表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

前編

 

 むかーし、むかーし。ある所に、とても顔のお怖い王子様が居ました。

 王子様は戦いにお強く、いつも先陣を切って敵をなぎ倒し、勝利を掴んできました。

 でも、だからでしょうか。 只でさえ山賊と見間違うような強面だというのに、体中は傷だらけ。

 

 おまけに皮肉屋で、口調もぶっきらぼう。それに加えて出自もちょっぴり特殊。

 これでは、幾ら王子様といえど、若いご令嬢方が寄り付く筈もありません。

 

 誰もが王子様を怖がり、傍に寄ろうとするのは彼の異母弟か、腹心の腹黒宰相くらいしかおりませんでした。

 

「お妃様候補が居ません」


 ある日のこと。王子様の所に宰相が現れ、開口一番、そんな事を言い出しました。

 自室で本を読みふけっていた王子様は、彼の登場に嫌な顔を隠しません。

 

 しかし、宰相はどこ吹く風。

 得意げにクイクイと眼鏡を指で押し上げながら、続けて言います。

 

「貴方が怖すぎるせいです。言動も、顔も、何もかも。恐ろしいを通り越しておぞましいです」

「少しは加減して言えや!」


 王子様が吠えるも、眼鏡は正直者でした。

 

「貴方を社交の場に引っ張り出してみても、誰も彼もが近寄らない。悲鳴を上げて逃げ惑う始末。全く、どうしたものか」

「どうもこうもねぇだろ。向こうが寄って来ないんじゃ、どうしようもねぇよ」

「最近では、貴方は出禁になってるそうですね。王子の癖に、舞踏会も晩餐会も出禁。お労し過ぎて笑えてきます」


 眼鏡の辞書に失礼とか不敬とか言う言葉はありませんでした。

 

「笑うなや! くそっ! アイツ等、戦時中は王子だ何だと祭り上げやがって! 用が済んだらこれか!」

「まぁ、血生臭い現実も知らず、蝶よ花よと育てられたご令嬢なんて、そんなものです。山賊より貴公子の方がお好みなのでしょうね」

「うるせぇ! どうせ俺はこんな顔だよ! 女に好かれようなんざ、思っていねぇ!」


 王子様はむくれました。

 そう言いながらも、ちょっぴり気にしているのです。

 

「だから、他国の王女や貴族令嬢と政略結婚なさいと言っているでしょうに。降伏の証に娘を差し出す国くらい、幾らでも居ますよ」

「そういうのは嫌だ。俺は、愛ある結婚がしたい。心から愛しいと思える娘と添い遂げたい」


 一国の王子の癖に、何を乙女な夢想をほざくのでしょう。

 眼鏡も呆れた顔でため息を吐いてしまいます。

 

「貴方は、本当に……それで、良いのですか?」

「あぁ、いいさ。それでいい。ほら、戦狂いの馬鹿王子の相手をしてる暇はねぇだろ? サッサと出てけ、読書の邪魔だ」


 机の上に置かれた、その本をチラ見して、眼鏡は無念そうに首を振ります。

 

「殿下――恋をすれば良いのですね。心から愛する娘と、運命的な恋とか愛とか、そういうの」

「何か引っ掛かる物の言い方だな……? まぁ、そうだ。分かってるじゃねえか」

「でしたら、妙案が。お勧めの方法がございますよ。何せ、過去に私が実践済みのものでして」


 眼鏡は、眼鏡をクイクイ指で押し上げながら、うっとりとした目つきになります。

 うげ、と。王子様は吐き気を堪えるような顔をしました。

 この顔になった時の眼鏡のうざったさは、半端では無いのです。

 

「我が愛しの妻と出会った、あの場所。若者たちが恋と愛を語り合う地。あぁ、我が妻。我が女神。貴女の美しさは、この世の物とは思えない。花と例えるのも、あぁ。もどかしく――」

「のろけ話なら、余所でやれ」

「――学園に通いましょう」


 王子様の突っ込みに、眼鏡は唐突にそんな事をのたまいます。

 

「親の目を離れ、浮かれた良家の少年少女達がアバンチュールを愉しむ。開放感と十代特有の万能感とか勘違いとか、そういうのが合わせ技になれば、貴方でも異性と恋に落ちる可能性が――万が一にもあるかもしれません」

「そこは、自信を持って言えねえの……?」

「鏡を見てから物を申して頂きたい」


 ――そんなこんなで。

 戦が終わって暇してる王子様は、眼鏡の個人的裁量により、強制的に学園へとぶっこまれるのでした。




 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

「くそ……! あの眼鏡野郎! 本当に学園なんぞに通わせやがった!」


 緑の葉が舞う中、王子様はのっしのっしと校庭を歩いていきます。

 そのお顔は不機嫌そのもの。少年少女は誰も彼もが近寄ろうともしません。

 

