第十七話【悲報】間接キスで毛根消滅!? スイーツより甘い罠だった
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カフェ「ポラリス」での能力検証実験は、いくつかの重要な発見と、新たな謎を残して幕を閉じた。忘の能力が時間経過で減衰すること、そして何より、俺、平凡太が触れることでその影響を(ほぼ)無効化できる可能性があること。これは、今後の彼女との関わり方において、とてつもなく大きな希望の光だった。まあ、その理由が俺の平凡さなのか、ハゲフィールド(仮)なのかは不明だが、今は結果オーライだ。
実験を終えた俺たちは、店長さんにお礼を言い、改めて席に着いた。緊張から解放されたせいか、どっと疲れが押し寄せてくる。同時に、腹も減ってきた。
「いやー、なんか頭使ったら腹減ったなー」俺は正直な感想を漏らす。
「ふふ、私も」忘も、緊張が解けたのか、柔らかい笑顔を見せている。「この前のチーズケーキ、すごく美味しかったから、他のも食べてみたいな」
「おお、いいな! 俺も何か頼もうかな」
俺たちは再びメニューを開き、今度はデザートを注文することにした。俺は、店長さんおすすめの自家製コーヒーゼリーパフェ。忘は、悩んだ末に、季節限定のいちごパフェを選んだ。なんだかんだで、普通の男女がカフェで過ごすような、穏やかな時間が流れている。これが、忘がずっと望んでいた「普通」に近い時間なのかもしれない。
運ばれてきたパフェは、見た目も華やかで、めちゃくちゃ美味しそうだった。俺のコーヒーゼリーパフェは、グラスの中で美しい層を描き、ほろ苦い大人な香りを漂わせている。忘のいちごパフェは、これでもかと新鮮ないちごが盛り付けられ、ピンクと白のコントラストが乙女心をくすぐる(俺の心もくすぐられた)。
「わぁ…! すごい! どっちも美味しそう!」忘は目をキラキラさせて、二つのパフェを交互に見ている。さっきまでの実験の緊張感はどこへやら、すっかりスイーツを楽しむ女の子の顔だ。こういう表情、たまらないな…。
俺たちは「いただきます」と声を合わせ、それぞれのパフェにスプーンを入れた。俺のコーヒーゼリーパフェ、うん、美味い! ゼリーのほろ苦さと、クリームの甘さ、アイスの冷たさが絶妙なバランスだ。これは大人向けの味だな。
一方、忘もいちごパフェを一口食べ、至福といった表情で目を細めた。「んー! おいしい…! このいちご、すごく甘い!」
その幸せそうな顔を見ているだけで、俺まで嬉しくなってくる。連れてきてよかった、と心から思った。
(ああ…平和だ…こんな穏やかな時間がずっと続けばいいのに…)
俺がそんな風に、束の間の幸福感に浸っていた、その時だった。
忘が、何の悪気もなさそうな、純粋な好奇心に満ちた瞳で、俺のパフェをじっと見つめてきた。
「ねえ、凡太さん」
「ん? どうかしたか?」
「凡太さんのパフェも、すごく美味しそうだね! コーヒーゼリー、私、好きなんだ。ね、ちょっとだけ、味見させてくれない?」
「え? あ、ああ、いいぞ。どうぞどうぞ」
俺は特に何も考えず、快く頷いた。味見くらい、どうってことない。むしろ、彼女が俺に興味を持ってくれている証拠だ。嬉しいじゃないか。
「ありがとう!」
忘は嬉しそうに言うと、ためらうことなく、自分のスプーンで、俺のパフェの、まさに俺が今さっき食べたばかりの部分を、すくっと掬い取ったのだ!
そして、そのスプーンを、何の躊躇もなく、自分の小さな口へと運んだ…!
「ん! おいしい! ちょっと大人な味だね!」
忘は無邪気に感想を述べているが、俺の思考は完全に停止した。
(…………え?)
(い、今…? 今、何が起こった…?)
(忘が…俺のパフェを…俺が使ったスプーンで…いや、違う、俺が食べた部分を、彼女のスプーンで…?)
(どっちにしろ、これって…いわゆる…)
(か、間接キッスぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーっ!?!?!?)
俺の脳内で、警報とファンファーレと除夜の鐘が同時に鳴り響いた! 全身の血液が沸騰し、顔が一気に熱くなるのが分かった! 耳まで真っ赤になっているに違いない! なんだこれ! なんだこの破壊力!? 俺の非モテ人生において、こんなイベントは一度たりとも発生したことがないぞ!?
パニック! 大パニックだ!
心臓はF1カー並みの爆音を立て、呼吸は浅くなり、視界はチカチカと明滅を始めた!
(やばい! やばいやばいやばい! これは完全にキャパオーバーだ!)
