ、純粋にこの冬の祭典を楽しむために。そして、俺にはもう一つ、密かな目的があった。それは、忘の最高の笑顔を、この目に、そして俺の愛機(一眼レフカメラ)に焼き付けることだ! もしかしたら、将来的にこれが俺たちの活動資金に…いやいや、まだ早い、まだ早いぞ俺。下心は抑えろ。
会場に足を踏み入れると、午後の日差しを受けて、巨大な雪像たちが白く輝いていた。平日の昼下がりとはいえ、やはり観光客の姿は多い。だが、カフェでの一件で少し自信がついたのか、忘も以前ほど周りを警戒している様子はない。俺が半歩前を歩き、さりげなく人の流れをコントロールしているのもあるだろうが、それ以上に、彼女自身が少しずつ外の世界に慣れようとしているのかもしれない。
「うわー! やっぱりすごいね!」忘は、メイン会場にそびえ立つ巨大な城の雪像を見上げて、感嘆の声を上げた。そのスケールと精巧さは、何度見ても圧倒される。まるで、本物のお城が雪で再現されたかのようだ。
「だよなー! これ、作るのにどれくらいかかるんだろうな?」俺も隣で見上げる。
「ニュースで見たけど、自衛隊の人たちが協力して、何週間もかけて作るんだって」
「へえー! 自衛隊! それはすごいな!」
俺たちは、まるで普通の観光客のように、雪像の前で感心したり、説明書きを読んだりした。俺はすかさずカメラを取り出し、雪像の迫力と、それを見上げる忘の横顔を写真に収める。うん、いい感じだ。
「あっちには、アニメのキャラクターの雪像もあるみたいだよ!」忘がパンフレットを指差しながら言う。
「おお、マジか! どれどれ…って、これ、俺が好きなやつじゃん!」
俺たちは、子供たちに人気のキャラクター雪像が並ぶエリアへと移動した。そこには、最新のアニメから往年の名作まで、様々なキャラクターたちが雪で見事に再現されていた。
「見て見て、凡太さん! あの猫型ロボット、そっくり!」
「ほんとだ! よくできてるなー! あ、こっちには魔法少女もいるぞ!」
忘は、知っているキャラクターを見つけるたびに、嬉しそうに指を差す。その無邪気な姿は、俺が知っているどのアイドルよりも輝いて見えた。俺は夢中でシャッターを切る。彼女の自然な笑顔、驚いた顔、楽しそうな横顔…その全てが、俺にとっては宝物だ。
(やばい…忘、可愛すぎる…! これは、間違いなく売れる…! いや、だから下心は…!)
俺の脳内では、天使(純粋な保護者目線)と悪魔(敏腕プロデューサー目線)が再び激しい議論を戦わせている。その間にも、俺の指は勝手にシャッターを切り続け、SDカードの容量は着実に減っていく。そして、俺の頭髪も…減っていなければいいのだが…。
キャラクター雪像エリアを抜けると、今度は市民が制作した個性的な雪像が並ぶ広場に出た。世相を反映したユニークなものや、クスッと笑えるようなシュールなものまで、多種多様な作品が並んでいる。
「あ、これ見て! パンダがラーメン食べてる!」
「こっちは…なんだ? 大仏がスマホいじってるぞ…?」
俺たちは、一つ一つの作品にツッコミを入れたり、感心したりしながら見て回った。忘も、最初は遠慮がちだったが、次第に俺と一緒に笑いながら、リラックスして楽しんでいるようだった。
「なんか、こういうの見てると、心が和むね」忘がぽつりと言った。
「ああ、そうだな。みんな、楽しんで作ってるのが伝わってくるよな」
彼女がこんな風に、穏やかに笑っていられる時間。それを守るためなら、俺はなんだってできる気がした。
さらに歩を進めると、氷の彫刻が展示されているエリアにたどり着った。透き通った氷で作られた芸術作品は、太陽の光を受けて七色に輝き、まさに幻想的という言葉がふさわしい美しさだった。龍や鳳凰、繊細な花々、抽象的なオブジェ…。どれも、人間の手で作られたとは思えないほどの精巧さだ。
「うわぁ…綺麗…!」忘は、感嘆のため息を漏らしながら、氷の彫刻に見入っている。その瞳は、まるで宝石のようにキラキラと輝いていた。
俺は、そんな彼女の姿を、ファインダー越しに見つめていた。逆光に照らされた彼女の横顔は、氷の彫刻にも負けないくらい、透明で、儚げで、そして息を呑むほど美しかった。
(…忘)
思わずシャッターを切る。カシャ。
最高の瞬間を捉えられた気がした。これは、間違いなく今回のベストショットだ。デジタルフォトブックの表紙はこれに決まりだな…って、また考えてるし!
俺たちが氷の彫刻に見とれていると、近くで「きゃー!」という歓声が上がった。見ると、雪で作られた小さな滑り台で、子供たちが順番に滑って遊んでいる。楽しそうな子供たちのはしゃぎ声が、会場に響き渡る。
「楽しそうだね」忘が微笑みながら言う。
「ああ。平和だなー」俺も頷く。
(こんな時間が、ずっと続けばいいのに…)
そう思った瞬間、なぜか胸騒ぎがした。いや、これはフラグか? ラブコメのお約束的に、こういう幸せな時間の後に、何かトラブルが起こるやつでは…?
まさか、な。今日はもう、何も起こらないだろう。俺のガードも完璧だし、忘もリラックスしている。大丈夫、大丈夫だ。
俺がそんな風に、自分に言い聞かせて油断した、まさにその時だった。
「きゃあああああっ!!」
滑り台の方から、さっきよりもずっと甲高い、悲鳴に近い子供の叫び声が上がった!
見ると、滑り台のゴール地点で、小さな男の子が勢い余って転倒し、そのまま雪の上をコントロールを失って滑って…**一直線に、忘に向かって突っ込んでくるのが見えた!**
まずい! 回避不能!
俺は咄嗟に忘を庇おうと体を動かした。だが、間に合わない!
**ドンッ!!!**
鈍い音と共に、男の子はかなりの勢いで、忘の足元に真正面から激突した!
忘は「きゃっ!」と小さな悲鳴を上げ、よろめく。
男の子は、ぶつかった衝撃で雪の上に投げ出され、顔を強く打ったのか、火がついたように大声で泣き始めた。
「うわあああああん!! 痛いよおおおお!!!」
すぐに、近くにいた母親らしき女性が血相を変えて駆け寄ってきた。
「ゆうき! 大丈夫!? ごめんなさいね、お姉ちゃん! うちの子が!」
母親は泣きじゃくる男の子を抱き上げながら、忘に必死に謝る。
だが、忘は、母親の言葉に答えることもできず、ただ呆然と、泣き叫ぶ男の子を見つめていた。その顔は真っ青で、瞳には、さっきまでの楽しそうな光は完全に消え、深い絶望と恐怖の色が浮かんでいた。カフェでの穏やかな時間は、一瞬にして打ち砕かれた。
(やばい…! フラグ、回収しやがった…!! これは、まずいぞ…!!)
俺の背筋に、極寒の札幌の空気よりも冷たい汗が、だらだらと流れた。
忘の力が、暴走する…!?
(第十八話 了)
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