02 第一章 第二話
辺りには、大量に転がった大いのししと、香ばしくて美味そうな匂い。
依頼は、怖いぐらいにあっさりと終わった。
リリシアの華麗で容赦の無い舞うような姿が駆け抜ける後には、眠るように崩れ落ちる大いのしし。
マユリの右手人差し指が光るたびに大いのししの眉間に青白い光点が灯り、立ったまま成仏する大いのしし。
俺は、彼女たちが撃ち漏らした大いのししを追いかけまわして、息が上がっていた。
「念のため……確認……しますね……」
「我が家の旦那様にはもっと持久力が必要なようだな、マユリ」
「どうして大いのししの『猪突』を『盗賊』しなかったんですか?」
おっとすっかり忘れていた。
大いのししの固有スキル『猪突』は全力疾走時間を延長出来るもの。
あれを『盗賊』していれば、こんなに息が上がった無様な姿をさらすことも無かったろう。
最近は『盗賊』に頼らずに済むよう身体能力底上げの鍛錬しかしていないので、自分の固有スキルを忘れがちだ。
息を整えてから、精一杯かっこつけてみる。
「自己鍛錬のためにも『盗賊』に頼りすぎはいけないかと。 もちろんふたりを守るためなら躊躇せず使いますよ」
「「……」」
「忘れてたんですね」
相変わらず容赦無いな、マユリ。
「これがなければ、もっと惚れ甲斐があるのだがな」
最近愛が重いですよ、リリシア。
ふたりの微妙な視線を感じながら魔導探査機を起動。
「?」
画面には、激しく点滅する赤い光点がひとつ。
さっきの探索には無かったって、いやそもそも点滅する赤い光点なんて初めて見た。
「ふたりとも、あっちの大岩に注意です。 何かとんでもないのが一匹残ってます」
臨戦態勢を取るふたり。
俺たちの前に現れたのは、ひょろりとした魔族の男がひとり。