極度の緊張と興奮で、頭の中が真っ白になる。そして、その瞬間、確かに感じた。
頭皮が、粟立つような感覚と共に、数本の毛髪が…ハラリ、と…力なく舞い落ちるのを…!
(ああああああ! 俺の貴重な毛が! こんな幸せな瞬間に限って抜けることないだろ!? いや、幸せだからこそ抜けるのか!? どっちにしろ悲劇だ!)
俺が内心で絶叫し、毛髪の危機に瀕していることなど露知らず、忘は満足そうに自分のいちごパフェへと戻っていった。…かと思いきや!
彼女は、さらに追い打ちをかけるように、屈託のない笑顔を俺に向けた!
「あ、そうだ! 私のパフェも美味しいから、凡太さんも食べてみてよ!」
「え? いや、俺は…」
「遠慮しないで! 特にね、この、いちごと一緒にクリームとアイスが混ざってるところ! ここが最高に美味しいんだから!」
そう言って、忘は自分のスプーンで、自分がさっきまで食べていた場所を指し示した!
(追い打ちキタァァァァァーーーーーーーーーーっ!!!!!!)
もうダメだ! 俺の理性は完全に崩壊した!
これは罠だ! 甘いスイーツに見せかけた、恐るべきハニートラップ(無自覚)だ!
「ほ、ほら、凡太さん、あーん…は、しないけど、どうぞ!」
忘は、悪戯っぽく笑いながら、パフェグラスを俺の方に少しだけ近づけた。
(あーん…は、しない…だと…? いや、むしろしてくれ! …いやいやいや、何を考えてるんだ俺は!)
俺は激しく動揺し、脳内は完全に妄想モードに突入した! もしここで俺が忘のパフェを食べたら…? それはもう、間接キスどころの話ではない! これは…これはもはや、精神的なファーストキスと言っても過言ではないのでは!? いや、過言か!?
(ああ…もうわけがわからない…! でも、断るなんてできない…! 目の前に、こんな可愛い子が、自分の食べかけのパフェを勧めてくれてるんだぞ!? これを食べないなんて、男じゃない! いや、男じゃなくても食べる!)
俺は震える手で、自分のスプーンを持ち直した。そして、意を決して、忘が指し示した「美味しい部分」を、ほんの少しだけ、すくった。
(…いただきます)
心の中で手を合わせ、その一口を口に運ぶ。
甘い! めちゃくちゃ甘い! いちごの酸味と、クリームの濃厚な甘さ、アイスの冷たさが口の中で混ざり合って…そして、そこに、忘の…いや、なんでもない! とにかく、めちゃくちゃ美味い!
だがしかし! それと同時に、俺の頭皮は再び悲鳴を上げていた!
ザワッ…!明らかに、さっきよりも多くの毛髪が、俺の頭から自由を求めて旅立っていく感覚! もう、ハラリ、とかいうレベルじゃない! ざんばら髪が抜け落ちるような勢いだ!
(ぎゃああああ! 抜ける! 確実に抜けてる! まだ信頼度Lv.3なのに! このペースで抜け続けたら、七人集まる前に完全にツルッツルになっちまうぞ!?)
(でも…でも、この多幸感はなんだ…!? まるで…まるで、ドラゴンボールを七つ集めて神龍を呼び出した時のような…いや、それ以上の達成感と興奮が…!)
(これが…これが、恋…なのか…!? いや、それともただの吊り橋効果…いや、パフェ効果か!?)
俺は、口の中に広がる甘美な味と、頭皮から失われていく毛髪の感触という、天国と地獄を同時に味わいながら、完全に放心状態になっていた。
忘は、そんな俺の様子を見て、不思議そうに小首を傾げている。
「どうしたの、凡太さん? そんなに美味しかった?」
「お、おう…最高に…美味かった…(色んな意味で、そして色んなものが犠牲になった気がする…)」俺はかろうじて、そう答えるのが精一杯だった。
この味見イベントだけで、俺の精神力と毛髪は、計測不能なほどのダメージを負った。だが、同時に、忘との距離は確実に縮まった…ような気がする。これはもう、Lv.3どころか、一気にLv.5くらいまで信頼度がジャンプアップしたんじゃないか?(レーダーは沈黙。髪は減少傾向)。
その後、俺たちは(主に俺が若干放心状態のまま)なんとかパフェを完食し、今後の作戦もある程度固まったところで、カフェを後にすることにした。店長さんに丁寧にお礼を言い、また来ることを約束して、外に出る。
至福のひととき(と毛髪の犠牲)も束の間、この後、雪と氷の祭典で、さらなる悲劇(と奇跡?)が待ち受けていることを、この時の俺たちはまだ知る由もなかったのである…。
(第十七話 了)
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