「というか、仮にも貴族のお嬢ちゃん坊ちゃんが通う場所だろ? アバンチュールとか楽しんでいいのか? 婚約者とか居る奴いねえの? そんな場に放り込まれたら、浮気や婚約破棄のオンパレードじゃね……?」


 それは言ってはいけない御約束なのです。

 そんなの百も承知で、みな学園生活を楽しみ、時には許されぬ恋とかに身を焦がすのです。

 卒業したら、そういうのは大体ポイ。

 あの頃はバカやったなぁ、程度の良い思い出として胸に刻むのが常でした。

 

「あぁ、もう! 帰りてぇ! でも、入学の願書とか届け済みだしなぁ。今更フケたら、色んな所に迷惑がかかりそうだ」


 こう見えて、王子様は中々に真面目系でした。

 

「適当に授業受けて、適当に学園生活送って、そいで適当に――終わらせる、か」


 ぼやきながら歩いていると、いつの間にか風景が変わっている事に気が付きます。

 左右には花壇が並び、その先には大きな木が。

 どうやら、中庭の方に出てしまったようでした。

 

「しまったな、校舎の入り口は向こうか。ちっ、また戻るのも面倒くせぇな――」


 ――その時です。

 王子様がふと見上げると、木の枝の所に腰掛けるようにして、小さな人影がひとつ。


「ん? 女……?」


 そう、それは学園の制服に身を包んだ、少女のようです。

 光に照らされ、ふんわりとしたストロベリーブロンドの髪が鮮やかに輝きを放っています。

 

 この学園に通っているのだから、恐らくは貴族。そのご令嬢なのでしょうが、その様はどういう事なのか。

 高い木の上に登り、枝に腰掛けただけでなく、何が楽しいのか、足をブラブラさせて鼻歌なんぞ歌っています。

 

 いわゆるひとつの、おもしれー女。その筆頭みたいな娘でした。

 

「……よし、見なかったことにしよう」


 王子様は賢明でした。

 

「え、行っちゃうんです!? ちょっと、それは無いでしょう!」


 しかし、女の子は王子様の予想の、斜め上を行っていました。

 枝の上からぴょん、と飛び降りたかと思うと、華麗に空中回転をキメながら、彼の真正面に着地します。

 

「な……なんだ!? なにやった!? え、あそこから? あそこから飛んだの、お前!?」

「ふふふ、驚いたようですね! よし、ファースト・コンタクト大成功!」


 むしろ、未知との遭遇に近い状況ですが、少女はご満悦の表情。

 

「初めまして、王子様! わぁ、聞きしに勝る山賊顔! それで十代なんです?」

「そうだよ、悪いか! これでも俺は今年で十八歳だよ!」

「うえ、同い年だぁ……嘘みたい……」


 少女が顔をしかめますが、それもそのはず。

 王子様のそれは、どっからどう見ても、いい年をした男性が制服を着ているようにしか見えません。

 ぶっちゃけて言うと、三十路のオッサン。具体的には三十二歳くらいです。

 

「まぁ、いいや! 王子様、婚約者とか居ます? 居ませんよね? はい決まり!」

「待て待て待て、会話をしろ! お前は誰で、何を決めやがった!」

「私は男爵家の娘です。男爵令嬢ってやつですね! というわけで名乗りも済みましたし、王子様! お妃様にしてください!」

「何がというわけ、だ!?」


 わけもわからず叫ぶ王子様。けれど、男爵令嬢は怯みません。

 

「私、贅沢したいんです! 美味しいご飯に綺麗なドレスに宝石! ぜんぶ、ぜーんぶ欲しいです! 王子様と結婚すれば、みんな手に入りますよね? ね?」


 清々しい程に欲望に忠実な台詞。

 さしもの王子も、空いた口が塞がりません。

 

「私の魅力で、虜にしちゃいますから! だからぁ、うーんと贅沢させてください、王子様!」



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 こうして、老け顔・強面のダブルショック王子様は、パワー系男爵令嬢と出会ってしまいました。

 見た目だけは絶世の美少女ですが、その中身は飢えた狼そのもの。

 楽観的を超えた超無敵系の令嬢に、ターゲット・ロックオンされてしまったのです。

 

 ――王子様の苦難の日々が、始まりを告げたのでした。

 

「サンドイッチを作ってきましたよ!」


「買い物に行きましょう、王子様持ちで!」


「木登りとかしませんか?」


「遠乗りに出かけましょう!」



 勿論、王子様は彼女を遠ざけようと必死になります。

 けれど、男爵令嬢からは逃れられません。

 

