第十三話【悲報】初デート!?試されるのはコミュ力よりもガードスキルだった
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翌日。俺、平凡太は、昨日待ち合わせを決めたカフェ「ポラリス」の前で、そわそわと落ち着きなく立っていた。時刻は約束の午前11時少し前。空は昨日とは打って変わって、雲一つない快晴だ。太陽の光が雪に反射して眩しいが、空気は相変わらずキンと冷えている。
今日の俺は、なけなしの金で買った(と言っても古着屋で見つけた安物だが)少しだけマシに見えるセーターを着て、髪もいつもより念入りにセットしてきたつもりだ。まあ、根本的な素材(と生え際)はどうにもならないが、それでも最低限の身だしなみは整えなければ。なんたって、今日は忘――白雪 忘との、初めての「お出かけ」なのだから。デートと呼ぶにはまだ早いかもしれないが、俺にとっては人生の一大イベントと言っても過言ではない。
(大丈夫か、俺…? ちゃんとエスコートできるか…?)
緊張で心臓が早鐘を打っている。昨日のカフェでの会話で、少しは打ち解けられた気がするが、それでもまだ油断はできない。彼女の能力は常に発動する可能性があるのだ。俺がしっかりガードして、彼女が安心して楽しめるようにしなければ。
それにしても、彼女が指定した待ち合わせ時間は午前11時。結構ゆっくりめだな、と思ったが、もしかしたら人混みを避けるための配慮なのかもしれない。俺としても、人が少ない時間帯の方がありがたい。不測の事態が起こる確率も減るだろう。
約束の時間ちょうどに、カフェの角から、見慣れた白いコートの姿が現れた。
「あ、白雪さん!」俺は思わず手を振る。
「…おはよう、凡太さん」忘は少しだけはにかんだように微笑みながら、こちらに歩いてきた。昨日までの硬い表情が嘘のように、柔らかく、そして驚くほど可愛らしい。陽の光を浴びてキラキラと輝く銀髪、透き通るような白い肌、そしてほんのり上気した頬。…やばい、直視できないレベルで可愛いぞ。
「お、おはよう! 今日はいい天気だな!」俺は照れ隠しに、当たり障りのない挨拶をする。
「うん。雪が止んでよかった」忘も空を見上げて微笑む。「あのね、凡太さん…」
「ん? どうかしたか?」
「私のこと、『忘』って呼び捨てでいいよ。私19歳で年下だし、そっちの方が…普通っぽいから」彼女は少し照れたように言った。
「え? あ、ああ、分かった! じゃあ、これからは忘って呼ばせてもらうな!」まさかの呼び捨て許可! これは大きな進歩だ! 信頼度レベル、さらにアップの予感! (髪の毛にも反映されてくれ!)
「うん。『さん』付けじゃなくていいから」
「本当に、いきなり呼び捨てでいいの?」
正直、非モテ人生を歩んできた俺にとって、呼び捨てには抵抗がある。
「いいの。凡太さんは、特別だから」忘は、真っ直ぐに俺の目を見て言った。
特別、という言葉に、俺の心臓はまたしても跳ね上がる。くっ…! この天然(?)小悪魔め!
「…わ、分かった。じゃあ、これからよろしくな、忘。俺の呼び方も、凡太、とかでいいからな」俺はぎこちなく返した。
「うん!」忘は嬉しそうに頷いた。「それじゃあ、行こっか。雑貨屋さん」
「おう!」
こうして、俺たちの初めてのお出かけ(デートとはまだ言えない)が始まった。忘が行きたがっていた雑貨屋は、ここから歩いて10分ほどの、少しお洒落なエリアにあるらしい。
道中、俺は忘の半歩前を歩き、常に周囲に気を配った。人が近づいてきたり、自転車が通り過ぎたりするたびに、さりげなく彼女をガードする。忘自身も、慣れない外出に緊張しているのか、少しこわばった表情で俺の後ろをついてくる。
「大丈夫か? 疲れてないか?」
「う、うん。大丈夫。でも…やっぱり、ちょっと怖いかも…」忘は不安そうに呟いた。
「だよな…。でも、俺がいるから心配するな。何かあったら、俺が盾になる!」俺は力強く宣言する。まあ、具体的にどうやって盾になるのかは考えていないが、気持ちが大事だ。
そんな俺の言葉に、忘は少しだけ安心したように微笑んだ。「ありがとう、凡太さん」…って、結局さん付けになってるな。まあ、いいか。
しばらく歩くと、目的の雑貨屋が見えてきた。レンガ造りのお洒落な外観で、大きなショーウィンドウには、可愛らしい小物やアクセサリーが飾られている。女子が好きそうな雰囲気満々の店だ。俺一人では絶対に入れないタイプの店だな。
「ここだよ。可愛いって評判なんだ」忘は少し興奮したように言った。
「へえー、お洒落な店だな」
俺たちは店のドアを開けて中に入った。カラン、と軽やかなベルの音が鳴る。店内は、アロマのようないい香りが漂い、様々な雑貨が所狭しと並べられている。アクセサリー、文房具、食器、ぬいぐるみ…。色とりどりの商品を見ているだけで、なんだかワクワクしてくる。
幸い、平日の午前中ということもあってか、店内に他のお客さんは二人ほどしかいなかった。これなら、忘も少しは安心して見て回れるだろう。
「わぁ…! 可愛い…!」忘は目をキラキラさせながら、早速商品を見て回り始めた。さっきまでの緊張はどこへやら、年相応の女の子らしい無邪気な表情を見せている。その姿が、なんだかとても愛おしく感じられた。
俺は、そんな忘の後ろをついて回りながら、彼女が他の客や商品棚に近づきすぎないように、さりげなく距離を調整する。まさに、リアルタイムのガードスキルが試される瞬間だ。集中しろ、俺! ここで何かあったら、せっかくのデート(仮)が台無しになる!
