第十四話【悲報】間接キスならぬ間接記憶操作? 能力の仕様が鬼畜すぎる
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「お客様…どうかされましたか…?」
レジの女性店員さんの、心底不思議そうな声が、雑貨屋の静かな店内に響く。俺、平凡太は、目の前で起こった不可解な現象に、完全に思考がフリーズしていた。
(なんでだ…? なんで店員さんの記憶が…?)
俺は忘に触れていない。忘も店員さんに触れていない。俺がガラス細工を倒してしまっただけのはずだ。なのに、なぜか店員さんは、その直前の出来事を認識できていないように見える。まるで、俺がガラス細工を倒したという事実そのものが、彼女の記憶からスッポリと抜け落ちてしまったかのように。
隣を見ると、忘も真っ青な顔をして、信じられないといった表情で店員さんを見つめている。彼女も、この状況が理解できていないようだ。
「い、いえ…なんでもありません。すみません、ちょっと手が滑ってしまって…」俺はなんとか平静を装い、倒れたガラス細工をそっと元の位置に戻した。
「そうでございますか…?」店員さんはまだ怪訝そうな顔をしているが、とりあえず納得してくれたのか、ラッピング済みの雪だるまキャンドルを俺に差し出した。「お待たせいたしました。1200円になります」
「あ、はい」俺は慌てて財布から千円札と小銭を取り出し、支払いを済ませた。お釣りを受け取り、店員さんにもう一度軽く頭を下げる。
「ど、どうも…」
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
俺たちは、逃げるように雑貨屋を後にした。店の外に出た瞬間、二人同時に大きなため息をついた。
「……な、なんだったんだ、今のは…?」俺は混乱したまま、忘に尋ねた。
忘も、まだ動揺が隠せない様子で首を横に振る。
「分からない…私も、あんなこと初めて…。だって、凡太さんが触ったのに…どうして店員さんの記憶が…?」
俺が触ったガラス細工。それを介して、忘の力が店員さんに影響した…? そんなことがあり得るのか?
(だとしたら…まるで、間接キスならぬ、間接記憶操作じゃないか…!?)
もしそうだとしたら、この能力、あまりにも厄介すぎる! 直接触れなくても、物を介して影響が及ぶ可能性があるなんて…。これでは、日常生活で気をつけるべき範囲が、とんでもなく広がってしまう!
「忘…もしかして、君の力って、物にも宿ったりするのか?」
「え…? 物に…?」忘は驚いた顔で俺を見る。「考えたこともなかった…。でも…だとしたら、私が触った物にも、私の力が残るってこと…?」
「可能性はあるかもしれない…。だとしたら、さっき俺が触ったガラス細工に、忘の力が残っていて、それを俺が触ったことで、何か…こう、静電気みたいに力が伝播して、近くにいた店員さんに影響した…とか?」
我ながら、とんでもない仮説だ。SF映画じゃあるまいし。だが、他に説明がつかない。
「そんな…」忘はショックを受けたように、自分の手を見つめた。「じゃあ、私が使った物とか、触った場所とかにも、力が残っちゃうの…?」
「…断言はできないけど、その可能性は考えた方がいいかもしれない」俺は慎重に言葉を選んだ。「もしそうなら、今まで以上に気をつけないといけないことが増えるな…」
忘の顔が、みるみるうちに曇っていく。せっかく少しだけ前向きな気持ちになっていたのに、またしても新たな問題が発覚してしまった。しかも、今回の件は、俺が原因で引き起こしてしまったようなものだ。
「ご、ごめんな、忘…。俺が不用意に物に触ったせいで…」
「ううん、凡太さんのせいじゃないよ!」忘は慌てて首を振った。「悪いのは、私のこの力なんだから…。それに、こうやって、力の新しい性質が分かったのは…ある意味、良かったのかもしれない。これから、もっと気をつけられるから」
彼女は健気にも、そう言って俺を励まそうとしてくれた。だが、その表情は明らかに無理をしているように見えた。
(くそっ…! なんてこった…!)