 行く先行く先でワンダリング。

 引き離そうとしても着いて来て、どんだけ邪険にしてもへこたれません。

 果てにはトイレの個室を開けた瞬間に『こんにちは!』 される始末。

 それはもう、ちょっとしたホラーでした。

 

 ――もう駄目だ。こいつからは逃れられない。

 ようやく王子様がそう悟る頃には、男爵令嬢はニコニコ顔で彼にべったりと張りついていました。

 

 そんな女の子ですが、実はある不思議な力を持っているというのです。

 

「私は人々の心を惹きつける『魅了』の力を使えるんです! 凄いでしょう! 王子様もきっと、私から目を離せなくなりますよ!」

「それ、言っていい奴なのか!? おい!」


 見ててくれ、と。女の子は石を手に持ち、軽く息を吸い込みます。

 グシャバキという世にも恐ろしい音と共に、それは無残に砕け散りました。

 

「どうです、この力! 惚れ惚れするでしょう? 見惚れてしまうでしょう? 私の虜になりました? お妃様にしたくなっちゃいますぅ?」


 物理イズパワーな能力。

 まぁ、ある意味では目が離せなくなる力でした。

 

(古い文献で見たことがあるぞ! 人の心を読んだり、予知をしたり。そんな能力を持った奴の伝承――) 

 

 そう、王国に時々現れるという、不思議な力の持ち主。

 それがまさか、この山猿のような少女だとは!


 ――こいつは、放って置いたら危ない。

 

 学園の平和が大いに乱される。いや、下手をすれば国にまで飛び火するのではないか?

 この獣を世に解き放ってはならんと王子様は決意します。

 例え短い時間だとしても、俺が生贄になってやる! それは覚悟を決めた男だけが見せる、凛々しいお顔でした。 


「わかった。もう逃げねぇ。だから、お前は俺の傍にいろ。なるべく離れるな!」

「やったー! 私の魅力が遂に通じましたよぉ!」


 金づるゲットだぜ! とばかりに喜ぶ男爵令嬢。

そうして人身御供になった王子様の運命は、それは無残で残酷な――と言いたい所なのですが。



「はい、王子様。お昼のサンドイッチです!」


「あ、王子様! もう、お口にお弁当、くっついてますよ?」


「試験の要綱、まとめてきました! 一緒にお勉強しましょ、王子様!」



 意外と男爵令嬢は尽くすタイプでした。

 目をお金マークにギラつかせながらも、それはそれは甲斐甲斐しく王子様に接します。

 鼻歌まで口ずさんで、滅茶苦茶に楽しそうなその様子に、王子様も毒気を抜かれてしまいました。

 

「お前、俺の外見とか気にならねえの?」

「男は外見じゃなくてお金です!」

「そこまで言い切ると、いっそ清々しいな!」


 これまでも一応、王子様の身分から玉の輿を狙って這いよってくる令嬢は居なかったとも言えません。

 ただ、そういう者達は得てして高貴が過ぎるので、野性的な王子様の前に付き合いきれず、ご縁が無かったという事で……と、お祈り手紙を出されるのが常でした。その結果が、眼鏡も嘆く令嬢無風状態の完成です。

 

 だというのに、この男爵令嬢ときたら。

 王子様がどんなにぶっきらぼうに扱っても、皮肉を言おうとしても、それ以上のパワーで反撃してくるので、どうにもなりません。 


「これが下町仕込みのガッツ! 私はどんな扱いをされようと、めげませんし、諦めません!」

 

 何でも令嬢の母親は平民のメイドで、貴族のお手付きになって娘を産み、その後に儚くなったそうで。

 その後、父である男爵に引き取られはしたものの、家ではロクな扱いをされていないとか。

 胸糞悪いことこの上無い話ですが、少女はケラケラと笑うばかり。

 

「境遇を恨んでも仕方ないでしょ? 折角こんな力を持って生まれたんですし、私は自分の力で幸せを掴むんです!」

「すげえな、お前……いや、本当にすげぇよ」


 ……実は、王子様も市井の出でした。こちらも王さまがちょろっとメイドに手を付けて産ませた子。

 その後、紆余曲折あって母に捨てられ、通りかかった傭兵団に拾われる形で育ったのでした。

 ある戦場において眼鏡に出会い、体にある『王家のしるし』を見初められ、危機的状況にあった王国を立て直す事を懇願されたのです。

 

「似た者同士だったんだな、俺達は」


 ため息を吐く王子様を励ますように、男爵令嬢は足元の草をむしると、笛を作って奏でます。

 それは、何処か懐かしく、胸をかきむしられるような切なさを呼び起こす、そんな旋律。

 

 遠い日の母の顔を思い出しながら、王子様はその草笛の音色に耳を傾けるのでした。



お読みいただきまして、ありがとうございます!

中編はまた明日、17時頃に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