第十五話【悲報】信頼度上げの道は険しい…ってか、俺の頭皮の道も険しい!
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雑貨屋での一件から数日が経った。俺、平凡太は、札幌市内の安ビジネスホテルの一室で、ベッドの上に胡坐をかきながら、例の黒いカード――ヒロインレーダーとにらめっこしていた。
表示されている「信頼度:Lv.3」の文字。あの日、雑貨屋の前で忘と別れてから、この数値に変化はない。まあ、まだ数日しか経っていないし、そう簡単にポンポン上がるものでもないのだろう。頭では分かっているのだが、焦る気持ちは抑えきれない。タイムリミットは一年。のんびりしている時間はないのだ。
(それにしても、信頼度レベルが上がらないってことは…俺の髪も現状維持…いや、むしろ…)
恐る恐る、枕元に置いてあった手鏡で自分の頭頂部をチェックする。…うーん、やっぱり気のせいか? それとも現実なのか? なんとなく、数日前よりも地肌の見える面積が広がったような気がしないでもない…。雑貨屋でのトラブルや、忘の能力の厄介さを知ったショックで、またしても貴重な毛根が数本、犠牲になったのかもしれない。
「くそっ…! 悩めば悩むほど髪が減るなんて、どんな呪いだっつーの!」
思わず鏡に向かって悪態をつく。だが、鏡に映る情けない自分の顔を見ていると、余計に気分が落ち込んできた。いかんいかん、ネガティブ思考はさらなる抜け毛を誘発する可能性がある(医学的根拠はないが、俺の経験則だ)。
とにかく、今は前向きに、忘との信頼度を上げる方法を考えなければ。
あの日、彼女は「普通になりたい」「友達と買い物に行ったり、ご飯を食べたりしたい」と言っていた。そして、俺がそれをサポートすると約束した。ならば、まずはその約束を実行に移すべきだろう。
俺はスマホを取り出し、忘にメッセージを送ることにした。連絡先は、あのカフェ「ポラリス」で別れる前に、勇気を出して交換しておいたのだ。もちろん、彼女がメッセージを見るかどうか、返信をくれるかどうかは分からない。それでも、行動しなければ何も始まらない。
『よう、忘。元気にしてるか? この前の雑貨屋、大変だったけど、俺は結構楽しかったぞ。それで、もしよかったら、また近いうちにどこか出かけないか? 今度は、もっと人が少なくて、安全そうな場所を選んでさ』
できるだけ軽い感じで、プレッシャーを与えないように。そして、前回の失敗を気にせず、また誘うことで、俺が本気で彼女の力になりたいと思っていることを伝えたい。送信ボタンを押す指が、少しだけ震えた。
返信は、すぐには来なかった。まあ、そんなものだろう。彼女だって、色々と考えているはずだ。俺はスマホをテーブルに置き、気を紛らわせるためにテレビをつけた。北海道ローカルのワイドショーが流れている。雪まつりの話題や、ご当地グルメの特集。…ああ、ラーメン食べたい。ジンギスカンもいいな…。いかん、腹が減ってきた。
その時、ピコン、とスマホが軽快な音を立てた。
慌てて画面を確認すると、忘からの返信だ!
『凡太さん、メッセージありがとう。私も、この前の雑貨屋さん、ちょっと怖かったけど…でも、嬉しかった。誘ってくれてありがとう』
『お出かけ、いいね。どこかいい場所、あるかな?』
よっしゃあああ! 返信きた! しかも、乗り気だ!
俺はガッツポーズをしながら、ベッドの上で小さく飛び跳ねた。まるで、推しのライブで最前列が当たった時のような喜びようだ。
(落ち着け俺! ここからが本番だぞ!)
どこかいい場所…。人が少なくて、安全で、忘が楽しめるところ。札幌市内で、そんな都合のいい場所があるだろうか?
俺はネットで札幌の観光情報を検索しまくった。公園、美術館、博物館、展望台…。色々な候補が挙がるが、どこもそれなりに人がいそうだ。特に今は雪まつりシーズン。どこも混雑している可能性が高い。
(うーん、どうしたものか…)
頭を悩ませていると、ふと、忘が言っていた言葉を思い出した。
『私が時々行くカフェがあるの。そこなら、あまり人も来ないし、暖かいし…』
そうだ、あのカフェ「ポラリス」! あそこなら、人も少なく、店長さんも事情を理解してくれている。まずは、あそこでゆっくりお茶をしながら、今後のことを相談するのが一番安全で確実かもしれない。
俺は忘に、その提案をメッセージで送ってみた。
『ポラリスで、またお茶でもどうだ? あそこなら落ち着いて話せるし、美味しいケーキもあるしさ』
すぐに返信が来た。
『うん、いいね! 私もそれがいいと思ってた。明日の午後とか、どうかな?』
『OK! 決まりだな! 楽しみにしてる!』
『私も!』
やった! 次の約束を取り付けた!
しかも、彼女の方から「それがいいと思ってた」なんて! これは、確実に脈アリ…いや、信頼度上昇の兆しだ! (髪も増えろ!)
明日の午後、カフェ「ポラリス」で再会。
そこで、忘の能力について、もっと詳しく聞かせてもらおう。どんな時に力が漏れやすいのか、逆に安定している時はどんな時なのか。何か、コントロールするためのヒントが見つかるかもしれない。
そして、俺自身のことも、もう少し話してみようか。俺がなぜこのミッションを受けているのか、世界の危機(と俺の頭皮の危機)について、もう少し詳しく。彼女にも、俺が背負っているものを理解してもらう必要があるだろう。
(よし、明日に向けて、色々準備しておくか)
俺は、忘に聞きたいこと、話したいことをメモ帳にまとめ始めた。それから、念のために、札幌市内の他の安全そうな場所(人が少ない公園や、個室のある飲食店など)もいくつかピックアップしておく。いつまでもカフェにいるわけにもいかないだろうからな。
さらに、俺は自分のなけなしの貯金残高を確認した。…うん、かなり心許ない。このままでは、他のヒロインを探す旅に出ることすら難しくなるかもしれない。
(やっぱり、あのビジネスアイデア…本気で考えた方がいいのか…?)
ヒロインたちのデジタル写真集。
もし、忘が許可してくれて、俺のカメラの腕で彼女の魅力を最大限に引き出すことができれば…もしかしたら、活動資金を稼げるかもしれない。
だが、どうやって許可を取る? まだ信頼度Lv.3の相手に、いきなり「君の写真集を作って売りたいんだけど!」なんて言えるわけがない。確実にドン引きされて、信頼度ゼロ、いやマイナスに叩き落されるだろう。下手したら、通報されるかもしれない。
(うーん…やっぱり、まだ時期尚早か…)
まずは、忘との信頼関係をしっかり築くこと。それが最優先だ。金儲けの話は、もっとずっと先、彼女が完全に心を開いてくれて、なおかつ他のヒロインたちとも出会ってから考えるべきだろう。
俺は、写真集のアイデアを一旦頭の隅に追いやり、明日の「ポラリス作戦」に集中することにした。
ベッドに横になり、目を閉じる。
忘の笑顔が思い浮かぶ。彼女を「普通」にしてあげたい。その一心で、俺はここまで来たんだ。
(絶対に、成功させてみせる…!)
そう心に誓いながら、俺は眠りについた。
夢の中では、ふさふさの髪をした俺が、七人の美少女に囲まれてハーレムを築いていたような気がするが…まあ、それはただの願望だろう。現実の俺の頭皮は、依然として厳しい状況に置かれているのだから。
(第十五話 了)
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