俺は自分の不甲斐なさに、唇を噛み締めた。彼女を守ると誓ったばかりなのに、早速こんな事態を引き起こしてしまうなんて。
「…とりあえず、今日はもう帰ろうか」俺は提案した。「これ以上何かあっても怖いし、忘も疲れただろ?」
「…うん」忘は力なく頷いた。「ごめんね、せっかく連れてきてもらったのに…」
「気にするなって。また来ればいいさ。今度は、もっと対策を練ってな」俺は努めて明るい声で言った。「ほら、これ。プレゼント」
俺はラッピングされた雪だるまのキャンドルを忘に差し出した。
「あ…ありがとう…」忘は少し驚いた顔をしたが、嬉しそうにそれを受け取った。「大切にするね」
その笑顔に、少しだけ救われた気持ちになる。
俺たちは、来た時とは違う、重い沈黙の中でカフェ「ポラリス」の前まで戻ってきた。
「それじゃあ、今日はここで…」俺が別れを告げようとすると、忘が何か言いたそうに俺を見上げた。
「あの…凡太さん」
「ん?」
「今日の失敗で…私のこと、嫌いになったり…しない…?」
不安げに揺れる瞳。彼女は、また拒絶されることを恐れているのだ。俺のせいで、彼女のトラウマを刺激してしまったのかもしれない。
俺は、彼女の不安を吹き飛ばすように、きっぱりと言った。
「なるわけないだろ! むしろ、今日のことで、俺はもっと君の力になりたいって思ったぞ」
「え…?」
「だって、こんなにも厄介な力なんだ。君一人で抱え込むには、あまりにも重すぎる。俺がそばにいて、一緒に考えて、一緒に乗り越えていかないと」
俺は、彼女の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「忘、俺は絶対に君を見捨てたりしない。だから、安心してくれ」
俺の言葉に、忘の瞳が再び潤んだ。彼女は、ありがとう、と小さく呟くと、足早にカフェの角を曲がって去っていった。その後ろ姿は、まだ少し小さく見えたけれど、さっきまでの絶望感は消えているように見えた。
俺は、彼女の姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。
(間接記憶操作、か…)
とんでもない事実が判明してしまった。これは、今後の旅に大きな影響を与えるだろう。他のヒロインたちも、それぞれが厄介な能力を持っている可能性が高い。俺は、その全てに対応していかなければならないのだ。
(…俺に、できるのか…?)
不安が再び鎌首をもたげる。だが、すぐに忘の潤んだ瞳と、「ありがとう」という言葉を思い出した。
(やるしかないんだ…!)
俺は自分に活を入れるように、パン、と両手で頬を叩いた。寒さで少し痛かったが、気合は入った。
ポケットの中のレーダーを確認する。信頼度はLv.3のまま。まあ、さすがにトラブルの後すぐには上がらないか。…髪も、もちろん変化なし! 知ってた!
と言うか逆に減ったような…?そんなの知らないよ!?
「さて…これからどうするか…」
忘の能力対策、他のヒロイン捜索、資金繰り…問題は山積みだ。
そうだ、資金繰り! カフェで閃いた、あのビジネスアイデア!
(ヒロインたちのデジタル写真集…!)
このアイデア、もしかしたら本当に実現できるかもしれない。忘も、あんなに可愛いんだ。他のヒロインたちも、きっと可愛い子たちに違いない。
彼女たちの魅力を、俺のカメラで最大限に引き出して…!
(…いや、待てよ? その前に、忘にちゃんと許可取らないとダメだよな…? いきなり写真集の話なんてしたら、ドン引きされるか…?)
それに、他のヒロインだって、そう簡単にOKしてくれるとは限らない。まずは、地道に信頼度を上げていくのが先決か。
(…まあ、焦らず行こう。まずは、忘との関係をしっかり築くことからだ)
俺は、雪だるまキャンドルを買った雑貨屋の方角をもう一度見つめた。
トラブルはあった。課題も見つかった。だが、確かな手応えもあった。
俺の、ハゲとハーレムを賭けた戦いは、まだ始まったばかりなのだ。
(第十四話 了)
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