第十二話【悲報】カフェインと糖分で脳を覚醒させたら余計なことまで閃いちゃった件
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白雪 忘の案内で、俺たち、平凡太一行(現在二名)は、雪まつり会場の喧騒を抜け出し、少し裏路地に入った場所にあるカフェへと向かった。彼女が言うには、地元の人でもあまり知らない、隠れ家的な店らしい。確かに、人通りの少ない静かな通りに、そのカフェはひっそりと佇んでいた。
木製のドアには、手書き風の看板がかかっている。「カフェ・ポラリス」。ポラリス、つまり北極星か。なんだか、今の俺たちの状況に少しだけ重なるような、意味深な名前だ。俺たちが目指すべき道しるべ、みたいな? いや、考えすぎか。
ドアベルを鳴らして中に入ると、カランコロン、と心地よい音が響いた。店内は、外の極寒が嘘のように暖かく、コーヒーのいい香りが漂っている。想像していたよりもこぢんまりとしているが、木の温もりを感じる落ち着いた内装で、居心地が良さそうだ。先客はカウンターに座る常連らしき老紳士が一人だけ。これなら、人目を気にせずゆっくり話ができそうだ。
俺たちは、窓際のテーブル席に案内された。席に着くと、忘はホッと息をついたように見えた。やはり、人混みの中にいるのは、彼女にとって相当なストレスだったのだろう。
「ここなら、大丈夫だと思う。あまり人も来ないし、店長さんも優しい人で、私の記憶のことも理解してくれて、写真とメモで覚えてくれてるの」忘は小さな声で教えてくれた。
「そうか。本当に優しい店長さんだな」
「うん…。時々、一人で考え事したい時に来るの」
しばらくして、穏やかそうな雰囲気の初老の男性店長が、水とおしぼりを持ってきてくれた。
「いらっしゃい。忘ちゃん、久しぶりだね。お友達?」店長は、にこやかでありながらも、不思議そうに忘に話しかけた。
「あ、はい…えっと…」忘は少し戸惑ったように俺を見る。友達、と言っていいものか、迷っているのだろう。
「ど、どうも! 平凡太と申します! 今日、たまたま雪まつりで知り合いまして!」俺は慌てて自己紹介し、ぎこちなく頭を下げた。
「ほう、雪まつりで。それは奇遇だねぇ」店長はにこやかに頷くと、「ご注文、決まったら呼んでくださいね」と言ってカウンターに戻っていった。
俺たちはメニューを開いた。コーヒーや紅茶の他に、手作りのケーキや軽食もあるようだ。俺は冷え切った身体を温めるためにホットコーヒーを、そして忘は少し迷った末に、ホットミルクとチーズケーキを注文した。甘いものが好きなんだろうか。意外な一面だ。
注文したものが運ばれてくるまでの間、少しだけ会話が途切れる。俺は何を話そうかと考えあぐねていたが、忘の方が先に口を開いた。
「あの…平凡太さん」
「ん?」
「さっきの話だけど…その、七つの輝き? を集めるっていうのは…具体的には、どうすればいいの?」
彼女は、真剣な表情で俺を見つめている。そうだ、俺たちの目的について、もっとちゃんと話さなければならなかった。
「ああ、それなんだが…正直、俺も詳しいことはよく分かってないんだ」俺はヒロインレーダー(黒いカード)を取り出し、テーブルの上に置いた。「これをくれた声(神?)が言うには、とにかく日本中に散らばってる七人の特別な力を持つ子…つまり、白雪さんみたいな子を探し出して、『信頼』を得ることが必要らしい」
「信頼…」
「ああ。このレーダーには、信頼度を表示する機能があるみたいでな。さっき、白雪さんが俺に心を開いてくれた時に、Lv.1からLv.2に上がったんだ」俺はレーダーの表示を忘に見せる。
忘は興味深そうにレーダーを覗き込んだ。「ほんとだ…レベルなんてあるんだ…ゲームみたい」
「だよな。で、このレベルが上がることが、ミッション達成の条件なんだと思う。ただ、具体的にどうすればレベルが上がるのか、最終的にどこまで上げればいいのかは、まだ不明だ」
そして、言い忘れていた(というか、あまり考えたくなかった)重要な情報を付け加える。
「あとな…タイムリミットがある。一年以内だ。一年以内に七人全員の信頼を得られないと…その、美女消滅(100キロ超え)が発動するらしい…」
「一年…」忘の表情が曇る。「そんな…間に合うのかな…」
「俺も不安だ。でも、やるしかない。それに、白雪さんが協力してくれるなら、きっと大丈夫だ!」俺は根拠のない自信を込めて力強く言った。…まあ、内心は不安でいっぱいだが。
