第16話 伝説のかけら
創文家は、小説を書き終えるまでこの宿に泊まることにした。
出会った人や、聞いた噂話、目に止まった景色や、初めて吸う空気。撮った写真や手帳を見返したりして、旅先で得たものを思い返した。
誰かがドアをノックした。
少年「創文家のおにいちゃん。今、休憩中だったりしない?」
昨夜、宿の女将の息子に自分が書いた話を聞かせると、その少年は今朝も創文家の部屋にやって来た。
少年「運転手のお話、面白かったから他の話も聞かせてほしいなあと思って」
創文家「僕の小説、気に入ってくれたのかい」
少年「うん。ファンになったよ」
創文家「自分の小説で喜んでくれるなら本望だよ」
創文家はカバンから本を取った。
創文家「どうだい、不思議なかけらの話なんてのは」
少年「聞きたいなっ」
この世界には、神のみぞ知る変わった宝石が存在した。宝石は何者かによって壊され、世界中にかけらが散らばった。かけらを拾った者は、不思議な力に包まれるという。
かけらは、自分を拾った者に、同じくかけらを拾った者を探してほしいと頼む。不思議な力に包まれた者は旅をして仲間を集め、宝石を壊した悪の枢軸を倒すというストーリーだった。
少年「現実の世界でも、不思議なかけらがあったりするのかな」
創文家「ああ、きっと」
創文家は本を閉じた。
ぐぅーー……
ドラグーン号の車内では、さっきからアスベルの腹の音が鳴り止まない。
アスベル「腹減ったぁぁぁ……」
クレイブル「この森を抜けると町が見えてくる。もうすぐの辛抱だぞ」
シャペン「俺も腹減ったなあ。空腹を紛らわせるために何か喋ろうぜ」
ジェピット「じゃあ……そうだ、そういやアスベルの夢って訊いてないよな」
ぐでっと寝そべっていたアスベルは、突然エンジンがかかったかのようにテーブルの上に立った。
アスベル「仲間を1000人集めて、みんなで修行して、世界一強いチームを作って、この星中を旅して、誰もたどり着いたことのない場所を見つけて、誰も手にしたこともない宝を手に入れることだぁ‼︎」
言い終えると、抜け殻みたいにぐでっと倒れた。
クレイブル「すごい欲だ」
シャペン「夢はでかい方がいいぞ」
ミィテ「世界一強くなりたいんなら、空腹になるとひ弱になるのをなんとかしないと」
アスベルは干物化している。
ミィテ「あと、ジャルベルって人を見つけるのよね」
アスベルはまたエンジンがかかったかのように立ち上がった。
アスベル「そう! ジャルベルって奴を探してるんだ」
シャペン「ジャルベル……その名をジギガンさんから聞かされたことがあるぞ」
アスベル「ジャルベルのこと、知ってんのか⁉︎」
シャペン「さあ、名前くらいしか」
アスベルはテーブルから落ちた。
アスベル「ジギガンのおっさんは、ジャルベルはオレの父親だとか言ってたけど、オレは生まれた時からじいちゃんに育ててもらったからな……」
ひ弱な声で言った。
アスベル「ドラゴニオンソードをオレより先に成功させたらしいんだ……だからどんくらい強い奴なのか気になるんだ」
シャペン「俺も会ってみたい」
シャペンはいつも興味津々だ。
ジェピット「おう。そりゃ絶対会うべきだな」
ドラグーン号が停車した。
アンドファン「トウトーンという町だ。寄るだろ?」
アンドファンが運転室から出てきた。
ジェピット「おう、アンドファン。運転ご苦労さん」
ジェピットが真っ先に声をかけた。
クレイブル「アンドファン、本当運転うまいよなあ」
クレイブルは感心した。
ミィテ「食料を調達しましょ。服も直したいから仕立て屋にも寄りたいわ」
トウトーンの町は何やら騒がしかった。
シャペン「一体何の騒ぎだ? 何が起こってるんだ?」
住人「2人組みの山賊が町を荒らし回っているんだ」
住人「おたくらも今町に入るなら気をつけたほうがいいよ。持ち物ひったくられるからね」
ジェピット「びびることはねぇ。俺たちは」
アスベル「アシュロンだあーっ‼︎」
ぐぅーー…… ばたり。
クレイブル「また干物化してる…。使い物にならないぞ、アスベル…」
アンドファン「お、向こうからお出ましだ」
山賊の2人は斧で店のドアを壊し、食べ物や道具をせっせと袋に詰めている。
1人は背が高い猿みたいな顔をした男で、もう1人はがっちりした体型だ。
山賊「へっへっへっ。大量、大量〜!」
住人「うちの防具を返せっ、このっ‼︎」
住人はたいまつを投げつけた。だが、山賊の2人はすばしっこく走り回って当たらない。
ジェピット「さっさととっつかまえよう」
シャペン「待てこら、てめぇらーっ‼︎」
アンドファン「路地へ追い詰めよう」
逃げる2人を袋小路に追い込んだ。
山賊「あらよっと!」
軽々と塀に登り、逃げてしまった。
シャペン「あいつら、あのなりで運動神経いいのな」
クレイブル「ったく。探すぞ」
一方、空腹でフラフラのアスベルは、地面に転がる八百屋のりんごを見つけた。
アスベル「あ、食いもんだ!」
山賊「貸せ、オイラたちのだ!」
アスベルがかじりつこうとしたりんごを、山賊がヒョイと取り上げた!
