見知らぬ夜明け
真っ暗な世界。そこに呆然と突っ立っている。
(変な夢だな)
たまに見る意識がある夢。きょろきょろと辺りを見渡してみるがどこを見ても何もない。
いつもの感覚で少し前へと歩く。そして少し身を曲げて足元へと手を伸ばすと手に感じる慣れた作業着の感触。俺はそれを手にすると身支度を始めた。さすがは夢。何も見えなくてもいつもの通り身体を動かせば欲しいものが手に入る。作業着を身につけて次は鍵をポケットにいれると最後はたばこを胸ポケットにいれる。持った感触でそれほど中身がないと思い、新箱も反対のポケットに入れて身支度を終えた。
ちょうどそのタイミングで頭の上に光が降りてくる。俺は迷わずにその光に手を伸ばした。ぐっと握り締めると光は上に移動していく。身体が引っ張られる感触。本当に変な夢だ。感覚が妙に生々しい。
そして上へ上へと移動を続けていくと、視界の先に光が広がっていく。暗闇の世界の終わり。俺はその光の中に引き込まれていく。辺りは黒から真っ白な光の世界に変わる。
眩しさに目を細めていると、上へと向かう浮遊感がなくなった。足元に感じる地面の感触。今度は下へと向かう力を感じた。いつも感じている重力感。身体の質感を感じる。そして大きく息を吸い込むと嗅ぎ慣れない臭いに眉間を皺を寄せる。とても濃い緑の臭い。
俺はゆっくりと目を開けた。目の前に広がるのは見慣れない景色。どれだけの年数経てばと思うほどに太く大きな樹。俺は樹海の中に立っていた。
「は?」
夢の続きかと思ったが、身体の感覚が生々しい。どう考えても夢の中じゃない。それでも受け入れられない状況に俺は頬に手を当てた。
手の平に感じる人肌の感触。暖かさ。明らかに夢じゃない。
「ここってまさか、、、」
都合の良い話かもしれない。けれどこの非日常感はどう考えても普通じゃない。どくんと巡る血の感覚。想像が現実になったのかと期待に胸が高鳴る。
「異世界?まじか、、、」
俺は上を見上げる。そしてポケットからたばこを取り出すといつものように火をつける。いつも空気に混ざる緑の匂い。たばこもいつもと違って格別だ。
ぼーっとしながらたばこを吸う。上がっていたテンションが落ち着いてきて少しは頭が回るようになってきた。
「いや、てかこれからどうしたいいんだろ。」
辺りには木しかない。人影もなくて何かを聞けるわけでもないし。
「やーっと声が届いた!!」
そんな事を考えていると急に近くから声が聞こえた。驚いて身体をびくりと震わせてから声のする方へと顔を向けた。そこには俺の吐き出した煙がぐるぐると回って球体のようになっていた。そしてそれは少しずつ形を変えていく。
「よぉ、人間!」
球体は小さな人型のような形になると薄い緑色に色付いていく。妖精。俺の頭の中にあるイメージに近い姿になったそれは手を上げて俺に声掛けてきた。それに対して俺は軽く頭を下げて応える事しか出来なかった。
ここは本当に異世界だったようだ。