第十一話【悲報】触るな危険!天然美少女との安全距離は推定3メートル?
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「あなたと一緒にいたら…なんだか、大丈夫な気がするから…」
白雪 忘が、頬をほんのり赤らめてそう言った瞬間、俺、平凡太の心臓は、打ち上げ花火の連発のように激しく高鳴り始めた。え? えっ!? 今のって、そういう…恋愛フラグ的なやつ!? 俺みたいな非モテ街道爆走中の男に、こんな雪の精霊が舞い降りてきたかのような美少女が、そんな…そんな少女漫画のクライマックスみたいなセリフを!?
(き、きた…! 脳内ハーレムがついに現実になるのか…!? いや待て俺! 冷静になれ! 相手は触れたら記憶を消す能力者だぞ! しかも信頼度はまだLv.1! ここで浮かれて失敗したら、目も当てられない! 毛根にも悪い!)
脳内で、天使(ハーレム推進派)と悪魔(現実主義&ハゲ予防派)が激しい論争を繰り広げる。その結果、俺の表情筋は迷走し、口元はひくつき、目は泳ぎまくっていたことだろう。忘も、そんな俺の奇妙な反応に、少し首を傾げている。やばい、完全に挙動不審だ。
「あ、あー、いや、その…俺も、白雪さんと一緒なら、すごく心強い! 百人力…いや、百毛力くらいある気がする! こちらこそ、よろしく頼む!」
なんとか平静を装い、勢いよく頭を下げる。右手で握手…は、さっき失敗したから自重した。代わりに、サムズアップでもしてみるか? いや、余計キモいか。
「…ひゃくもうりき…?」忘が不思議そうな顔で繰り返す。…うん、やっぱりスベったな。
気まずい沈黙が再び東屋を支配する。いかん、このままではまた彼女が心を閉ざしかねない。何か、何か建設的な話をしなければ。
「えっと、それで…さっきの話の続きだけど」俺は咳払いをして、無理やり話題を戻した。「白雪さんの力って、感情が高ぶると不安定になるって言ってたよな? 具体的には、どんな感じになるんだ?」
忘は、少し考えるように視線を宙にさまよわせた。
「うーん…例えば、すごく悲しくなったり、逆にすごく嬉しくなったりすると…自分でも気づかないうちに、力が周りに漏れ出しちゃうことがあるの。半径数メートルくらいかな…その範囲にいる人の記憶が、一時的に混濁したり、私に関する部分だけ抜け落ちたり…」
半径数メートル…! それって、結構な範囲じゃないか! 人混みの中にいたら、大勢の人に影響を与えてしまう可能性があるってことだ。
「それに…」忘は、さらに声を潜めて続けた。「本当に感情が…制御できないくらい高ぶっちゃうと…もっと、ひどいことになるかもしれない…」
「ひどいこと…?」
「うん…。昔、一度だけ…すごく怖い思いをした時に、周りにいた人たちが、みんな…私だけじゃなくて、お互いのことまで忘れちゃったみたいになって…大混乱になったことがあるの…」
彼女の声は震えていた。その時の恐怖が、ありありと蘇っているのだろう。お互いのことまで忘れてしまう…? それはもはや、単なる記憶消去では済まされない、深刻な事態だ。下手をすれば、パニックや暴動に繋がりかねない。
「そ、それは…大変だったな…」俺は言葉を失った。彼女が背負っているものの重さを、改めて思い知らされる。
「だから、私は感情をできるだけ抑えるようにしてる。嬉しいことも、悲しいことも、なるべく感じないように…心を、閉ざすように…」
忘は、ぎゅっと唇を噛み締めた。彼女の無表情や冷たい態度は、自分の力を制御し、周りを傷つけないための、必死の自己防衛だったのだ。
なんてことだ…。彼女は、自分の感情を殺すことでしか、平穏を得られなかったのか。
その時だった。
東屋の外の通路を、数人の若者グループが、大きな声で騒ぎながら通り過ぎていった。雪玉をぶつけ合ったり、奇声を上げたりしている。そのうちの一人が、ふざけて仲間を突き飛ばした。突き飛ばされた若者は、バランスを崩し、東屋のすぐそばまでよろめいてきた。
「うおっ! 危ねぇじゃねえか!」
若者は悪態をつきながら、仲間たちと笑い合い、すぐに走り去っていった。その間、ほんの数秒。彼らは東屋の中にいる俺たちには気づいていないようだった。
だが、その瞬間、忘の顔色が変わった。彼女は息を呑み、真っ青な顔で、若者たちが走り去った方向を凝視している。
「白雪さん? どうかしたのか?」
「……今の、人たち…」忘が、震える声で呟いた。「たぶん…力が、漏れちゃった…かもしれない…」
「え…!?」
直接触れていない。会話もしていない。ただ、近くを通り過ぎただけだ。それでも、力が影響するのか!?
