寝付けぬ夜
布団に横になって1.2時間が過ぎた。だが、眠れる様子がない。目を閉じると湧いて出てくる後悔の記憶。頭の中がうるさくて寝付けない。ストレスを感じてはベランダへと出て、たばこを吸う。気持ちを落ち着けてもまた横になって目を閉じれば浮かんでくる後悔の記憶。たまにこうゆう日がある。
薄い引き戸の向こうから聞こえていたテレビの音も聞こえなくなった。母親は寝たらしい。静かになった部屋で天井を見つめる。
(明日も仕事なんだけどな)
寝れずに行く仕事ほどだるいものはない。明日はいつも以上にきつくなりそうだ。そう思うと余計に気持ちは滅入り、もういいかと目を閉じて後悔に向き合う事にした。
浮かんでくるのは自分が逃げ出した記憶。世話になった人がいた。嫌な人もいた。特に関わるわけでもない人もいた。色んな人に会って色んな人から逃げ出した。
いい人からはその人に対して自分はちゃんと応えられているのかどうか。嫌な人からは単純に顔を合わせるのが嫌で。特に話した事がない人とはなんとなく自分は良くない存在で。関わるべきではないよなとか思って距離を取っていた。
自分の人生は言い訳ばかりだ。都合の良い考え方をして自分を肯定する。人を否定する。結果が今。そろそろ自分を擁護することも難しくなってきてしまった。
自分には何が足りないのだろうか。どうして他の人はちゃんと出来るのだろうか。よくわからない事が頭の中をぐるぐるする。なんとなく答えはわかっていても、それを飲み込めないからずっとぐるぐると頭の中で回る。
(なんでこの世界から逃げ出せないんだろう)
現実世界で嫌な経験をした人が異世界で無双する的なライトノベル。現実逃避の終着点。自分も頭の中でそれを浮かべた。
異世界に行ったらまずは魔法か。火や水を手から出して。それが楽しくていつの間にかとても強くなっていて。自分の周りには人が集まってくる。エルフとか獣人とか。可愛い女の子が自分を好いてくれて。それに応えるように自分はその子達が抱える問題を解決してあげたりして。それからえっちな展開になって。
頭の中がピンクな妄想で埋め尽くされる頃にはさっきまで落ち込んでいた事を忘れてしまっていた。自分はとても単純な人間だと思う。そのおかげでまだ生きられている。頭の中でピンクな妄想を膨らませながらその日は眠りにつくのだった。