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第十話【悲報】美少女の願い、重すぎて俺の肩が物理的に凝る

♦️この力作でアニメ化を目指します♦️

東屋の中、白雪 忘と俺、平凡太の間には、先ほどまでの張り詰めた空気とは違う


静かで、どこか穏やかな時間が流れていた。彼女が自分の名前と、その特殊な能力の一端を明かしてくれたことで、俺たちの間にある見えない壁が、少しだけ薄くなったような気がする。ポケットの中のヒロインレーダーに表示された「信頼度:Lv.1」という文字が、それを証明していた(俺の髪は一向に増える気配がないが!)。


「…それで、白雪さん」俺は、温かい飲み物でもあればいいのに、と思いながら口を開いた。「その力…記憶を消してしまう力は、いつから…?」


できるだけ優しい声色を心がける。彼女の過去に触れるのは、地雷原を歩くようなものかもしれない。慎重に、言葉を選ばなければ。


忘は、膝の上で組んでいた指を解き、白い息を吐きながら答えた。


「はっきりとは、覚えてない…。でも、物心ついた頃には、もう…おかしかったと思う」


彼女は遠い目をして、過去の記憶を手繰り寄せているようだった。


「幼稚園の頃かな…仲良くなった子が、次の日には私のこと、全然知らない子みたいに見てきたり…おもちゃの取り合いで、ちょっと手が触れただけなのに、その子が急に泣き止んで、きょとんとした顔になったり…」


当時の彼女には、それが自分のせいだとは分からなかっただろう。ただ、周りの子たちと何かが違う、という漠然とした不安だけが募っていったのかもしれない。


「小学生になって、それが自分の『力』なんだって、何となく気づき始めた。だって、私と関わった子は、みんな、すぐに私のことを忘れちゃうんだもん。まるで、私が最初からいなかったみたいに…」


その声は、淡々としていたが、その奥には計り知れないほどの寂しさが隠されているように感じられた。自分の存在そのものが、他人の記憶から容易に消え去ってしまう。それは、まるで自分が幽霊にでもなったかのような感覚だろうか。


「中学の頃には、もう完全に理解してた。だから、極力人と関わらないようにした。誰にも触れないように、誰の記憶にも残らないようにって…。それが、私が周りの人を傷つけないで済む、唯一の方法だって思ったから」


彼女は、ぎゅっと自分のコートの袖を握りしめた。その白い指先が、微かに震えている。


「でも…本当は、嫌だった」


ぽつりと、絞り出すような声が漏れた。


「本当は、みんなみたいに、友達と笑ったり、喧嘩したり、普通のことがしたかった…。くだらない話で盛り上がったり、一緒に悩んだり…そういう、当たり前のことが、私にはできなかった」


彼女の瞳から、一筋の涙が零れ落ち、白い頬を伝った。それは、凍てつく夜空に流れる星のように、儚く、そして美しかった。俺は、何も言えずに、ただその涙を見つめていた。どんな慰めの言葉も、彼女が抱えてきた孤独の前では、あまりにも陳腐に思えたからだ。


「…高校生になってからは、もうほとんど諦めてた。私は、一生こうやって、誰とも深く関わらずに生きていくんだって…。記憶に残らないなら、最初から関わらない方がいい。その方が、誰も傷つかないし、私も傷つかないって…」


忘は涙を拭うこともせず、ただ静かに続けた。


「でも…時々、思うの。もし、この力がなかったら…って。もし、私が普通の子だったら、どんな人生を送っていたのかなって…。好きな人と手を繋いだり、抱きしめ合ったり…そんな、普通の人にとっては当たり前のことが、私には、夢のまた夢なんだって…」


好きな人、という言葉に、俺の心臓が小さく跳ねた。だが、すぐに彼女の言葉の重みに打ちのめされる。彼女にとって、「触れる」という行為は、繋がりではなく、断絶を意味する。愛する人の記憶を、自分の手で消してしまうかもしれない恐怖。それは、想像を絶する苦しみだろう。


「だから…」忘は、そこで一度言葉を切り、深く息を吸い込んだ。そして、決意を秘めた瞳で、俺を真っ直ぐに見つめた。「もし、叶うなら…私は、この力から解放されたい。普通になりたい。ただ、それだけなの…」


普通になりたい。

その、あまりにも切実で、そして重い願い。

俺は、その言葉の重さに、息を呑んだ。物理的に肩が凝るような、そんなプレッシャーを感じる。


彼女が長年抱え続けてきた苦しみ、孤独、そして切なる願い。それを、俺は今、真正面から受け止めている。俺なんかが、その願いを叶える手助けなんて、本当にできるのだろうか?


