第3話 ミニウェポンと野盗
『野盗に注意』
ペンキで書かれた看板が、あちこちに立っていた。
ジギガン「この山は野盗が多い。俺は村人に頼まれて奴らをこらしめてやったが、まだ何人かは潜んでいるだろう」
ジギガンがこの山一帯をドラグーン号に乗って移動していた理由はそれだ。
ジギガン「このドラグーン号に乗っていれば襲われることはないがな」
アスベル「あー‼︎ ……さっきどこぞの令嬢が、1人でこの山を越えるって……」
ミィテのことが頭をよぎった。
ジギガン「なんだと? それは危険だ。デントレインに乗せて運んでやろう」
ジギガンとアスベルは、手分けしてミィテを探し始めた。
そのころ…。
ミィテ「ふう、山を越えるのって大変ね」
後ろの茂みからガサッと音がした。振りむくと、悪人面のむさ苦しい男2人組が木の影から飛び出してきた。
ガイゼギ「オレはガイゼギ」
背はそこそこだが筋肉のついた体格で、眉毛が黒く太い。
アボゼギ「オレはアボゼギ」
背は高く、額に緑の布を巻いていて、顔色が悪い。
アボゼギ「簡単に説明すると、オレたちゃ野盗2人組」
ガイゼギ「姉ちゃんよぉ、金とミニウェポン持ってんだろ? よこせよ」
ミィテ「やだ。って言ったら?」
ミィテは顔色を変えずに答えた。
ガイゼギ「無理矢理ぶん殴ってとる」
ガイゼギはすぐに頭に血がのぼる。
アボゼギ「落ち着け、ガイゼギ。さっきこいつはディガイアン商会の令嬢だって言っただろ? だから、誘拐して身代金をとればいいんじゃないか?」
ガイゼギ「おう、そうだな」
2人の会話はミィテに丸聞こえだ。
ミィテ「ぶん殴る? 身代金? つまり、あんた達は完全に悪人で決まりね」
ミィテはバッグから、剣の形をした手のひらサイズのキーホルダーを取り出した。キーホルダーに付いているボタンを押すと、素早く空に向かって放り投げた。
くるくると回転しながら、キーホルダーは空中でぐんぐんと大きくなり、本物の剣となってミィテの手に戻ってきた。
ミィテ「ずいぶんとなめられたものね。ディガイアン商会は、ミニウェポンを開発した会社。ボタン1つで、キーホルダーから本物の武器になる。これは誰もが知ってる」
ミィテはニヤリと笑った。
ミィテ「でも、ディガイアン商会の令嬢のあたしの強さは知らないのね」
ミィテの姿が消えた。
ガイゼギ「何⁉︎」
アボゼギ「どこへ⁉︎」
ガイゼギたちはキョロキョロと辺りを見渡した。
ミィテ「バックサーベル‼︎」
ガッ‼︎ ガッ‼︎
バックサーベルは、瞬時に敵の背後を取り、切り下ろす剣技だ。盲点からの斬撃は、守備が緩んでいたガイゼギたちに大きなダメージを与えた。
ガイゼギ「速すぎる......」
アボゼギ「いつの間に背後に......」
ボロボロになった2人の前に立ったミィテは、さわやかな表情で、
ミィテ「相手の気配もわからない間抜けな野盗さんでしたねぇ。ディガイアン家の人間はみんな強いのよ。ふふふ」
アスベルは走っていた。
辺りは沢山の木がびっしりと茂っていて、視界は悪い。
アスベル「くそー。あいつ、どこにいるかわからねぇ」
嫌な予感がしている。ミィテの身に何かあるような気がする。アスベルの野生の勘だ。
ミィテの前に、どこからともなく静かに男が現れた。
ガイゼギとアボゼギ「はっ。レフトゼロさん!」
レフトゼロは、髪を後ろで1つに結び、額にバンダナを巻いている。歳はアスベルと変わらないだろう。小柄だが鋭い目つきで相手を威圧する。
レフトゼロははぐれデントラーだ。はぐれデントラーは、デントラーとしてチームに参加していない者のことだ。
レフトゼロはデントレインを手に入れるため、他のデントラーを倒して奪おうと企んでいて、ガイゼギたちを利用していた。
ガイゼギ「オレ達、あの女にボコボコにやられたんです」
アボゼギ「レフトゼロさん、あんな奴、やっつけちゃってください」
アボゼギは恥を捨てて言った。ガイゼギは開き直って言った。
ミィテ「悪いことを企んだりするからでしょ。バーカ」
ミィテはあっかんべーをした。
レフトゼロ「貴様ら、そんな雑魚に負けたのか?」