「…うん」忘は小さく頷いた。「私にできることなら、なんでも協力するよ。平凡太さん、一人に全部任せるわけにはいかないもんね」
その言葉が、なんだかすごく頼もしく聞こえた。一人じゃない、仲間がいる。それだけで、こんなにも心強いものなのか。
そこへ、注文した品が運ばれてきた。湯気の立つホットコーヒーとホットミルク、そして見るからに美味しそうなチーズケーキ。甘い香りがふわりと漂う。
「わぁ…美味しそう…」忘は目を輝かせてチーズケーキを見つめている。さっきまでの不安げな表情はどこへやら、年相応の女の子らしい反応だ。こういう表情を見ると、なんだかホッとする。
俺たちは、温かい飲み物で冷えた身体を温めながら、改めて今後のことを話し始めた。
「まずは、他の『輝き』を探さないといけないわけだが…」俺はレーダーを操作してみる。「このレーダー、今は白雪さんのことしか示してないんだよな。他の子の情報は、どうやったら表示されるんだろうか?」
「うーん…もしかしたら、一人目の信頼度が、ある程度まで上がらないと、次の子の情報が表示されないとか…?」忘が推測する。
「なるほど! それはあり得るな!」だとしたら、まずは白雪さんの信頼度を上げることに専念すべきか? でも、どうやって?
「信頼度って、どうすれば上がるのかな…?」忘も同じことを考えていたようだ。
「さあな…さっきは、白雪さんが俺に心を開いてくれた時に上がったみたいだけど…」俺は顎に手を当てて考える。「悩みを聞いてあげるとか、困っていることを解決してあげるとか…そういうのがポイントなのかもしれない」
「私の悩み…」忘は、少し寂しそうに俯いた。「やっぱり、この力のことをなんとかしたい…。普通になりたいっていうのが、一番の願いだけど…」
「普通に…」
「うん。例えば…普通に、友達と買い物に行ったり、ご飯を食べたり…そういうことがしたい。今まで、ずっと避けてきたから」
彼女のささやかな願い。だが、彼女にとっては、それは決して簡単なことではない。
「よし! やってみようぜ!」俺は勢いよく言った。「買い物でも、ご飯でも、俺が付き合う! もちろん、白雪さんが周りの人に影響を与えないように、俺が全力でサポートする!」
「え? ほんとに?」忘は驚いたように顔を上げた。
「ああ! 俺がいる限り、白雪さんは一人じゃない。それに、俺には君の力が効かないんだろ? だったら、俺となら、少しは安心して外に出られるんじゃないか?」
「…うん!」忘の顔が、ぱっと明るくなった。満開の花が咲いたような、眩しい笑顔だった。俺はその笑顔に、またしても心臓を撃ち抜かれそうになる。
(やばい…可愛いすぎる…! これが、ヒロインの力か…!)
その瞬間、ピコン! と再びレーダーが鳴った。「信頼度:Lv.3」! おいおい、笑顔だけでレベルアップかよ! チョロ…いや、感受性が豊かなんだな、きっと! …で、髪は!? …うん、やっぱり増えてない! どうなってんだ!
俺が内心で頭皮への不満を募らせていると、忘が嬉しそうに言った。
「じゃあ、早速だけど…明日、一緒に出かけてみない?」
「え、明日!? もちろんOKだけど、どこか行きたいところがあるのか?」
「うん。実はね、ずっと行ってみたかった雑貨屋さんがあるんだ。可愛い小物がたくさん置いてあるって聞いて…。でも、お店の中って人が多いし、今まで一人で行けなくて…」
「雑貨屋さんか! いいな! よし、行こう!」俺は即答した。「俺がガードするから、安心して見て回れるようにする!」
「ありがとう、凡太さん!」忘は心から嬉しそうに微笑んだ。
(よしよし、いい流れだ! これで信頼度もガンガン上がるに違いない! …髪も増えるといいんだけど…)
俺は熱いコーヒーをすすりながら、明日のデート(?)に胸を膨らませていた。
だが、この時の俺は、まだ気づいていなかったのだ。忘の能力が引き起こすトラブルは、俺の想像以上に厄介で、そして予期せぬ形で降りかかってくるということを…。
そして、カフェインと糖分で活性化した俺の脳細胞が、とんでもない(そして、もしかしたら世界の命運を左右するかもしれない)ビジネスアイデアを閃いてしまったことにも、まだ気づいてはいなかったのである…。
(第十二話 了)
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