「最近、なんだか…力が前より不安定になってる気がするの…。ちょっとしたことでも、漏れ出しやすくなってるみたいで…」
忘は、罪悪感に苛まれるかのように、俯いてしまった。その肩が小さく震えている。
そんな…! これじゃあ、彼女は安心して外を歩くことすらできないじゃないか! 常に周りの人に影響を与えてしまうかもしれないという恐怖と、罪悪感に苛まれ続けるなんて…。
「だ、大丈夫か、白雪さん!?」
俺は心配になって、思わず彼女の肩に手を伸ばしかけた。彼女を励ましたい、支えたい、その一心で。
「あっ!」
忘が、小さな悲鳴を上げた。俺はハッとして、寸前で手を止める。危ない! またやってしまうところだった! 俺のこの無神経さ!
「ご、ごめん! また…! 本当にごめんなさい!」
「う、ううん…大丈夫…。でも…」
忘は、不安そうな目で俺を見つめた。
「やっぱり、私と一緒にいると…平凡太さんにも、迷惑かけちゃうかもしれない…。それに、いつか…平凡太さんの記憶まで、私が消しちゃう日が来るかもしれない…」
「そんなこと…!」
言いかけて、言葉に詰まる。確かに、その可能性はゼロではないのかもしれない。俺に力が効かないのが、一時的なものだったら? あるいは、もっと強い感情の波に晒されたら、俺の「平凡耐性(仮)」とやらも突破されてしまうかもしれない。
だが、それでも。俺はここで引き下がるわけにはいかなかった。
「それでも、俺は君のそばにいるって決めたんだ」俺は、きっぱりと言った。少し声が震えたかもしれないが、気持ちは本物だ。「迷惑だなんて、これっぽっちも思ってない。それに、もし…万が一、俺の記憶が消えたとしても、俺はきっと、また君を見つけ出す。そして、また君の力になるって約束する。何度だって、そうするさ」
俺の言葉に、忘は驚いたように目を見開いた。そして、その瞳に、再びみるみるうちに涙が浮かんでくる。
「…平凡太さん…ばか…」
「え? ばかって…」
「だって…そんなこと言われたら…私…」
忘は、それ以上言葉を続けられず、俯いてしまった。耳まで真っ赤になっているのが、雪明かりの中でも分かった。
その時、俺のレーダーがまたしてもピコン、と軽やかな音を立てた。「信頼度:Lv.2」の表示。…よし! またレベルアップ! …だがしかし! 髪は!? 俺の髪はどうなんだ!? …やっぱり変化は感じられない! なんなんだよこのシステム! レベルアップの恩恵はどこにあるんだ!
俺が内心で激しく葛藤していると、忘が顔を上げて、少し潤んだ瞳で俺を見た。
「…あのね、平凡太さん」
「お、おう?」
「ここじゃ…やっぱり落ち着かないから…どこか、もっと安全な場所に移動しない? 人が少なくて、暖かいところに…」
彼女からの提案。これは大きな進歩だ!
「ああ、そうだな! それがいい! ええっと、どこか心当たりはあるか?」
「うーん…」忘は少し考える。「この近くに、私が時々行くカフェがあるの。そこなら、あまり人も来ないし、暖かいし…」
「カフェか! いいな! じゃあ、そこに行こう!」
俺たちは東屋を出て、忘が案内するというカフェに向かうことにした。外は相変わらず寒いが、さっきまでの凍えるような孤独感はもうなかった。隣には、少しだけ心を開いてくれた少女がいる。そして、俺には彼女を支えるという、確かな目的がある。
もちろん、彼女の力の問題も、世界の危機も、俺自身の頭皮の問題も、何一つ解決してはいない。むしろ、問題は山積みだ。
だが、それでも、俺は不思議と前向きな気持ちになっていた。一人じゃない。彼女となら、きっと乗り越えていける。そんな根拠のない自信が、心の奥底から湧き上がってきていた。
(第十一話 了)
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