09 第三章 第一話 チームモノカ
「どうですか、アイネ」
「んー、もうちょっと見てみるね」
アリシエラさんから送られてきた新型魔導通信機、正式名称は魔導通信機改零式、通称マツカゼ。
ちょっとした連絡ごとがあってロイさんと話そうとしたらなぜか繋がらなかった。
小さい頃から天才魔導具技師アリシエラさんの仕事を間近で見てきたアイネは、いつもなら整備や簡単な故障程度だったらサクッと終わらせるのだけれど。
「ごめん、私じゃ無理みたい」
「いや、いつもありがとう、アイネ」
マツカゼの不調に気付いて幌馬車モードのシブマ1号を停めた私たちは、辺りに何もない荒野に野営中だ。
みんなには言っていないが、なぜか嫌な心持ちが胸の奥でうねうねしている。
チームモノカとして様々な悪党共と闘ってきたが、こんなに気持ちがざわつくのは初めてだ。
みんなに気取られないようにしないと……
「お母さん、お茶の用意できたよっ」
「ありがとう、今行くよ、マクラ」
野営地の中心、今はお外で午後のお茶。
マクラは、先日寄った大きな街の本屋で買った『最新スイーツ100選』という分厚い本に夢中。
様々な地域の様々なお菓子を、今王都で話題の菓子職人が趣向を凝らしてアレンジしたスイーツの数々。
みんなで食べるものだからみんなのお金からと言う意見を頑なに拒絶して、頑張って貯めた自分のお小遣いを使ってお菓子を振る舞ってくれるマクラ。
甘々スイーツがお母さんの涙でしょっぱくなっちゃうじゃない。
ノルシェは、広範囲魔導探査機とにらめっこ。
警戒のためにわざと見晴らしの良い荒野を野営地と定めたが、もちろん魔導探査の手は緩めちゃ駄目。
「アリシエラさんの魔導具はものすごく優秀なんですけど、感度調節が難しいんですよね」
天才魔導具技師のアリシエラさん謹製の魔導探査機は異常に高感度だ。
感度最大にすると小さな虫にまで反応して画面が真っ赤っかになったりする。
何となく感度3000倍という言葉が思い浮かんだが、もちろん口に出したりはしない。
「現在、周囲全域異常無し、です」
ちなみにノルシェは敏感肌だ。
アイネは……うぉい、なにそれすごい。
ドレスだ。いつもの白鎧ではなく純白のドレス。
「鎧、クリーニング中なの……」
「アイネお姉さん、すっごくキレイッ」
おぅ、すっごくキレイッ、だよな。
さすがはマクラ、最初に浮かんだ感想まで私と一心同体。
「まさに純白の乙女、ですねぇ」
おぅ、まさに純白っ、だよな。
よく言ったノルシェ、純潔と口を滑らせなかったのは成長の証しだ。
以前こちらを訪れたアイネの母上リノアさんが、お説教の後にアイネに渡したドレスである。
「もう少しおしとやかになれるよう、これでも着なさい」
目立つ街中では頑なに着用を拒絶したアイネがなぜ今あれを着たのかは分からぬが、
何と言いますか、チームモノカだけの特権というかご褒美というか、
つまりは最高に良いもん見させてもらってご馳走様でお腹いっぱいな気分。
「恥ずかしいから、もう着替えてくるね」
アイネの恥じらいの声を遮るように、
魔導探査機が大きな警告音を鳴らした。