アスベル「こんにゃろぉぉぉ……」
イライライライラ‼︎ ズババシッ‼︎ バシッ‼︎
山賊はアスベルの怒りを買ってしまった。
町の外で2人を縄でしばった。
ジェピット「名前は、ガベシ、もう片方はジベシと…」
ジェピットはアシュロン活動日誌にメモした。
アンドファン「メモしてるのか?」
ジェピット「日誌書くのめんどくせぇんだけど、後でジギガンさんに怒られるから仕方なく書いてんだ」
アンドファン「それなら俺も書くぞ。乗務日誌だ」
シャペン「それ電車のじゃん」
クレイブル「なんでここを荒らしてたんだ。理由を言え」
ガベシ「オイラたちはアニキの指示で仕事をしてるだけだ。ふんっ」
ジェピット「アニキってのはどこにいるんだ」
ガベシ「はっ、口が滑っちまった。アニキなんて知らん!」
ジベシ「アジトを探してみるんだな。ただし、アニキはどえらい恐ろしいからどうなっても知らねぇぞ」
シャペン「ふーん。アジトか」
ジベシ「はっ、口が滑っちまった。アジトなんて知らん!」
町長「これはこれは。ありがとうございます。お礼にご馳走させてください。娘が手料理を振舞います」
アシュロン「ガベシ、ジベシ! しばらくそこで反省してろ」
料理ができるまで、壊された町を直すのを手伝った。店の人たちはお礼にと無償で破れた服を直してくれた。今後の食料や薬草など必要な道具をくれたり、武器を修理したり、研いでくれた。
町長の家に入ると、とてもいい香り。沢山の料理がテーブルに並んでいた。
ジューシーに焼き上げたグリルチキン、シャキシャキ食感の野菜の串焼き、白身魚が入ったフィッシュチャウダー、豆のキャセロール、トウモロコシの粉を使って作ったパン。
アスベル「ごっちそうさーん! ふぅ、うまかった」
あっという間に平らげた。そのほとんどがアスベルの胃袋へ送られた。町長と娘は驚いた。
アスベル「あ、そうだ。お前らさあ、ジャルベルっていう男知らねぇか?」
町長「ジャルベル? …聞いたことがないですね」
町長の娘「何をされてる方なんですか?」
アスベル「それがさ、名前と、男ってことと、ドラゴニオンソードを使えるっていう情報しかないんだよなあ」
町長の娘「ドラゴニオンソード? すごそうな技ですね」
アンドファン「少ない情報で探すのは難しいんじゃないか」
シャペン「ジギガンさんもそのジャルベルって奴に長らく会っていないらしいな。だからジャルベルの外見は誰も予想できないんじゃねぇか?」
アスベル「くそっ! 気になんのにーっ」
ミィテ「行き詰まってるわね…」
町長「お役に立てんですまんな。そうだ、代わりと言っちゃなんだがいい話を教えましょう」
町長は、『伝説のかけら』の話を始めた。