「…そっか」俺は、なんとかそれだけを絞り出した。「大変だったな、今まで…」


月並みな言葉しか出てこない自分がもどかしい。もっと気の利いた、彼女の心を軽くするような言葉をかけてあげたいのに。


だが、忘は、そんな俺の言葉に、小さく首を横に振った。


「ううん…。こうやって、誰かに自分の話を聞いてもらえたの、初めてだから…。少しだけ、楽になった気がする」


そして、彼女は再び、ほんの少しだけ微笑んだ。さっきよりも、もう少しだけはっきりとした、優しい笑顔だった。


その笑顔を見た瞬間、俺の心の中にあった迷いや不安が、少しだけ晴れたような気がした。


(そうだ…俺に何ができるかなんて、まだ分からない。でも、少なくとも、俺は彼女の話を聞くことができる。彼女の孤独に、寄り添うことはできるはずだ)


俺には、彼女の力が効かない。それは、もしかしたら、俺が彼女にとって唯一、安心して心の内を話せる相手になれるということなのかもしれない。


「白雪さん」俺は、改めて彼女に向き直った。「俺が、君の力になる。約束する」


何の根拠もない、勢いだけの言葉かもしれない。でも、本気だった。


「君が『普通』になりたいって願うなら、俺がその手助けをする。どうすればいいのか、今はまだ分からないけど…一緒に方法を探そう。絶対に、諦めない」


俺の言葉に、忘は驚いたように目を見開いた。そして、その瞳がみるみるうちに潤んでいく。


「…ほんと…?」


「ああ、本当だ。俺は、君の味方だ」


忘の瞳から、大粒の涙が次々と溢れ落ちた。それは、さっきまでの悲しみの涙とは違う、どこか温かい涙のように見えた。彼女は、嗚咽を漏らしながら、何度も「ありがとう」と繰り返した。


俺は、そんな彼女の姿を見ながら、胸の奥が熱くなるのを感じていた。同時に、とんでもないことを引き受けてしまったという自覚も芽生え始めていた。彼女の人生を左右するかもしれない、重大な約束。俺は、その重みをしっかりと受け止めなければならない。


しばらくして、ようやく涙が収まった忘は、少し恥ずかしそうに俯きながら言った。


「…ごめん、なさい。急に、泣いたりして…」


「いや、いいんだ。全然気にしないでくれ」


俺はぎこちなく手を振る。こういう時、どういう反応をするのが正解なのか、相変わらず分からない。


「あの…平凡太さん」


「ん? なんだ?」


「これから…どうするの? 私の力をなくす方法なんて、あるのかな…?」


忘は、不安そうな表情で俺を見つめた。その問いに、俺は即答できない。


「正直、まだ何も分からないんだ。でも、俺がここに来たのには、理由がある」


俺はポケットから、あの黒いカード――ヒロインレーダーを取り出した。


「このカードが、君のところに俺を導いたんだ。そして、このカードをくれた謎の声は言ってた。『七つの輝きを集めれば、世界の危機は去る』って…」


俺は、自分が経験した奇妙な出来事を、かいつまんで忘に説明した。神(?)の声、美女消滅の危機、七人の特別な少女…。あまりにも荒唐無稽な話だ。信じてもらえないかもしれない。そして信頼度ハゲるのシステム…は話せる訳ない。


だが、忘は、驚きながらも真剣な表情で、俺の話を聞いていた。


「…七つの輝き…世界の危機…」彼女は、レーダーを興味深そうに見つめながら呟いた。「もしかして…その『七つの輝き』っていうのが、私みたいな『特別な力』を持った子のこと…?」


「たぶん、そうだと思う。そして、七人の信頼を得ることができれば、何かが起こるはずなんだ。それが、世界の危機を救うことなのか、それとも…君の力をなくすことにも繋がるのか…それはまだ分からないけど」


「……」


忘は、しばらくの間、何かを深く考えているようだった。やがて、彼女は顔を上げて、決意を秘めた瞳で俺を見た。


「…分かった。平凡太さん、私…あなたに協力する」


「え…!? 本当か!?」


予想外の、しかし最高に嬉しい申し出に、俺は思わず声を上げた。


「うん。だって、もしそれが本当なら…私みたいな子が他にもいて、みんなで協力すれば…もしかしたら、本当に、何かを変えられるかもしれないから」


彼女の声には、確かな希望の色が宿っていた。


「それに…」忘は、少しだけ頬を赤らめながら、小さな声で付け加えた。「あなたと一緒にいたら…なんだか、大丈夫な気がするから…」


その言葉と表情に、俺の心臓は、これまでにないくらい大きく跳ね上がった。

え? 今のって、もしかして…!?


(第十話 了!)

♦️基本20時投稿!コンスタントに週3話以上投稿

✅️是非ブクマお願いします

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