忘は、特に動物モチーフの小物に興味があるようだった。猫の置物、うさぎのマグカップ、ハリネズミのぬいぐるみ…。一つ一つ手に取って(もちろん、細心の注意を払いながら)、嬉しそうに眺めている。
「これ、可愛い…! あ、こっちも…!」
その無邪気な笑顔を見ていると、俺まで嬉しくなってくる。彼女がこんな風に普通の女の子のように楽しめる瞬間を、もっと作ってあげたい。そう強く思った。
しばらく店内を見て回った後、忘は小さな雪だるまの形をしたキャンドルを手に取った。
「…これ、買おうかな」
「お、いいな。可愛いじゃん」
「うん。部屋に飾ったら、ちょっと明るくなるかなって」
彼女がそう言って微笑むのを見て、俺は決めた。これは俺がプレゼントしよう、と。
「なあ、忘。これ、俺に買わせてくれないか? 今日、一緒に出かけてくれたお礼ってことで」
「え? いいよ、そんな! 自分で買うから!」忘は慌てて首を振る。
「いいんだって。俺からのささやかな気持ちだ。受け取ってくれよ」
俺は半ば強引に、忘の手からキャンドルを受け取り、レジへと向かった。忘は「でも…」とまだ戸惑っているようだったが、どこか嬉しそうな表情も浮かべていた。よし、いい感じだぞ!
レジには、人の良さそうな女性の店員さんが立っていた。俺はキャンドルを差し出し、財布を取り出す。
「これ、お願いします」
「はい、ありがとうございます。可愛いキャンドルですね。プレゼントですか?」店員さんはにこやかに尋ねてきた。
「え、あ、まあ、そんな感じです」俺は少し照れながら答える。
店員さんがキャンドルを丁寧にラッピングしてくれている間、俺は財布からお金を出そうとした。その時だった。
レジの横に置いてあった、小さなガラス細工の置物に、俺のコートの袖が、ほんのわずかに触れてしまったのだ。
カシャン!
軽い音と共に、ガラス細工はバランスを崩し、カウンターの上に倒れた。幸い、割れはしなかったが、危ないところだった。
「あっ! すみません!」俺は慌てて謝り、ガラス細工を起こそうとした。
だが、その瞬間、信じられないことが起こった。
「あれ…?」
レジの店員さんが、きょとんとした顔で、俺と、俺が倒してしまったガラス細工を交互に見ている。そして、まるで今、目の前で何が起こったのか理解できていないかのように、首を傾げたのだ。
「お客様…どうかされましたか…?」
「え…?」
俺は言葉を失った。まさか。そんなはずはない。だって、今、能力を使ったのは俺の方…いや、違う! 俺は能力者じゃない! じゃあ、なんで…?
混乱する俺の隣で、忘が息を呑む気配がした。彼女も、何が起こったのか理解できずにいるようだった。
店員さんは、依然として不思議そうな顔でこちらを見ている。まるで、俺が突然現れて、何もない場所で謝り始めたかのように…。
(嘘だろ…? なんで…? 俺は、忘に触れてないぞ…!?)
これは一体、どういうことなんだ…!?
忘の能力は、俺が考えていた以上に、複雑で、そして厄介なものなのかもしれない…!
(第十三話 了)
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