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振り返る人生

鍵を開けてドアを開ける。薄暗い廊下。物が壁際に積み上げられてとても狭く感じる。その先にリビングがあり、真っ暗な部屋から薄ら光が見える。それを確認すると同時に耳に届く笑い声。母親がテレビを見ているようだ。


俺は無言で靴を脱いで廊下を進む。リビングへと入りそこをさらに進むと引き戸がある。この先が自分のスペースだ。部屋に入ると着ていた作業着をさっさと脱いでその辺に投げる。下着姿になった俺はハーフパンツを履いてさらに部屋を進んでベランダへと出た。


親から部屋では吸うなと言われている。実家寄生の自分には反論する権利などなく。ベランダに出た俺はたばこを取り出して火をつけた。


母親とはもう何年も話をしていない。口を開けば喧嘩になるし、価値観が合わない。そもそも自分がちゃんとすればいいだけの話なんだが、わかっていてもそれを言われると腹立たしくて。変なプライドがあって。母親に負けたような気持ちになるのが嫌なんだろうか。そんな事を繰り返しているうちに向こうも話かけてこなくなった。


(こうやって考えるのも何度目だよ)


家に金は入れていない。実家だからこそ金は最低限のあればよくて。だから働いたらその分は飯やらパチンコやらに使って無くなったらまた働きに行ってを繰り返してる。あとは機嫌を損ねないよう息を潜めるだけ。追い出されたら生きていけないのはわかってる。


親に反抗的な言葉を返すのに親に甘えて生きている。それが自分。なんとも情けない。そう思って気持ちは滅入るが、それでも毎日しんどい思いするよりはましかとたばこを咥えて大きく息を吸い込んだ。


たばこはいつの間にか短くなっている。俺は吸い込んだ煙を一気に吐き出すと、たばこの火を消して缶の中へと捨てた。蓋をして缶を上下に打って最後の火消し。意味があるのかわからんがいつもこうしている。


たばこのおかげで気持ちにも蓋が出来た。俺は部屋へと戻ると椅子に座ってパソコンを起動する。動画配信サイトを開いて気になったものをクリックして流す。動画の投稿者の笑い声が部屋に響く。


(なんでこんなふうに笑えないのかな)


ふと頭に浮かぶ。そこから過去の振り返りが始まるのもいつもの事だ。友達がいた頃や学生時代を思い出す。その中では自分もこんなふうに笑っていてこの先の人生で何かしらあってこのまま楽しく生きていられると思っていた時代。その頃を思い出してまた気持ちが滅入る。今日は感情の蓋がどうにも緩い。


俺は動画を止めるとまたベランダへと出た。たばこの効能なのかは知らないが、気持ちが落ち込んだ時や思考するのを止めたい時はたばこが吸いたくなる。火をつけて大きく吸い込み、大きく息を吐く。沈んでいた気持ちが少し楽になる感覚。俺は目の前の景色に集中してたばこの煙を吸っては吐き、改めて感情に蓋をしていく。


たばこが短くなる頃にはだいぶ気持ちも落ち着いた。俺はまた吸い殻を缶の中に捨てて部屋に戻った。


だが、今日はもう動画を見る気分にもならない。パソコンの電源を落として寝る準備をする為に洗面所へと向かった。顔を洗って歯磨きをする。鏡には老けた自分の顔。今日はどうやらヘラ日らしい。感情の蓋がまた緩んでしまう。


洗面所で一通りの事を終わらせた俺はまたベランダへと向かった。たばこを吸ってまた感情に蓋をする。


(もうタバコは手放せないよな)


若い頃はいつでもやめれると思ってた。けど、今はたばこが自分を支えてくれているのを強く感じている。平静に生きるには後悔を積み過ぎてしまった。それに向き合う事が出来ない俺は明後日の方を見つめながらそこに煙をただ吐き続ける。

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